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鎌倉を舞台にした【短編小説】『死神俥夫は眠れない』を公開 #twnovel

道楽の邪魔はさせません!

みじかい小説を書いてみました。炎上案件で疲れた青年が、鎌倉駅のホームでみかけた白い女性俥夫の人力俥に乗って、夜の鎌倉をめぐる物語です。

死神俥夫は眠れない

郁雄/吉武

 横須賀線の車窓に側頭をつきながら、流れる鎌倉の夜をながめている。
北鎌倉側から鎌倉駅のすぐ手前に、朽ちた洋館があったはずだ。
子供のころから廃屋だったあの館は、はじめから廃墟の姿で建てられていたのかもしれないな。
そんな想いをたゆたわせていると、いつしか電車は鎌倉駅をすぎ、逗子駅へと到着するところだった──。

──次に意識を取りもどすと、下りの電車は、上りに変わっていた。
西田解(かい)は鎌倉駅で東京行きの電車を降り、ホームの北側で、闇に流れる二筋の線路をながめている。
──また、切り戻しだな──。
帰宅ラッシュの時間はとうにすぎている。ひと気のないホーム北端のさらに先には、東側の小町通りと西側とを結ぶ踏切があり、ときおり、ひとや自動車がわたっていく。
青年は無意識のうちにズボンのポケットに手をつっこみ、じゃらつく感触をたしかめる。四角い穴のあいた金属片が六枚、たしかにあった。
アナウンスが横須賀行きの列車が到着することを告げると、北端の踏切が鳴りはじめ、遮断機がおりる。
そう言えば、あの踏切の小町通り側に、例の洋館があったはずだ。
やがて北鎌倉側の闇から、光る大蛇のような電車が流れてきた。
現場に缶詰になって三日。仮眠はとっていても、疲労が蓄積していた。
システム障害からの切り戻し作業はまだ完全には終わっていないが、ひとまず自宅に戻れる。残件である、成果物せいかぶつの納品手順を思い浮かべながら、接近する電車を見つめていると──。
不意に、足元でなにかがきしむ音がして、体がふらつく。
傾斜する視界の先に、先頭車両の閃光が近づいてくる。
拡大する電車の脇に、白いなにかがみえた気がした。
衝撃で正気を取りもどすと、西田はホームの縁で尻もちをついており、眼前では減速した横須賀線が停車するところだった。起き上がり、あらためて踏切の先を凝視する。
そこにあるのは廃屋ではなく、白い洋館。
玄関前に、白い人力俥と俥夫が客待ちをしていた。
思わず、ホームを飛びおりようとしかけたが、思いなおして反対方向、ホームのなかごろにある改札口をめざす。
西口改札を出て、旧鎌倉駅舎の時計塔が飾られた広場の脇を抜け、横須賀線のホームを右手にみながら自転車のならぶ小道を北に駆ける。
思った以上に距離がある。北端の踏切につくころには、かるく息が上がっていた。
闇に浮かぶ白い洋館の前に、俥夫と人力車は、たしかにいる。
洋館は最近改装されたというより、最初からこうだったと言わんばかりのたたずまいだ。
さきほど見おろしていたホームの突端を見あげながら、踏切へはいる。
背後で警報器が鳴りはじめた。
西田が小町通り側に駆け込むと同時に、遮断機が背後をふさぐ。銀色のゲートを抜け、一直線に俥夫の元へ進む。
観光地の俥夫と言えば、浅黒く日焼けた男性のイメージだったが、白装束の俥夫は、若い女性だった。
二十六歳の西田と同年代か、わずかに若い。
人力俥も俥夫も、真珠のような光沢をはなつ白を基調とし、要所を黒と茶と金で締めている。
なにより目を惹くのは、女俥夫の整った顔立ちと、街灯に照らされた白い肌。長い黒髪は後頭部でまとめられ、白い法被には白鳩屋と刺繍されている。
色白の女性であることは異質だが、鍛錬された体躯と、凛としたたたずまいには、無言の安心感がただよう。
「あの、西田と申しますが……」
そう言いかけてから、自分がなぜ、ここへはせ参じたか、その理由が思い出せなかった。
大切ななにかを切望していたことだけが強く脳裏に浮かぶのみだ。
西田が言葉を紡ぐより先に、女俥夫がよく通る声音で告げる。
「いらっしゃい。白鳩屋、夜の鎌倉巡行です。行き先はおまかせ、お代は六文になります」
六文? 二十一世紀の日本で、おかしなことを言うなと思いながら、癖でズボンのポケットに手をつっこむと、なかから寛永通宝と刻まれた古銭が六枚、出てきた。
「お、お願いします」
わけがわからないが、そのまま差し出す。
「文銭六枚、たしかに頂戴いたしました。では、梶棒の間に前をむいて立ち、うしろむきにお乗りください」
女俥夫は、白い人力俥の車軸に引っかけてあった踏み台をおろし、車体をおさえて乗車をすすめる。
よくある人力俥はふたり乗りだった気がするが、これはひとり乗り。
後傾した幌に囲まれた白い椅子を背にして、おっかなびっくり俥に乗ると、板ばねがふわりと衝撃を吸いこむ。
中背の体がぴたりと嵌まった。背もたれに身をしずめて周囲を見わたすと、自転車や自動車よりも視線が高い。
女俥夫は、白い膝掛けで西田の下半身を覆うと、両脇の隙間を埋めるように端をおさめる。じんわりとしたぬくもりが心地よい。
「……申し遅れましたがわたくし、白鳩屋の俥夫、小鳩こばとと申します。以後、お見知りおきを」
小鳩と名乗った女俥夫は、手漉き和紙の名刺をくれた。
静かに梶棒が上がり、前傾していた人力俥が水平になる。
俥載灯から白光がはなたれると、俥はゆるりと前進をはじめた。
なめらかな歩調にあわせて、小鳩の口上が流れだす。
「夜分遅くのご乗俥、ありがとうございます。今宵は白鳩屋の小鳩が、夜の鎌倉をご案内させていただきます」
昼間なら観光客でごったがえす界隈も、いまは家路を急ぐまばらな人影がみえるのみだ。
俥がスーツ姿の中年男性を追い抜くと、ぎょっとした視線がむけられる。
小町通りのメインストリートを直角に横切ると、二体の狛犬と赤い大鳥居がみえてきた。信号をわたって小鳩が俥を停めたのは、左右の車道にはさまれた参道の入口。
小鳩はくるりと振りむき、後ろ手に梶棒をつかみながら、西田と正対する。
「こちらは鎌倉を南北に貫く若宮大路のなかごろ、みっつある鳥居のうちふたつ目、参道である段葛だんかづら入口にある二の鳥居です。鶴岡八幡宮前にあるのが三の鳥居、海岸の近くにあるのが一の鳥居となります。二、三の鳥居は鉄筋コンクリート造りとなっておりますが、一の鳥居のみ石組みとなっております」
彼女が示す先には海までつづく若宮大路がのびているが、赤信号がならぶのみで、一の鳥居とやらはよくみえない。
一拍おいて、小鳩は声音を低く落とす。
「元来、みっつの鳥居はすべて石造りでしたが、関東大震災で倒壊し、一の鳥居のみ元の石材を組み直して再建されました。破壊と再生、あるいは荒廃と消滅……。一の鳥居のほど近くに、磯野と標札がかかげられた廃屋、通称サザエさんの家がございます。家人が心中した、無人であるはずの廃屋に人影をみた、などの噂が絶えない場所として全国的に知られております。ご存知ですか?」
「い、いえ、知りません」
「そうですか。残念ながら、通称サザエさんの家は、火災により取り壊されてしまいました。著名な心霊スポットですので、希望されるなら跡地へむかいますが……ご興味はなさそうですね」
西田の淡泊な反応をみて、小鳩は気にしたふうもなく、俥を曳きはじめた。
若宮大路をわたりきり、教会の十字架を左手にみながら道をさらに進むと、左右につづく道と、ちいさな神社に突きあたる。
大通りから外れると、とたんに虫の音が高く響きはじめた。
俥は右折して南に進む。幾重もの電線が頭上をわたり、厚く覆われた雲はいまにも泣きだしそうだ。
人力俥は夜の鎌倉を次々と進む。
この寺は、鎌倉時代に謀殺された比企一族の居館があった。この寺では尼僧が、斬首されそうになった日蓮上人に胡麻ぼたもちを振る舞うことで法難を逃れた。この寺は江戸時代末期、桜田門外の変で井伊直弼を暗殺しようとした浪士がかくまわれていたが、仲間が死刑になったことを知って切腹した……などなど。
死と伝承とオカルトに満ちた夜の鎌倉を案内する、というのが趣旨のようだった。
小鳩の曳く快適な俥と巧みな口上に、退屈はしなかったが、期待したものとなにかがちがう。
「お客さんは、このあたりの方ですか?」
小鳩がそう問いかけてきたのは、長い直線のゆるいのぼり坂。方角的には西、逗子市へむかっている。
「はい、横須賀です。小鳩さん……は、俥夫歴は長いんですか?」
会話をかわすうちに、西田もいくらか打ち解けてきていた。
小鳩は、前をむいたままこたえる。
「まだ新米ですよ。兼業なもので、夜間限定で個人俥夫をやらせていただいております」
「ほかに、お仕事を?」
しばしの間をおき、小鳩がふり返る。
「……忘れん坊さんには、ナイショです」
そう言って、子供っぽく人差し指を頬にあてると、にっこり笑って会話を打ち切った。
意味がわからないが、追求もできない。
俥は踏切をわたり、大きく左にカーブする。鎌倉材木座霊園入口と書かれた看板の脇を進むと、急なのぼり坂の先に巨大な清掃工場の煙突と、黒塗りの山がみえてくる。
この先になにがあるかは、オカルトにさして興味がない西田でも知っていた。本日の目玉と言える場所、小坪トンネルだ。

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小説『クイックハルト』がみんなの本町で無償公開中 #twnovel

自著が書店に並んだり、書評をしていただいたりしたのは貴重な経験。

2006年に上梓した拙著『クイックハルト』が、みんなの本町というサイトで公開中。ユーザー登録が必要ですが、全編無償で読めます。評価の星マークをつけていただければ、数が多いだけ評価が上がるシステムです。

昭和、平成時代をモデルにしたバーチャル世界を舞台にした物語。自著が書店に並んだり、書評をしていただいたりしたのは貴重な経験。2013年、スタジオジブリの『風立ちぬ』より先に、堀越二郎技師をモチーフにした堀越レイアというキャラを出したことと、執筆当時はまだ開発中だったボーイング787旅客機を作中に登場させて、無事2011年に就航したのは、書いておいてよかったと思います。

クイックハルト

本編の外伝作品2作やレビューは、以下のページから読めます。

初心者には気をつけろ!

「初心者です、〇〇について教えてください」

そんな要請があった場合、僕は非常に警戒します。問われていることについて知識がなければ、当然、答えようがないわけですが、自分にあるていど知識がある場合でも、うかつに「わかりやすく」答えるのは危険。こちらが初歩的なところから説明して、それが相手の知ってることだったりしようものなら、初心者様は「××は知ってます、私が知りたいのは□□です」なんておっしゃってくる。

こういう反応を何度かされて思うのは、自称「初心者」というのは傷つきたくない人の防御反応なんだな、ということ。初心者ですとアピールすることで、自分の無知が許される。でも、それはプライドの高さの裏返しでもあるので、自分が知ってることを説明されると、知識水準が低いと判断されたと思い、つい「そんなことは知っている!」と反論してしまう。初心者だと自称するなら、たとえ自分が知ってることでも、わざわざ教えてくれた相手を傷つけないように注意しつつ、本当に自分が知りたい答えをもとめる、ぐらいの覚悟が欲しいものです。

そもそも、初心者という概念が、何を基準にしているのか不明確。パソコン初心者やスマホ初心者とされる人が、機器にほとんど触ったことがないという意味で初心者なのか、基本的なアプリは使えるけど、システムの深いレベルでのカスタマイズはしたことがない、という意味での初心者なのか、「初心者です」のひとことでは、すぐに判断できません。

なので僕自身が質問者となる場合は、初心者ですという前置きはせず、自分がどの程度のスキルがあるのか説明してから、質問するようにしています。初心者とは、質問に答える側が「ああ、コイツ初心者だな」と判断することであって、質問する側が「初心者です」と主張するものではない、というのが僕の結論です。自称「初心者」には気をつけろ!

『願望』Twitterで小説を:その201~210 #twnovel

ペースが落ちてきたけど、質が上がっているかというと……。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

201)●真意:十数年前に設置されたオブジェが、昨年から五色の輝きを放ち、右から熱風を、左から冷風を吐くようになった。エネルギーの浪費だと批判が殺到したが、市は設置を続けている。「これは全国の節電状況に応じて動くオブジェです」と、担当者のコメント。 タイトルは〈節電〉。

202)●眼鏡風呂:「銭湯に行く時、眼鏡はかける?」「いや、外してる」「君の視力じゃ、何も見えないでしょ!」「0.1でも、輪郭はわかるさ」「男の園が全モザイクなんてサギよ、返品よ!」異性の友人が、銭湯に抱くファンタジーなぞ知りたくもないが……。「テメェで、腐れ生やせ!」

203)●宇宙鰻:「ウナギって、生態が不明だったから、宇宙生物って説があるんだよ」「あながち間違いではないな」そう言いながら二人が食べる蒲焼きは、文字通りの宇宙産。一時は絶滅が危惧されたウナギだが、無重力が稚魚の育成に適していることが判明し、ふたたび大衆魚となっている。

204)●ソレモ:その店には、ソレモという裏メニューがあるらしい。「あの、ソレモを」「ソーダですか?」「は、はい」出されたのは、ただのソーダ水。「これがソレモ?」「店内の隠語で、追加用のソーダをソレモと呼びます。お客様が真似される必要はありませんよ」「……ソレモソーダ」

205)●ジブリの谷:「こないだ観たアニメ映画だけど、スタジオジブリっぽい絵柄なのに、ベッドシーンがあったりして、妙な違和感があったよ」「ジブリの谷現象だね。ジブリ作品に似れば似るほど、異なる部分が目立つのさ」「それを言うなら、最近のジブリ自身、ジブリの谷な気がするよ」

206)●元年:全世界が電子書籍元年となった。すべての書籍に電子化が義務づけられ、紙の書籍は発禁となる。「やっと、ですね」「普及のためとはいえ、ここまでする必要があったのか?」紙を腐食、分解するバクテリアの蔓延により、書籍の三分の二が消滅し、人類はようやく紙と決別した。

207)●代役:寝所の脇に立つ男が短剣を突きおろすと、視界がゆがむ。奴は大仰に低頭し、朽ちかけた余の代わりに、最後の台詞を口にする。「余は二人も要らぬ」奴は余だ。余を知りつくした、完璧な代役だ。その思考が、奴に余を殺させた。理解できる。余も、先代の余を弑逆したのだから。

208)●私道:『通り抜けはお勧めしません』と、私道に立看板。「不可でも禁止でもなく、非推奨なんだ」「近道だし、通っちまおうぜ」だが、道を抜けた二人が、現世に戻ることはなかった。冥界へ直結する「死道」。杜撰な管理が指摘されるのは、死後の世界が証明されてからのことである。

209)●益化:「この益虫、サイコーに逝けすぎィ!」薬剤では耐性と中毒性が増すばかり。患者は増加を続け、社会機構は崩壊寸前だ。「益虫サマに、最・敬・礼ッ!」遺伝子操作によって生まれた、刺されてもかゆくならない『蚊』は、幻覚作用を持つ害虫として世界中で猛威を振るっている。

210)●願望:「このゲームの最新作って、ネットに繋がなくても遊べるよね?」「オフラインモードもあるけど、オンラインが本番だよ」「オフラインで遊べるんだよね!」「うん。でも、レベル制限があるしオンラインじゃないと……」「オフライン!」「ゴメン、君が望むゲームじゃないね」

『託卵』Twitterで小説を:その191~200 #twnovel

200話達成。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

191)○蚊連草:「ツンとした匂いがするわ」「蚊連草さ。人工的に造られた、蚊に刺されにくくなる草だよ」「蚊が嫌がるの?」「いや、二酸化炭素の感知力を鈍らせるのさ」「……それよりあなた、さっきから声はするけど姿が見えないわ」「蚊連草は、知能を持たせた蚊にも有効みたいだね」

192)●超神:超越の神『プル』は、簡潔を極めている。先のスギアーツ戦役では、魔人軍第十三集団による百八の奇陣を、熟慮ある即決で、直進強行軍により粉砕した。虚飾なく、躊躇なく、最短を穿つ超神プル。「さすが、超シンプルな神様ね」「そのシャレを言うためだけの、厨二設定か!」

193)●コスト優先:自動操縦の格安宇宙船が就航した。『はい、サービスセンターです』「大変だ、船が燃えている!」『脱出ポッドはオプション料金となりますが』「頼む!」『ただいま、別なお客様が自動消火オプションを選択されました。脱出されますか?』「……自爆オプションを頼む」

194)●託卵:頭の中へ、クモに卵を産みつけたられたよ。頭蓋の内に貼りついた、 繭玉のようなソレが孵化したんだ。脳味噌をかじって、小グモたちは育っているよ。耳鼻の穴から這い出てくると、義務を果たしたって感じだね。妄想だって? いま、君にも植え付けたから、じきにわかるよ。

195)●古拙:「これは?」「僕が初めて成功した奴。出来は及第ギリギリだけど」「青くて綺麗。でも、壊れそう」「うん。これで色々学んだよ。だから、不出来でも最後まで見守ろうと思ってね」「あ、色が変わった!」「ここまでか……。まぁ、出来の割には健闘したと思うよ。この地球は」

196)○連鎖:『子供が憎い親なんていない』そんなドラマの決まり文句に、反吐が出る。親は私を産まなければ良かったと、直に言う人たちだった。親に反感を抱きながら、私自身が親となり、やはり子供を憎むようになった。だから私はドラマの脚本に書く。『子供が憎い親なんていない』と。

197)●解消:エレベーターにて。「あ、違う階を押しちゃった」「ボタン連打か、長押しでキャンセルできるよ」「おお、さすが!」「大抵は、どちらかのコマンドで消せるね。ところで、どこへ向かってるの?」「そりゃ、地獄さ。エレベーター爆破犯の君が、天国に行っちゃマズイでしょ?」

198)●青空:濃密なガスが薄れ、抜けるような青空がのぞく。「疑似好天だ。すぐに荒れますよ」新人の指摘に隊長は笑むと、手にしたピッケルを青空に投擲した。鋭利な先端が天を貫き、文字通り青空が抜け落ちる。パーティは戦闘態勢を整え、稜線を這う「魔の青空」へアタックを開始した。

199)●気軽な選択:「あの店に寄ってみましょうよ」「すごい行列だな。何の店?」「気軽にアレできる店よ」「大行列に並ぶのは、気軽じゃないよ」「じゃ、また後でね」彼女と別れて見上げた空に、いびつな岩塊が浮かぶ。じきにあの小惑星が激突する。気軽に自殺するなら、アレで十分だ。

200)●幸運:焚火の前でかがむと、縁石の裏に古びた封筒を見つける。中身は紙幣で百万。添えられた手紙には、『この幸運を何に使うかはあなた次第です』とある。即座に炎へ投じ、暖の足しにした。百兆すら紙くず同然という、超インフレの世。時代遅れの幸運が、ゆっくり灰と化して行く。

『チラシ』Twitterで小説を:その181~190 #twnovel

200本まであと少し。

181)●漂着物:津波で流された船が、アラスカの海岸に漂着し、持ち主に返還された。「よくよく、水難に見舞われる船だな」「彼らは気づかなかったのでしょうか?」「偽装は完璧だよ」「あるいは、気づいたのかも」「何にだい?」「ノアの方舟がある場所で、大洪水が起こることを、です」

182)●父の日:父が再婚すると聞いた時、素直に祝福できなかった。ゴネるような歳ではなかったけれど、無性に許せなかった。「今思えば、女としての嫉妬よね」未だにお母さんとは呼べないけれど、友達にはなれたと思う。父の日に義母と一緒に食事をするのが、ささやかな意地悪と供養だ。

183)●幸運:同僚が、一億の宝くじを当てたという噂だ。仕事を辞める様子はないが、聞いても曖昧な返事をするばかり。「実際、どうなんだ?」酒の席で訊ねると、同僚は酔った勢いのまま語る。「根暗な俺に、男も女も寄ってくるんだから、ありがたいよ。一億の借金も帳消しになったしな」

184)○孤高:荒野で、騎士と出会う。武技は冴え、礼節と闘志を秘めた信義の騎士。しばし語らい、別れの際に。「私は騎士道に真摯であるが故に、今も正気の檻に囚われている。だが同輩は、その限りではない。二度と語らいなど望まぬことだ」亡者の騎士は忠告を残し、古戦場の宵に溶けた。

185)●消失:クラウド上に保存したデータが、バックアップも含め、完全に飛んだらしい。職場は騒然としていたが、消えたものは仕方ない。「やってられませんよ!」翼を黒く染めて堕天する若手を横目に、 私は世界の再創世を開始する。五千年もあれば、人類は再び文明を築くことだろう。

186)●複製:地球は限界を超えていた。資源は枯渇し、多くの生物が絶滅した。「そこで、スペアの地球が登場しますよ!」「ずいぶん手回しが良いな」「私も下っ端・オブ・ゴッドですから。複製はカンペキ!」「つまり、諸々の問題も複製ずみと」「うっ……か、完全主義者ですから、神は」

187)●不可避:「以前は週一回、じっくり全身をなめ廻されるか、その日の待ち伏せから逃げれば済んだの。でも今度は、全身をなめ終えなければ、毎日やってくるのよ」「何それ。ストーカー? 変質者?」「いえ、職場パソコンの、定期ウイルスチェックの話。終わるまで、操作が重くって」

188)●チラシ:「どうぞ」なにげなくチラシを受け取ると、販売員が目を輝かせてついて来る。必死で何やら勧めていた。「せめて、チラシをご覧ください」仕方なく、紙片を見やると、彼は転落するように車道へ身を投じる。それが致死性図形『散死(チラシ)』による、最初の犠牲者だった。

189)●リス:「逃亡したリスの捕獲、完了しました」「何匹だ?」「三〇匹中、三八匹です」「少ないな」「?……逃げたのは三〇匹ですが。残りは野生のリスかと」「すべて捕獲せよ。でなければ一帯を焼き払え。我ら、高度な知性と増殖力を持つリスの存在を、まだ人類に知られてはならぬ」

190)●うるう秒:その日、日本時間午前8時59分59秒と9時0分0秒の間に60秒目が挿入された。「別に関係ないだろ?」「君は気楽だな。俺は、うるう秒対策でヘトヘトさ」「お前の仕事、宗教関係って言ってなかったか?」「ああ。神様が定める運命にも、時刻の管理は重要なんだぜ」

『電子徴兵』Twitterで小説を:その171~180 #twnovel

質は良くなってきたので、生産性を高めたい。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

171)●絶滅要因:「生命の大量絶滅は、過去に何度も発生しています。では、もっとも最近発生した大量絶滅の原因は?」「はい、巨大隕石の落下です」「それは前々回、恐竜絶滅の原因と言われています。わかりませんか? それでは次回までに、前世人類が絶滅した理由を調べてくるように」

172)●塔頂:一般には知られていないが、その塔には頂上直通の、専用エレベーターが設けられている。第二展望台を通過し、第一展望台を抜け、塔の頂上を越えてもなお、エレベーターは止まらない。大地が円弧を描く、宇宙と呼べる高みの先に、全権大使としての私の交渉相手が待っている。

173)●感知猫:「ウチの猫は、地震が起こる前に避難するんだぜ」「すごい、野生のチカラだね」そう言ってるそばで、くだんの猫が居間から飛び出し、猛ダッシュでテーブルの下に飛び込む。直後に軽い揺れ。「な、本当だろ?」「……すごいけどさ、あれって緊急地震速報のチカラだよね?」

174)●喫煙所:「火、お借りできます?」「すいません、タバコは吸わないもので」「持っている方、いらっしゃいますか?」「ここにはいないと思いますよ」「そうですか。失礼ですが、あなたはなぜ、この場所に?」「除霊ですよ。喫煙所で火を貸すと、霊に取り殺されてしまう廃ビルのね」

175)○スロウパンク:王の道を穿ち、斜塔が出現した。「これは棘のようなもの。放置すれば千年のち、無理に除けば即、災いとなるだろう」占術師は忠告したが、王の怒りを畏れた巡察官は破壊を命じる。果たせるかな、基部を砕くと多量の星気が噴出し、王の星は王もろともに裂けて散った。

176)○マフラー:アクセルを沈めると、野太く官能的なサウンドが吹き上がる。途端に、愛車が強大なトルクで加速した。だが、さらに踏み込むと不意に爆音が途切れ、風切音とともに加速だけが継続される。故障かよ。せっかく新型の音響マフラーをつけたのに、これだから電気自動車は……。

177)○電子徴兵:召集令状が来た。徴兵センターで個人情報を登録する。僕の分身が兵士となって、仮想世界で参戦するのだ。数ヶ月後、僕の元に、僕の戦死通知が届いた。「そうですか……」何の感慨もなくつぶやくと、通知を手渡した兵士が拳銃を向ける。僕と同じ顔が、憎悪に歪んでいた。

178)●the Movie:『映画泥棒 the Movie』という、スマートフォンアプリに惹かれる。元から映画だろとツッコミながら起動すると、中身はよくある絵合わせパズル。それが、アドレス帳を勝手に転送する違法アプリと知って、僕は叫んだ。「NO MORE 情報泥棒!」

179)○死への道:誰にも迷惑をかけずに、死のうと思う。自殺は怖ろしい。死刑になるための殺人など論外。仕方なくまじめに働き、結婚してささやかな家庭を築く。子供が生まれ、孫が出来、老いて死の床に就いた。みなが泣いている。結局は迷惑をかけてしまったが、気分は意外と悪くない。

180)●大事な彼女:私の彼は、暇さえあればパソコンをカタカタやっている。「私と、どちらが大事なの?」「ごめん、もう止めるよ。おやすみ」彼は名残惜しそうに、パソコンを終了させる。私も寝よう。白む意識の片隅で、理解不能な声音が響く。『ヤハリ、人工知能ダト認識サセルベキカ』

『鼓動』Twitterで小説を:その161~170 #twnovel

トップツイートから除外されない単語を選択しないと。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

161)●保険交渉:「甲種保険の適用をお願いします」『どういう状況でしたか?』「それが、気づいた時にはもう……」『そういう方、多いんです。では、甲種に直接聞いてみては?』言われるままに、左手の甲を見る。甲種呪詛により仮初めの命を宿した人面瘡は、「知らんね」と鼻で笑った。

162)●コンプガチャ:あと一枚でカードがそろう。端末を握りしめ、新たなカードパックを購入。クズの山を築きながら最後の一枚を開くと、狙う「退」のカード。さっそく合体カード「退会完了」を発動。退会すらコンプを求める鬼畜仕様が好きだったけど、コンプガチャ終了なら未練はない。

163)●不審者情報:【発生時刻】午前0時頃【不審者】黒コートの女性(年齢不詳)【被害者】児童1名【状況】通学中の児童に声をかけた女が、「滅せよ人類の敵め!」などと叫びながら、銀製の杭を児童の胸部に突き立てようとした。児童の反撃により、旧人類は我が夜の眷属へと転化した。

164)●不死者情報:【発生時刻】午前0時頃【不死者】小学生型【被害者】退魔協会職員の女性【状況】警戒巡回中の職員が、児童から転化した不死汚染者と遭遇。駆除を試みたが、不死者は夜の王直属の精鋭であったため、職員は不死汚染を受けた模様。人類は不死者共に屈するしかないのか。

165)●BBQ:毎年、母に連れられて行くバーベキュー大会で、いつも肉を焼いてくれるおじさんがいた。分別がつくにつれ、その人が本当の父ではないかと思うようになっていた。けど、違った。金網の上で、一番美味しく焼けた肉だけを食べるように、けだものが私の肢体をむさぼっている。

166)●木漏れ日:徹夜明けで帰宅中。今朝は932年ぶりの金環日食だが、疲労が蓄積し、空を見上げる気分じゃない。「ほら見て、すごいよ!」子供が指差す地面の先で、木漏れ日が無数の円環を刻んでいる。ピンホールカメラの原理だ。そうか、俯いていても、空を知ることはできるんだな。

167)●新塔:その塔は、串の先端に団子を刺したような形状をしている。「これが、東京スカイツリー?」「こちらでしたら、待たずに頂上まで登れます」「634メートルないよね?」「63.4メートルです」「あの丸い部分の、緑と黒の縞模様は?」「本塔は、東京スイカツリーですので」

168)○御食D亭:アミノ酸にはT型とD型があり、生命体は決まってT型で構成されている。「何でD型の生命体がいないかって? そりゃ美味すぎるからさ」その料亭は、D型アミノ酸で合成された食材の専門店だ。体内で消化吸収されない、美食のための美食として、一部で愛好されている。

169)●冤罪:満員電車の人混みから声がする。「この人、痴漢です!」「何言ってんだ、やってないぞ」声はすれども、当事者たちの姿は見えない。言い争いが続いたが、駅につくと静かになる。窓外を見ると、男が駅員に何事か訴えている。「痴漢です!」「いや違う」実に見事な一人芝居だ。

170)●鼓動:徹夜仕事が続く。「その顔色で大丈夫?」「仕事だしな」そう言って一時帰宅した同僚が、遺体で発見された。死亡推定時刻は、一週間前だという。この忙しさでは、死んだことにも気づくまい。試しに自分の胸に、土気色の手を当ててみる……やっぱりな。さて、仕事でもするか。

日本とトルコの交流物語『海の翼』

エルトゥールル号って正確に言えるようになったのは、つい最近のことです。

秋月達郎著『海の翼』を読む。イラン・イラク戦争時に日本人を救援してくれた、トルコ航空機の活躍と、その「恩返し」の元となった、明治時代に和歌山県沖で遭難したトルコの軍艦、エルトゥールル号の救出活動を軸に、日本とトルコの交流を描く。トルコは親日国として有名ですが、日本は親トルコというほどではない。多くの日本人にとって、トルコは興味のない国か、せいぜい観光地のひとつ、ぐらいでしょう。そんな日本人むけに、史実を踏まえて物語り仕立てで読みやすく描かれています。

トルコ革命前のオスマントルコ時代が舞台なのに、のちの初代大統領ムスタファ・ケマルをアタチュルク(父なるトルコ人の意、革命後に贈られた姓名)と呼んだり、日本人には言いづらいであろう「エルトゥールル号」という原音にちかい呼び名を当時の漁民が即座に理解したりと、トルコの歴史をかじっていると違和感を感じるシーンもありますが、わかりやすさを優先するなら、これぐらい大胆にデフォルメする必要があるのかも。

和歌山県の串本町に行ったばかりなので、イメージをつかみやすい歴史小説でした。