大人向けだから、許されるのだろうか?
プレステ3のアドベンチャーゲーム『L.A.ノワール』をクリア。オープンワールドで再現された広大な1947年のロサンゼルスを舞台に、沖縄帰還兵の刑事、コール・フェルプスが様々な事件に挑む。最初はパトロール課の警官から、交通課、殺人課、風紀犯罪課、放火特捜課と、さまざまな部署を遍歴する。当然、ステップアップするごとに事件の難易度は高まり、背後にある巨大な悪との対決姿勢が強まっていく。
流れとしては、事件発生後に現場を調査し、関係者を尋問して、カーチェイスや銃撃戦を経て事件を解決するのが基本。一般的なアドベンチャーなら現場への移動は一瞬なものが多いですが、本作では警察署から現場まで車で移動できる。ロサンゼルスの街は非常に精緻に造形されており、マップを使い回しているような場所は皆無。一般人や道行く車もちゃんといるので、生活感も出てる。よくもまあ、ここまで造り込んだものだと、感心を通りこして呆れるレベルです。
ただ、この移動シーンがゲームのテンポを悪くしているのも事実。さっさと話を進めたいのに移動で時間を取られるのはストレスになる。なので、相棒に運転を依頼すれば一瞬で現場に到着できます。オート移動があるなら、街をここまで造り込む必要があるのか微妙ではありますが。それと、フィールドに表示できる車の種類が限られているらしく、登場する車の数は百種類近くあるはずなのに、見えている車の種類は常に数種類。同じ車種が行列を作ったり、駐車場に並んでいたりするのは、ハードの限界とはいえ興ざめです。大抵の車には運転できるのに、バスや路面電車に乗れなかったり、逆に運転できる車は誰のものでも問答無用で徴発できたり、信号無視やスピード違反、衝突や人身事故のペナルティがほとんどない。ゲーム内の都合が、ゲーム内のリアリティを損なう場面を多々見かけます。
捜査は、現場で証拠品を集め、関係者に尋問する。質問内容に応じてリアクションを見せるので、信用する、疑う、反証する(証拠をつきつける)、で対応する。正しい答えを提示できれば、シナリオクリアの評価が高くなります。関係者のリアクションは非常に細かく、ウソをついたり、得心できないことがあると見せる、微妙に顔をしかめたり、視線をそらしたりする動きが実にリアル。ただ、人間の反応をリアルに考えれば、心にやましい所がある人が、かならず視線をそらせるわけではないし、無実の人間が緊張のあまり挙動不審になることだってあるでしょう。表情がリアルでも、反応はゲーム的と言わざるをえません。
登場人物や事件ががリアルタッチなため、特徴にとぼしく、人名や固有名詞が覚えづらいのも難点。人物関係や事件の流れが難解すぎて、時々誰が何のために行動しているのかわからなくなることがあった。序盤は自力でプレイしていたけれど、次第に面倒になって、中盤以降は攻略サイトで正解を確認しながら進めていた。正直、答えを見てもなぜ正解なのか理解できない選択肢がけっこうありました。
若干ネタバレになりますが、ストーリー展開も釈然としない。連続殺人犯を追っているはずなのに、個々のシナリオ上では間違った(でもシナリオ上では一番怪しい)人物を犯人に仕立て上げると最高評価だったり、その挙げ句に真犯人が突如名乗り出てきて、そいつを撃ち殺してクリアになったのには唖然とした。さらに、妻子ある主人公が唐突に事件の関係者と不倫関係になり、それが元で名声を失う展開には茫然となる。主人公の過去は丹念に描くくせに、私生活はほとんど情報がないため、自分が操作しているキャラの心理がまったく理解できない。終盤では、主人公が別人になってるし。
グラフィックはリアル、システムはゲーム的、シナリオは納得しがたい。アメリカのゲームだからとか、大人向けのゲームだからという理由とは別の意味で、終始違和感のあるゲームでした。リアルなグラフィックを追求するのも結構ですが、リアリティを「感じさせる」システムや演出を、もっと追求するべきではないでしょうか。