「感想」カテゴリーアーカイブ

古くて新しい昭和『ALWAYS 三丁目の夕日』

東京タワーに仮託して。

映画『ALWAYS 三丁目の夕日』をWOWOW録画で鑑賞。古き良き日本、高度成長期の夕陽町三丁目を舞台に、人々の日常を描く。西岸良平の漫画『夕焼けの詩 – 三丁目の夕日』を原作としているが、人物設定はアレンジが加えられている。コンピューターグラフィックを多用し、リアルだけれども実在しない、異世界の昭和が見事に表現されています。

ベタではあるけど丁寧に表現された人情話を楽しみつつ、原作との違いを見つけるのも面白い。六さんが女であることより、茶川さんにロマンスがあるほうがビックリだ。

感涙必死『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ 天使たち~』

ミクロスが……。

遅ればせながら、『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ 天使たち~』を劇場で鑑賞。地球人の奴隷化を画策するロボットたちと、のび太たちが戦う。昭和の大長編『のび太と鉄人兵団』のリメイク。この頃の大長編ドラといえば、なかば神格化された名作群なわけで、これをリメイクするということは、思い出の中で超絶美化された作品と戦わなければなりません。そんな本作ですが、結論としては大変良く出来ております。オチまで知っているはずなのに、ウルッと来ました。

大筋は原作を踏襲しながらも、小ネタで笑わせ、アクションで魅せる。歩行可能な人型ロボットも、実物大の巨大ロボットも、一瞬で崩壊する超高層ビルも、瓦礫と化した街並みも実在する現代に、あえてリメイクするだけの価値ある作品になってます。今作でいちばん割を食っているのは、スネ夫の所有するロボット、ミクロス。前作では知能をもらって大活躍しているのだが、今作ではその役割が、巨大ロボ、ザンダクロスの頭脳であるピッポに割り当てられている。ここらへんは、新要素とのトレードオフなので仕方ない。エンディングで、ちょっとフォローされたましたな。それにしても、旧作ではザンダクロスの頭脳を改造して(≒洗脳して)味方にするという展開もアレでしたが、今作の萌えキャラに変身させて説得するというのも、インパクトのある展開でした。実に現代的解釈ですな。

劇場で映画を観ている途中に、大きな余震があった。上映中止になるかもと思ったけど、そのまま続行。エンターテイメントを楽しむのも、ひと苦労な世の中になりました。

ツアコンも楽じゃない『意外体験!イスタンブール』

くぅ、ぬかったわ!

岡崎大五著『意外体験!イスタンブール』を、電子書籍リーダー『GALAPAGOS(ガラパゴス)』で読む。実体験を元にしたトルコツアーエンターテイメント。トルコ旅行ツアーを、添乗員側の視点で描いている。客として参加したことのある自分には、実に興味ぶかい作品。いつも、トゥルキエ、トゥルキエ言ってるクセに、この本を読み逃していたとは、自分の情報収集能力のなさにガッカリです。イスタンブールのガラタ塔は、バスが入りにくいからツアーから外されることが多いのか。

物語は、典型的なトルコの観光ツアーを舞台に、ツアー客たちのさまざまな人間模様が交錯する。トルコの観光案内としても、大人向けのエンターテイメントとしても良作。こんな客たちが相手じゃ、添乗員も大変だ。

本書を読んで何がいちばん驚いたかって、主人公の年齢設定。そうか、この歳でもヤングなんだね。

映画『第9地区』エイリアン暮らしも難儀だナァ

エビ野郎、悪くない。

映画『第9地区』をWOWOW録画にて鑑賞。ある日、宇宙船が都市上空に出現してさあ大変……という展開は、『幼年期の終わり』を筆頭に、よくあるパターンではありますが、この映画の宇宙船はよりにもよって、南アフリカのヨハネスブルグに出現。しかも、宇宙船に乗っているのは労働者階級らしく、指導者がいない。よって、すごい科学力はあるのに地球人にいいように「保護」されている。知性はあるけど、人間ではない彼らは、劣悪な環境で隔離されているのだが、宇宙人を管理する組織の主人公がかかわることで大事件に発展する。テレビや記録映像風のパッチワークから、徐々に物語の世界へ誘われていく。ここらへんの流れが面白いので、ぜひ本編を観ていただきたい。最終的な落とし所が、融和なのか対立なのか、はっきりしないあたりがスッキリしませんが、そこらへんは某国の某隔離政策がなくなった後の世界が目安となるのでしょう。

なんだか虐殺を見たようだ『戦場でワルツを』

ハードボイルドな戦場残酷物語。

イスラエルのアニメーション映画『戦場でワルツを』をWOWOW録画で観る。1982年のレバノン内戦を題材にしたドキュメンタリーなのだが、ラストシーンをのぞく全てがアニメーションという異色作。実写トレースをアニメ化しているので、リアルなタッチのキャラクターがウネウネ動く。主人公の映画監督が、実体験したはずなのに忘れてしまったレバノン内戦を、戦友たちの証言をもとに想起して行く。実体験と妄想が混濁した無情の戦場で、やがて虐殺が行われたことが明らかになっていく。スタイリッシュな映像で、エグい戦争体験が描かれるのが、独特のカタルシスを与えてくれる。後味のいい作品ではありませんが、メルカバ戦車がやられメカだったり、イスラエル兵がダメに描かれていたりと、自虐っぷりが興味ぶかい。史実としてのレバノン内戦を勉強しておくと、より楽しめると思います。

デタラメすぎて損はない『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』

頼りになる!

映画『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』日本語吹き替え版を、『Apple TV』のレンタルで鑑賞。ハンニバル・スミス大佐率いる、凄腕のチームが、濡れ衣を晴らすために大活躍。同名のテレビドラマを観ていた世代としては、役者総入れ替えの新作には期待半分、不安半分というところ。そもそもテレビドラマ版は、日本でのローカライズで一部のキャラにニックネームが追加されるなど、けっこう手が入っていたらしい。コングはバラカス、クレイジーモンキーはマードックが正式名。

新シリーズの導入として作られているので、キャラクター同士の出会いからスタート。冒頭、いきなりバラカスが何の躊躇もなくマードックの操るヘリコプターに乗ったので、何事かと思ったら、そういうことか。ハリウッド映画らしく、ド派手な演出はされているものの、キャラクター性は健在。もし万が一、撃墜された飛行機から戦車で放り出されることがあったら、湖に軟着水する方法の参考になるかも?

日本語版は、声優も総入れ替えされてるのだが、重要なキャラに旧作の声が使われていたり、ニヤリとさせられるサプライズがあったりと、旧作ファンへのサービスも怠りなし。なぜかキッズ映画になっていたリメイク版『サンダーバード』みたいな「コレジャナイ感」はないので、この勢いのままテレビ版の新シリーズも期待したいところですな。

『逓信総合博物館ていぱーく』で、年賀まみれと謎の赤バイク

更新せよ!

東京、大手町にある『ていぱーく』こと『逓信総合博物館』へ行く。情報通信関係の博物館ということで、前から気になっていたのだが、ついに来訪叶う。入場料は大人110円。微妙な値段だと思ったが、中は予想以上に充実。期間限定の『年賀博覧会』では、歴代の年賀ハガキがズラリ。戦前の年賀状はお早めにポスターや、切手部分の原画が展示されていたりと、ここでしか見られない資料が満載であった。

常設展示は、日本郵政、NHK、NTT東日本がそれぞれ趣向を凝らした情報通信に関する展示をしている。面白いっちゃあ面白いのだが、展示内容にムラがあって、通信ケーブルの輪切りが並んでいたり、一角だけ展示物すべてに数分の説明アニメーションが用意されていたり、ひたすら世界のポストが並んでいたりと、なかなかにカオス。特にビビッたのは、3階にある「郵便配達シミュレーター」。本物っぽい郵便バイクを操作して、仮想空間で郵便配達を体験できる。えらく気合いの入った筐体にまたがり、ゲームスターとすると、Windows 95時代もかくやという、しょんぼりな3Dグラフィックによるレトロ感満点なバーチャル体験ができます。おそらく、設置してからソフトウェアを更新してないのだろうけど、これだけ立派な筐体に、これだけしょんぼりなソフトを載せたままというのが、箱だけ作ってあとは放置っていう状態を象徴しているように思いました。もったいない。

淡々と独裁者『劇画ヒットラー』

いちばんいいのはしゃべり方を心得ている労働者だ、脳ミソはたいして必要としない。

水木しげる著『劇画ヒットラー』を読む。第一次世界大戦後、売れない画家だったドイツ人青年が、かの悪名高き独裁者となり、破滅するまでを描く。記録をもとに淡々と描写されるため、英雄ではなく、悪魔でもない、当時の社会情勢が産んだ、いびつな権力者として描かれている。

水木しげるの戦記マンガというと、戦艦の描写には気合いが入っているけど、戦車はいまいちおざなりな印象があるのだけれど、本作は戦車もきちんと描かれてますな。

絵物語で戦争体験『水木しげるのラバウル戦記』

カラーイラスト有り。

水木しげる著『水木しげるのラバウル戦記』を読む。自伝的作品ではありますが、マンガでもエッセイでもない、従軍中に書いた絵に文章をつけた絵物語風の読み物です。南方戦線に従軍した著者が、現地の人々と交流しながら上官に殴られまくり、敗走しまくりの物語。命を危険にさらす環境でも、しぶとく絵を描き現地民とコミュニケートする様に、執念というか独特の美意識を感じました。

自伝系の作品はあらかた読んだので、そろそろ別なやつに手を出してみるかな。