ソージは苦笑しながら、不良少年として礼を述べると、渡頼場所長として表情を改める。
「……よろしい、では続けましょう。なぜ、虚人のケイトがミス刻藤に託されるのが、合理的な判断であるかという理由、でしたね。……まず、虚人という存在についてですが、虚人とは幻想時代に魔法使いの護衛として生み出された、人間もしくは生き物の姿をした自律可動式の魔導構築物です。大前提として、どれほど巨大な力を持っていても、虚人は主である魔法使いには絶対服従するように創られているのです」
「なるほど、ですね」
「さらに言うと、虚人は通常、魔法使いから供給される魔力を糧に、存在を維持する必要があるのです。魔力が尽きれば、虚人は体を維持出来ないので、魔力を持った主の存在が必須なわけです」
「なるほど、ですね」
「?……ミス刻藤……失礼ですが今の説明で、おわかりいただけたのですか?」
「え?……えっと、その、んっと、いえ……スイマセン。ゼンゼンわかってないですね」
しどろもどろに返答する少女。ソージもいい加減、彼女のペースを理解しているので、平然と話を続ける。
「ここが重要な点のため、詳細に説明させていただきます。魔力というのは大別すると、魔導現象を視る……認識する能力と、魔導現象を発現させる能力に分かれます」
「魔法を視る力と使う力、ですかね」
「そう、その通り。魔導現象を発現させる力を制御するためには訓練が必要ですが、認識する能力は、魔法使いの資質がある者ならば、生まれながらに持っているものです」
「魔法が視えれば、使えるのですかね?」
「魔導現象を認識出来ることが大前提で、その能力から得た情報を元に、魔導現象を発現させるという流れです。厳密に言えば、光学的に見ているのではなく、異なる次元の領域を精神的に認識しているのですが……ともかく、魔法使いとなる絶対条件は、魔導現象が発現する反映領域と呼ばれる異次元空間を視る能力を持つことなのです。その資質さえあれば、訓練次第で魔法使いになれる可能性があるわけです。おわかりですか?」
「……なるほど……!……い、いえ、その、まだ良くわからないですね」
そこでタツミが助け船を出す。
「つまりね、オキナちゃんには魔法使いの素質があって、ペットとしてのケイトの主であると同時に、虚人としてのケイトの主にもなっていた、ということじゃないかな?」
「……そういうことだな」
タツミは早々に理解したようだが、オキナはまだ飲み込めていないようだ。せわしなくあちこちへ視線を向け、どうやら自分についての情報であると認識してから言う。
「あうっ……あ、あたしが魔法使い、なのですかね?」
「そうなる資質があると申し上げております。あなたにはしばしば、他人に見えないものが視えていたはずだ。それこそが。魔導現象が発生する、反映領域を認識する能力なのですよ」
「あたしだけが視えるもの……あれが魔法、なのですね」
ここまで説明すれば、さすがに理解出来たようだ。実際、昨日は彼女の能力のおかげでソージ自身が助けられている。非常に不快だが、事実は事実だ。
苦々しい想いを振り切るように、ソージは「実際にやってみましょう」と言いながら、意識を集中する。右腕に魔力を収束させると、オキナが目を見開く。
「ミス刻藤には視えていると思いますが、タツミとミス帝田には見えていないはずです」
タツミが「何も見えないね」と答え、アオイも「うん」と頷いた。もう一点、非常に重要な事実があったが、そこにはあえて触れずにおく。必要になってから告げれば良いことだ。
「では、これでどうでしょう?」
そう言って、ソージは再度意識を集中すると、彼の右手で黄金に輝く銃のような構造体が顕現する。
「今度はボクにも見えるよ」
タツミの言葉に、アオイも頷く。二人とも、魔法に関しての基礎的な概念は知っているはずだが、話を合わせてくれているようだ。
ソージは軽く手を振り、銃のような構造体を分解消去する。
「これは、呪紋魔力と呼ばれる、魔導能力者でなければ視えない、立体魔法陣です。黄金に輝いていたのは、光学的に見えるようにするための、追加魔法を発動した結果です。これは本来、呪紋魔力[を発動させるためには、不要な処理なのです。見えない物を意図的に着彩し、目で見える姿にしたわけですね」
ウンウンと納得しかけたオキナだが、ふと何かを思いつく。
「あれ?……でも、ケイトには、そういう変なものが視えたことはないですね」
ソージが答える前に、タツミが言う。
「さっきソージが、虚人の中には探知魔法にも引っかからない物があるって、言ってたよね」
「あっ……そうですね。だから、気づかなかったんですね」
「ミス刻藤。確かに、あなたには魔法使いの資質があります。しかし、そのための訓練を受けているわけではない。それが先ほども申し上げた通り、ケイトを託す相手として合理的な理由、なのですよ」
「?……スイマセン、まだわからないですね」
「そうですか……では、これでどうでしょう? 魔力の供給源として、ケイトの主になれるだけの魔導的資質を持ちながら、ケイトを使いこなすだけの能力を持たない人間、つまりミス刻藤に託すのが望ましいことだった。この説明で、ご理解いただけますか?」
「あたしが、ケイトを使いこなせないのが良かったんですね?」
「ええ、そうです」
オキナはフンフンと頷きながら、わかったような、わからないような表情をしている。理解してくれたことを期待する。
「じゃぁ逆に、オキナちゃんがケイトを使いこなすことが出来れば、何が出来るんだい?」
タツミの野郎、理解が早いのは良いが、こっちが言いにくいことばかっり聞きやがる。そう思いながら、ソージはしばらく間を置いて、答える。
「……虚人にも様々な種類がありますが、探知魔法に全く引っかからない物となると、幻想時代の物でも、ごく限られます。少なくとも、愛玩用としては高性能すぎる」
「では、何だと?」と、タツミ。
ソージは一瞬ためらいを見せるが、覚悟を決めて告げる。
「……おそらくは、兵器の類でしょう」、と。
「……」
一同の間に、冷えた重苦しい空気が流れる。沈黙のとばりを、タツミが破った。
「もし、それが本当なら、欲しがる人は多いだろうね。“そういう”虚人って、他にもあるの?」
「全世界でも、まっとうな研究施設に数体。軍で使われているって話もな。裏市場で取引されている噂もあるが……」
「なるほどねぇ……何となくわかったよ」
オキナの手前、はっきりとは言いづらかったが、タツミは察してくれたようだ。
魔法探知を回避出来る、“そういう”虚人の用途が、兵器の中でも主に、暗殺用であることを。
タツミの言葉を受けて、オキナが眉根に皺を寄せて問う。
「……何でお父さんは、あたしにケイトをくれたんですかね?」
当然の疑問。しかし、ソージには彼女を満足させるだけの正確な情報を、提示することが出来なかった。
「大変申し訳ないが、私の兄とミス刻藤の父上との間に、どのような経緯があったのかは不明です。ケイトの入手経路も同様です。手がかりとなる情報は、現時点ではほとんどありません。今後の調査次第で明らかになる可能性がある、としか申し上げられません」
「むぅ、よろしくお願いするですね」
「ご期待に添えるよう、微力を尽くします」
「ちょっと、いいかな?」と、タツミの問い。彼にしては珍しく、不安そうな表情をしている。
「何だ?」
「それでボクたち、このままケイト探しを続けて大丈夫なのかなぁ? ケイトが迷子の猫じゃなくて、幻想時代の……魔導兵器だとしたら、その筋の連中が……あっ!……もしかして、昨日の調査の時に介入して来た奴も……」
察しの良いタツミがいると、話が早いな。
「あぁ、これからその話をするつもりだった。昨日のダブルプラスクライによる調査時に介入してきた存在だが、我々の敵対勢力と考えて間違いないだろう」
「ハァ……やっぱり、そうなるわけだねぇ」
「それってナニヤツ、ですね?」
「この点についてもケイトの件と同様、確定情報はありません。情報が錯綜しているため、現在も調査中です。ですが昨夜の攻撃には、我々の調査を妨害し、同時にこちらの情報を入手しようとする意図がありました。残念ながら、昨夜の一件で、こちら側の情報が一部漏洩した可能性があります。おそらく連中も、ケイトの正体が虚人であることを知り、我々に先んじて捕獲しようとしていると考えるべきでしょう」
「そ、そんな謎っぽい人たちに、ケイトは狙われてるですね!」
すかさずタツミが指摘する。
「オキナちゃん……それを言うなら、ケイトだけじゃなく、ボクたちも狙われる可能性があるんだよ」
「!……そんな……それは……そうかも、ですね」
ソージとしても、その危険を告げないわけには行かなかった。
「タツミの言う通り、敵対者が存在する以上、今後も調査を続けるのであれば、我々の身にも危険が存在します。さらに申し上げれば、よしんばケイトを発見、保護出来たとしても、普通の猫ではない以上、その後の扱いは慎重に行う必要があることは覚悟しておいて下さい」
「はうぅ、大変なコトになってるんですね」
「ええ。最善を尽くすつもりですが、我々の手に余る場合もあります。そこでミス刻藤に、あらためてご確認したいのですが、リスクをご理解いただいた上で、本件の調査を今後も継続される意志はありますか?」
ソージに問われ、オキナは困惑顔で固まっている。彼自身としても、継続の意欲はあったが、危険を承知で依頼を続行するか否かは、クライアントの判断に委ねる他ない。
答えあぐねている少女の横で、タツミの発言。
「質問だけど、オキナちゃんがケイトの魔導的な主として契約しているなら、なぜ姿を消したんだろう? 契約が切れた、もしくは切られたという可能性は?」
「失踪理由も不明だ。しかし、契約に関してはミス刻藤が意図的に打ち切らない限り、勝手に切れることはないし、第三者が意図的に断つことも難しいな」
「じゃぁさ、たとえばだよ……オキナちゃんの魔力でここへ呼び寄せたり、それが無理でもケイトの様子を知ることって、出来ないかな?」
タツミの質問に、オキナが目を見開く。確かにそれが可能なら、事態は遙かに好転するだろうが……。
「ある程度の術者であれば、それは可能だろう。虚人には、そういった使い魔的な機能もあるはずだ。しかし、先ほど申し上げた通り、ミス刻藤には魔導的才能はあっても、しかるべき訓練を受けていない。魔力の供給源以外の、双方向通信機能は設定されていないようだ。現状、ミス刻藤とケイトの間に、魔力的な繋がりは一切ないな」
一瞬浮かんだ望みを絶たれ、オキナは失望の色を濃くする。
「つまり、契約は今も生きていて、本人以外の誰かが解除するのは難しい、と」
「そういうことになるな」
「とすると、ケイトは魔力の供給源であるオキナちゃんから離れてて大丈夫なのかなぁ? 電池切れと言うか、エネルギー切れになる心配は?」
「魔力の供給については、とりあえず大丈夫だ。猫程度の大きさなら、消費念量……時間当たりで消費する魔力は、たかが知れている。何年先はわからんが、少なくとも一年ぐらいは自身に蓄えた魔力で稼働出来るだろう。数ヶ月以内にミス刻藤の元に戻せば問題はない」
「それは大丈夫なのか……」
一通りの質問を済ませると、タツミは黙って考え込む。
オキナも同じように考え込んでいるように見えるが、こちらはあまり、思考がまとまらない様子。チラチラと、タツミの様子ばかり伺っていた。
やがて、タツミは「なるほどねぇ」とつぶやくと、一同に告げる。
「……だったらさ、調査を止めても進めても、オキナちゃんの身に危険があることに変わりないんじゃないかな? 誰かがケイトを手に入れても、オキナちゃんとセットでないと価値はないわけでしょ。だったら……このまま調査を進めるべきじゃないかな? どちらも危険なら、よりケイトを取り戻せる可能性が高い選択をすべきだよ」
熟慮しただけあり、方針としては悪くない。
「なるほどな。だが、我々で調査を継続するとなると、ミス刻藤の護衛も考えなければ……」
それが一番の問題のはずだったが、タツミは当然のごとく言う。
「それならボクがやるよ!」、と。
「いえ、そんな……そこまでしてもらっちゃ悪いですね」
唐突な申し出に目を白黒させるオキナに、タツミはいたずらっぽい笑みで言う。
「オキナちゃんは、ボクの腕を知ってるだろ? 護衛役としてなら、そこそこ役に立つと思うけどなぁ」
大した謙遜ぶりだ。ソージは、素手でタツミ以上に腕の立つ人間を知らなかった。タツミは依頼者側の人間なので、こちらからは依頼しづらかったが、護衛役として申し分ないだろう。
騎士役を買って出られた姫役のオキナは、頬を両手で押さえ、うるんだ瞳でタツミを見つめる。
「ひぁうあ……あぅあ……あう、はう、その、とっても嬉しいですね。!……とゆ〜コトは、ケイトを探してる間中、ずっとタツミ先輩といっしょってコト、ですかね?」
「そうだね。なるべく一緒にいるようにしよう」
「そっ、それは素敵に無敵にスバラシイですね!」
異様に盛り上がる二人に呆れつつ、ソージが言う。
「あ〜、こらこらテメェら、勝手にハナシ進めんじゃねぇよ。それでミス刻藤、調査は継続という認識でよろしいですか?」
大事な確認のはずだったが、肝心のクライアントは上の空のまま、断言する。
「ハイですね、そうですね、もちろんですね、よろしくお願いするですね!」
「ボクからも、よろしくお願いするよ!」
「ケッ、わかったよ、やるだけやりゃいいんだろ、畜生! ハァ……」
二人の軽すぎるノリに頭を抱えつつも、ソージは調査が一歩前進したことを実感していた。ソージとタツミの二人で護衛をすれば、オキナの身は何とか守れるだろう。調査を継続出来る目途は立った。だが、今のところ具体的に調査の役に立つ情報は皆無。さて、どうしたものか……。
ソージが今後の方針を思案していると、先ほどからずっと黙ったままだったアオイが、自身のエルグノートに何やら書き込みをしているのに気づく。
何をしているのかね? ソージがそう訊ねようとした矢先。アオイは「うん」と小さくつぶやいて、エルグノートを閉じる。直後、事務所の奥の方で、電話のベルが鳴った。アオイは素早く、応接スペースの隅に置かれた子機電話の受話器を取り、ワンコールで回線を繋げる。
「はいっ、暮らしに魔導を提供する、渡頼場架空事務所ですっ……」
その途端、オキナとタツミは浮かれるのも忘れ、驚愕の表情を浮かべて彼女を見た。ソージには、二人の驚きが良く理解出来る。アオイの声音は、普段の低い声とはまったく違う、明朗快活なものに変貌していた。まるでエルグ社提供の胡散臭い番組に出てくる犬耳美少女、アオイのような口調であった。
「……はいっ、ご連絡ありがとうございますっ。ただいま所長の渡頼場と代わりますので、少々お待ち下さいっ」
彼女は後頭部に突き刺さるような高いトーンで一気に喋ると、送話口を手で押さえ、ソージに受話器を差し出しながら告げる。いつもの低いトーンで。
「所長、刻藤さんのお父さんから……」
「!……あ、あぁ。ありがとう、ミス帝田」
ソージは、予想を上回る早さで、望む人物からの連絡があったことに困惑しつつ、受話器を受け取った。アオイが、魔導ネットワークを使って連絡をつけてくれたことは想像がつくが、具体的にどうやったかまではわからない。だが、手段はともかく、今は情報収集が先決だ。彼は驚き顔のオキナに向かって、任せろと言う意味で頷く。通話の録音ボタンが押されていることを確認し、深呼吸を一つしてから、送話口を覆った手を離す。
「はい、お電話代わりました、所長の渡頼場です」
受話口の向こうからは、工事現場のような騒音と共に、中年男性の声が流れてくる。
『やあやあ、どうも、渡頼場さん。刻藤ジアンですよ、お久しぶりですな』
砕けた調子の声。脳天気な所が、娘のオキナと通じるものがある。
「大変お世話になっております。早速ご連絡いただき、大変恐縮です。ですが、その……私は渡頼場ソージと申しまして、先代所長である渡頼場ソーイチの弟、なのですが……」
『いやいやいや、それはわかっとりますよ。ソーイチ君が、その事務所にいるわけがない。あたしゃソージ君、君とも五年前にお会いしとるのですが、覚えとりませんかな?』
「?……大変失礼ですが、私にはミスター刻藤とお会いした記憶がございません。よろしければ、いつ頃お会いしたのか、お教え頂けますでしょうか」
『アレ?……あっ、そうかそうか、そうでしたな。自分がソージ君に会ったのは、君が入院している時で、その時ソージ君はベッドの上で昏睡状態でしたな。覚えているワケがない……こりゃまた失敬ですな。ワハハッハッ!』
昨日までのソージなら、そこでブチ切れて乱暴な口調になる所だが、オキナとの対応でいくらか耐性が出来ていた。込み上げる怒りを飲み込んで、冷静に応対を続ける。
「……そうしますと、私にはミスター刻藤と面会した記憶はない、という認識でよろしいですね。娘さんからのご伝言を受けられたかと存じますが、娘さんの飼い猫のケイトが行方不明でして、その件について調査を行っております。それで……」
ソージが状況を説明し終える前に突如、受話器の向こうからガリガリという雑音が聞こえてくる。
「もしもし、もしもし、ミスター刻藤、聞こえますか?」
雑音に混じって、ジアンの声が途切れ途切れに聞こえた。
『……面倒に…………てましてな。ケイト……となら、…………あの噴水へ…………てはどう……かな?』
その直後、通話は途切れてしまう。
アオイの方を見ると、彼女は自身のエルグノートで何やら確認してから、ソージに向かって首を横に振る。どうやら再接続は不可能らしい。
ソージはアオイに受話器を返し、依頼者二人に向き直った。
不安そうにオキナが問う。
「お父さん、何て言ってましたね?」
「実際に聞いていただいた方が早いでしょう。ミス帝田、再生してくれたまえ」
「うん」と、返事をしながら、アオイは録音テープを巻き戻し、再生を開始する。ソージとジアンのやりとりが、子機電話の外部スピーカーから流れた。
一通り聞き終えると、タツミは若干、呆然としながら言う。
「え?……あのさ、オキナちゃんのお父さん、大丈夫なのかな?」
問われた娘はしかし、平然としたもの。
「あ、それは平気ですね。あたしのお父さん、トラブルに巻き込まれやすいですけど、危機回避能力に優れてるですね。いつものことだから、てんでヘッチャラですね!」
「それはまた……随分と特殊な危機回避能力だねぇ。いや、大丈夫ならそれで良いんだけど」
あまりにも突っ込み所満載なオキナの発言に、さすがにのタツミもどう反応すべきか悩んでいるようだ。冷えた緑茶をひと口すすってから、しみじみと言う。
「……何と言うか、その……いかにもオキナちゃんのお父さん、という感じだねぇ」
「そ、そうですかね? あたしは意外に、シッカリ者ですね!」
じゃ、テメェの標準設定はウッカリ者なのかよ? わかってんじゃねぇか!
という暴言は内心に留め、ソージは告げる。
「お聞きの通りミス刻藤のお父上から、大変貴重な情報を得ることが出来ました」
「貴重な情報って言うと、最後の“あの噴水へ”って奴?」と、タツミ。的確に指摘してもらえると、話が早い。
「そうだ。ミス刻藤の父上が、私と面識があるという情報と合わせると、噴水という単語で思い当たる場所が一箇所だけあります。早速、現地へ向かおうと思うのですが、お二人にもご同行願いたい。よろしいですか?」
「あたしは、構わないですね」
「ボクも構わないけど……でもオキナちゃんは不用意に外出させない方がいいんじゃない? 魔法絡みならソージだけでも……」
皆まで言わせず、ソージは告げる。
「確かに危険はあるでしょう。ですが、今回の件に魔導が関わるのであれば、是非ともミス刻藤には同行していただく必要があります」
「……理由を説明してくれるよね?」
タツミに言われるまでもなく、そのつもりだ。可能な限り言いたくはなかったが、この事実を告げなければ仕事が進まない。せっかく見えた、解決の糸口を失うわけには行かなかった。ソージは可能な限り冷静に、だが、あふれ出る苦々しさを隠し切れずに告白する。
「なぜなら私には……魔力を視る能力がない、からです。私は魔法使いですが、魔導構築物を認識出来ない、魔導的な盲目という後天的なハンディキャップを負っています。ですから私には、魔導認識能力を持つ者の助けが……ミス刻藤の協力が必要なのです」
ソージの告白は、オキナとタツミを沈黙させた。言葉なき世界の中で、アオイだけが黙々と応接スペースの片付けを開始している。不愛想な助手が、いつも通りに仕事をこなしてくれることに、ソージは無言で感謝した。