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S.S.Princess
── その一、すわんと猫と狩人と ──
★ Illustration Top:01 ★



 少女がそこに立ったとき、事態はすでに終局を迎えつつあった。

 時は世紀末、紅の[くれない]夕暮れ。
 場所は日本、横浜市中区、打越と幌巣[ほろす]町の境。
 切通しの谷間にかかる、ここはオレンジ色の橋の上。
 数十メートル下にある切り通された道路には、車が放つ二条の光が流れ行き交う。
 その片方の流れの先に遠く、みなとみらい21地区の超高層建築がそびえる。

 王鳥[おうとり]すわんは橋のたもとにおり、目の前の事態をなんとかやめさせようと、剣を構えて立っていた。

 すわんの足元には、首輪をしていない雑種の白猫が、血だまりの中に倒れているのが見える。
 ひくひく痙攣[けいれん]しているので即死はまぬがれたようだが、手当てをしても助かるかどうか。
 その白猫を[]いたらしい四輪駆動車は直後に運転をあやまり、みなとみらいと反対側の橋の欄干全体をなぎ倒し、前輪を谷間に浮かせてとまっている。
 車の脇に、持主[オーナー]らしい青年と、助手席を定位置にしているらしい女性がいた。
 どちらも小麦色に陽焼けた、いかにも遊んでいるふうの若者達。
 その若者のうち、女性の方は状況を理解できずへたりこみ、すわんが剣を向ける対象である少年をぽかんと眺めている。

 その、すわんと同じ学校の制服に身をつつんだ少年は、あくまでも無表情に立ちつくしている。
 下校途中、たまたま現場にに出くわしたとでもいいたげな姿。
 すわんと同級か、あるいは一つ下の少年の頭部にはしかし、人間の耳とは別に、獣の耳──おそらくは犬の耳──が一対、生えていた。

 少年は、剣を構えるすわんを完璧に無視し、青年を右手でつかみ上げながら、左手で顔面を殴りつけている。

 バシッ、バシッ、バシッと断続的な音が響く。
 みるみる青年の顔が腫れ上がる。
 少年は視線を青年にすえていたが、犬の耳は小刻みに周囲をうかがっていた。

 すわんが彼女なりに、状況をどうにかしようと努力しているのに対し、同乗者の女性はなにもしないどころか、なにが起こっているのかすら、理解できないように見える。

 頼れる人間はいない、すわんはそう考えて、剣を構え直す。
 構える剣は、もうもうと蒸気を吐き続けていた。
 鍔の上部に固定された、三ツ眼のメーターが小刻みに針をふるわせるのが斜めに見える。
 すわんの身長の七割はある両刃[もろは]の大剣。
 []幻我[げんが]、呼んで超級幻我[ちょうきゅうげんが]
 すわんの記憶に間違いがなければ、カーボンファイバーの芯にプラスチックとバルサ材で肉付けした、単なる芝居の小道具のはずである。



 そもそも今日のすわんは、朝からさっぱりだった気がする。
 寝坊はするわ、コンタクトはなくすわ、遅刻ギリギリのタイミングで信号が赤になるわ、授業では毎時間さされるわ、タマゴサンドは売り切れるわ、つり銭間違われるわ、PHS[ピッチ]振動[バイブ]にし忘れて、教師の前で間違い電話はかかってくるわ、芝居はボロクソにけなされるわ、幽霊屋敷に寄り道しなければならないわ、体が熱いわ、剣は蒸気を吹くわ、橋に車が突っ込んでるわ、犬耳小僧はいるわ……

『ああっ!も、ナンでこう、ついてないんだろっ!』
 続けてすわんは乱暴な言葉をいくつも並べながら、妹が[まひる]どうの、アイツ[からす]がどうのとまくしたてる。あくまでも心の中で。
 すわんは小学校のころ受けた厳格な躾に[しつけ]より、常に冷静に振る舞うことができる。その内心で、なにをどう考えているにせよ。
 彼女をはたから見れば、毅然[きぜん]とした態度で剣を構え、非道な犬耳少年をにらみつけているふうだろう……それはもう、凛々[りり]しい正義の立ち姿で。

 長身に、なめらかな曲線で構成される体の起伏。
 腰までのびる切りそろえた黒髪に縁取られる、白い頬と朱の唇。
 深く輝度の高い眼と、[ふち]なしで小振りの眼鏡。
 白と黒のコントラストが鮮やかな制服は、体の線を引きしめる。
 緊張状態でも無意識に保たれる、優雅な所作[しょさ]
 貼りついた笑みを浮かべる素人美[アマチュア]人というよりは、計算されつくした完璧な──だが、どこか非現実的な──玄人[プロ]の努力がなされた容貌。
 それをすわんは努力もなしに、生まれながらにもっている。

 彼女としては、別にそれを望んだつもりはないが、人並に身繕[みづくろ]いするだけでこうなってしまうのだから、仕方がない。
 チヤホヤされたいわけでもないが、わざと冴えない格好をするのも少し違うと思う。
 ──ちなみにすわんがかけている眼鏡はセンスのよいブランドもので、彼女の造形をひきたてこそすれ、むやみに美人を不美人に見せるような野暮なものではない──
 むしろ、せっかく生まれついたこの容姿を、有効に使ってもよいのではないか?とも考えている。
 このあたり、すわん自身も考えに筋が通っていないなと自覚している。
 あまりにも整った容姿をしているとはいえ、すわんは中学二年生。
 悩み多き大人と子供のハザマにいれば、そういう矛盾は増えこそすれ、そうそう減るものではない。



 すわんは橋の上の惨状を前に剣を構えつつも、ずっと無言で静止していた。
 何もしないのではなく、どう制止したらいいものか、わからないのが本音である。
 だが、それもさっきまで。

『つまりこれは、お芝居なんだ……そんなら、どうすりゃいいのかわかったモンね、エヘン』

 すわんは深呼吸をし、ちゃんと腹式呼吸ができているかを確認する。
 とっさに正しく発声できるかは、これまでの練習の成果による。
 即興でセリフとポーズを考えると、一気に演技した。

 その少女は突如沈黙を破り、流麗[りゅうれい]な所作と言葉で意思をしめす。

「……そこの君、暴力はおやめなさい!」
 空気が一瞬、空間ごと硬化する。

 現代少女の言葉づかいとして適当かどうかはともかく、すわんの容貌とこの非現実的な状況で発せられた言葉は、有無をいわせぬ説得力がある。
 ……はずなのだが、ゲシッ、ゲシッ、ゲシッと殴り方が心持ち激しくなっただけで、犬耳少年の暴行はすわんの制止とは無関係に続く。

『ひっとが、ビシッとキメたってのに、シカトかいっ!』
 すわんは内心ではムカツキまくりだったが、表面的にはかすかに眉をひそめるだけにとどめた。
 その途端、犬耳少年が青年を放り出す。
 倒れた橋の欄干から、下に落ちそうになる青年を、同乗者の女性が必死に抱きとめる。

『……えぇ?』
 獲物を捨てた犬耳少年が、こちらに向かってゆっくりと歩いて来る。

『やっばぁ……』



 犬耳少年はすわんの前にしゃがみこみ、血で制服がぬれるのも気にせずに、横たわる白猫を抱えあげた。
 そして、あいかわらずすわんを無視して道の反対車線にどく。
 犬耳少年が前を横切ると、すわんの視線が遠くにむけられた。
 オレンジ色の橋のむこう側に、青とクリーム色に塗り分けられた、横浜市営バスが止まっているのが見える。

『ちょっと……まさか……?』
 自分が新たな標的にならなかったことで、ほっとするのもつかのま、さらに変な事態が発生しつつある気がした。

 そのバスは、すわんの嫌な予想通り、これだけの惨状と異常に満ちあふれた橋を、ゆっくりとわたり始めた。

 呆然とすわんが見送るなか、バスは徐行しつつもためらいなく橋をわたりきる。
 途中で見えたバスの中には、運転手や数人の乗客の影があったが、その誰もこの状況に気をとめる様子もない。

 すわんは内心の驚愕を表に出すことはかろうじて避けたものの、バスを止めて助けを求めるような真似はとてもできなかった。
『なに?……世の中みんな、おかしくなっちゃったの?』
 すわんが心の中で疑問符[クエスチョン]をならべていると、今度は買い物袋を下げた山の手の上品そうなおばさんが、すわんの前を横切って行く。

 すわんはいまさらながら、自分が非常にヤバい状況にいることに気がついた。

 そもそも、橋の下を走る車の流れが滞らないのは何故なのか?上から車が落ちて来る危険は感じないのか?
 あれだけ大きな音がして、騒ぎを聞きつけてやって来る人間は、本当にすわんだけなのか?

『ひょっとして、誰もこの事件が目にはいってナイんではないかい?そうだ、そうだわ。そういや、こんだけオオゴトんなってんのに、パトカーや救急車もきてないよぅ!ど、どうしよ。にげよっかなぁ?……で、でもあのおにーさん、ワタシがナンとかしないと、きっと殺されちゃうよ』

 すわんは不正が絶対ゆるせない、というタイプではなかったが、不正を見過ごしても平気でいられるほど、割りきった考え方はできない。

「ぎっひゃあぁぁぁぁ〜!」
 絹というよりは雑巾[ゾーキン]を裂くような、陽焼けた女性の悲鳴。
 すわんの意識が、しばらく周囲からはなれている隙に、足元に白猫をおいた犬耳少年は再び青年をつかみあげ、今度は腹を殴り始めた。

 青年は、もはや苦痛に顔をゆがめることもせず、ただ殴られるにまかせている。

『ええい、もぅ見てらンない!こーなったら、ハッタリでもナンでも、どうにかしちゃるしかない!』
 すわんはそう、決心した。
 やると決めたら、迷わない!それがすわんの信条だった。



 彼女がしようとしてること、それは、『本当に、真面目に、超級剣姫[ちょうきゅうけんき]になりきっちゃお!』ということである。

 超級剣姫[ちょうきゅうけんき]……すわんが構える剣、超級幻我[ちょうきゅうげんが]の正統なる所有者にして、彼女が演じる、退魔の剣を振るう美姫[びき]

『彼女なら、こーゆーヤカラを退治するのが仕事なんだから、こわくないモンね!』
 あくまでも演技をつらぬくということで自分を納得させると、すわんは超級幻我に視線を落とす。

 もうもうと蒸気を吹きだしながら剣の刃は[やいば]、切っ先から超音速旅客機[S・S・T]の曲線で広がり、三ツ眼のメーターが据えられた逆三角形のフレームをこえ、翼端で[つば]を形成する。
 巨大な刀身[とうしん]を支える柄の先には、ラベンダー色の丸い[びん]柄頭と[つかがしら]して固定されている。
 この壜は仙界の泉につながっており、ここより破邪の力をもつ液体、御水[みず]を召喚し、メーターの基部に埋め込まれた汽缶[ボイラー]によって加熱・蒸気化され、毛細蒸気配管により、刃の[やいば]表面全体から蒸気を吹き出す。
 蒸気とは字を変えれば浄化する気、つまりは浄気であり、この浄気を帯びた剣がつらぬけば、いかなる邪気をも祓うことができるという、希代の退魔剣である。

 ひとしきり刀身をながめたすわんは手首をひねり、剣をかたむけて、三ツ眼のメーターの針を読む。
 左上が陰陽計[いんようけい]、右上が圧力計、中央下が温度計、だったはずだ。
 正確な読み方など、あるのかどうか知らないが、左上の陰陽計[いんようけい]は、周囲に満ちた陰陽のバランスをあらわすものなのだと、制作者である谷々鯖斗[たにやさばと]から聞いている。
 白と黒の円が互いに交じり合い、ひとつの円を形成する、陰陽マークを文字盤にプリントした陰陽計[いんようけい]の針は、黒い部分のすみにある、小さな白丸のあたりで小刻みに揺れていた。
 それは目の前の犬耳少年の正体が、強力な陰の気を持つ者であることをしめしている。
 裏面には、柄に組み込まれた汽缶[ボイラー]の点検窓があり、浄気を生みだす白い炎の輝きが見えた。
 その上には小さな楕円形のプレートが、四隅をネジ留めされており、横書きで右から左に、

 所 作 製 機 蒸 谷 谷 

 劍

 氣

 蒸
  ド オ ソ ム イ チ ス 』

 と書かれている。
 すわんはこういう、変にチマい所へのこだわりが、けっこう好きだった。

 いままですわんは剣にまつわる設定を、単に芝居の上だけのものと思っていた。現実と芝居はちがうものだと思っていた。
 だが、いざ本当に超級剣姫になろうと心に決めると、剣が蒸気を吹いていても、それ当然のように思えて来る。芝居の小道具だから変なのであって、本当の超級幻我なら、蒸気を吹いた程度は驚くに値しないのではないか。
『こーなりゃもう、、アレをやるしかないですわねぇ』
 すわんは再び気持ちが昂揚するのを感じている。
 舞台は異空間である、演劇部の先輩に教わったが、確かにそうだと実感する。
 ここはすわん演じる超級剣姫のためにしつらえられた、最っ高[サイッコー]の舞台なのだと思うことにした。



 沈黙していた少女は剣を左右に振り、自らが頼む武器を確かめてから、一歩前へでた。

 すわんは剣を頭上に掲げると、不思議な口上を、かぼそく、だが魂の奥底から絞り出すように、文語で思い、口語で唱えた。

 いわく……

超級幻我[テウキフゲンガ]蒸氣[ジョウキ][ケン]

 蒸氣[ジョウキ][スナハ]淨氣[ジャウキ]ナリ

 邪魔[ジャマ]沸拭[フッシキ]淨氣[ジャウキ][モッ]

 破邪顯正[ハジャケンシャウ]刄ヲ[ヤイバ][フル]

 [][]超級劔姫[テウキフケンキ]ナリ』



超級幻我[ちょうきゅう幻我]蒸気[じょうき][けん]

 蒸気はすなわち浄気[じょうき]なり

 邪魔払拭[じゃまふっしき]の浄気をもって

 破邪顕正[はじゃけんしょう][やいば]をふるう

 その名も超級剣姫[ちょうきゅうけんき]なり」


 すわんの口上と同時に、かつてない勢いで、剣から蒸気を吹く。全身をふたたび耐えられないほどの熱気がめぐるが、それは一瞬のこと。
 なかなか演出が効いてるなと不敵に感心するすわん。

 すると、いままですわんを完璧に無視していた犬耳少年が、耳を、次いで視線をこちらにむける。

 すわんは犬耳少年の視線を、決意と自信に満ちた眼で真っ向から受ける。

 そこで犬耳少年は、はじめて口をひらく。
「あなたのことは猫君主[キティロード]から聞いています、王鳥[おうとり]先輩」
 行動や容姿にくらべ、随分まともなしゃべり方だった。
 だが、すわんが引っかかったのはその内容。
『うげえ、なにコイツ。わたしのこと、しってるぅ〜』
 と、口にはできないので、すわんは内心の動揺を押さえこみ、威厳を保って聞いた。
「あなた[わたくし]のこと、ご存じですの?」

 犬耳少年すわんの言葉を聞くと、さも面白そうに笑った。
「王鳥先輩の考えてることって、態度とちがってずいぶん、子供っぽいんですねぇ」

「……えぇ?」
 すわんは思わず、表に出すべきでない内心を口にしてしまった。

『な、ナンなのこのコ。わたしの考えてること、わかるってのぉ?』
 すかさず犬耳少年がこたえる。
「ええ、もちろん。さっきからずっと聞いてましたよ。なかなか笑えること考えてるじゃないですか」
 軽い侮蔑をふくんだ笑い。

 すわんの顔が、かすかに赤くなる。

「ああ、最初の質問にまだ、答えてませんでしたね。僕は先輩とおなじ学校ですから、もちろん知ってますよ。なにしろ先輩は、有名人ですからねぇ」
 すわんはただ、沈黙しているほかない。
「僕の名は都院B[トインビー]といいます。以後お見知りおきを」
 いまさら驚くほどのことでもないが、犬耳少年──都院B[トインビー]──の言葉は意識に直接響くらしく、文字でどう書くかまで、正確に伝わって来る。
「まあ、安心してください、先輩。僕はこの人を殺すつもりはないし、先輩とはまだ闘うなって厳しくいわれてますんでね。いずれはお手合わせねがうかもしれませんが、今日はとりあえず失礼させていただきます」

 それだけいうと、都院B[トインビー]は青年を放し、背をむけて立ちさろうとする。
 それはもう、プライドがズタズタのすわんには、都院B[トインビー]に文句をいう気力もない。

「グシュッ」

 すわんの足もとで急に、クシャミともセキともつかない声がする。
 見れば、都院B[トインビー]が横たえていった白猫が、よろよろとたちあがろうとしている。
 車に跳ね飛ばされたはずの白猫はふらつきながらも、
 明確な意志をもって歩きだす。
 一方、橋のむこうでは、都院B[トインビー]が谷の下へ降りる道を走っているのが見えた。

『オイ!いつまでボケッとしてやがンだ。さっさと奴を追っかけろよ!』
 今度は頭のなかで、耳慣れた悪ガキ声がひびく。

 すわんは頭で考えるよりはやく体が反応し、都院B[トインビー]を追うために、倒れた橋の欄干を蹴り、眼下に車の流れる橋の下に身を投げた。






 落下中、自分がなにをしているか認識しても、すわんは別におどろかなかった。
 手に持つ剣が、激しく蒸気をたなびかせている。
 全身に風を感じながら、地面が見るみる近づく。
『どーせワタシは、考えが子供っぽいわよっ!』
 すわんはとことんヤケクソ気味に、空中で一回転すると、道の中央に着地した。

 すわんが車道の真ん中に飛び降りても、左右の流れはとどこおらない。

 内心、苦々しく思いながら、すわんは冷静に超級幻我をたずさえ、走りだす。
 そのとたん、急にバランスをくずしかける。
 感触からすると、両足の靴底がぬけてしまったらしい。
 こわれた靴を引きちぎるように脱いだすわんは、ハイソックスが擦り切れるのもかまわず走る。

 車の流れにあわせて道を横断したすわんは、崖の上からなだらかに降りて来る道との合流点のはるか手前で、柵を含めて約五メートルの高さを一気に跳躍し、ゆるいかけ足で降りて来る都院B[トインビー]の前に立ちはだかった。

 都院B[トインビー]は、いまはもう犬耳を生やしておらず、あぜんとすわんを見つめる。
「どうか……しましたか?」
 はじめてすわんと会ったかのような態度。だが、その胸元には、さっきの白猫の血がべっとりとついている。
 すわんは構わず、渾身の力で超級幻我を真上からふり降ろす。
 瞬間、都院B[トインビー]はうしろに跳ね飛んだ。
 刃は[やいば]アスファルトの路面をえぐり、後方にふりぬかれて止まる。
 すわんはすかさず、劇でおぼえた構えを決めた。

 静寂。

 片膝をつき、真一文字に剣を構える少女と、坂の上方でうつむき加減にしゃがみ込む少年。
 少年が顔を上げると同時に、頭部に犬の耳が生え、顔全体があらわになると、顔面に薄く体毛をはやし、牙をむき、両手の爪をのばすと、さきほど以上に野獣じみた容貌を完成させる。
都院B[トインビー]、それがあなたの本性というわけですの?」
 細かいことは気にせずに、すわんは超級剣姫としてたずねた。
「グルルゥ……ヴワァン!ヴワァン!ヴワァン!」
 対する都院B[トインビー]はケモノむきだしで吠えかける。
 すわんは微動だにしない。
 []れた都院B[トインビー]は横に跳んでフェイントをかけ、壁を蹴ってすわんに襲いかかる。
 だが犬耳少年が、すわんのいた位置に爪と牙を立てた時、彼女はすでに上空を舞っていた。

 状況を理解できず、あたりを見回す都院B[トインビー]の姿が、十メートル上空のすわんにははっきりと見える。
『このままヤッちゃえば、アイツを確実に倒せる!』
 すわんはそう、確信していたが、同時にそこまでする必要がどこにある?という気もしている。
 あまりにも異常なことが起こりすぎて、なにが普通で、なにが変なのかをいちいち考えるのも馬鹿バカしかったが、いくらなんでも剣でつらぬくのはやりぎだと、この状況のすわんでも思う。
 都院B[トインビー]のすぐ横に着地してはみるものの、なにもできず距離をとるすわん。
 こんなことで、殺人犯にはなりたくない。

 そんなすわんにはお構いなしに、都院B[トインビー]は口の端からアワを吹きながら、次々と爪や牙をくりだして来る。
『ナンなのこの子、キレたら見境いナイじゃない!』
 などと考えている間に、食らえば確実に命を落とす数撃を、なんとかかわす。

『えーん、どーしたらいーのよぅ!』
 なにがなんでも冷静そうに、王鳥[おうとり]すわんは困り果てていた。



『だぁーっ!いつまでこんなザコと遊んでンだよ!』
 再びあの声が、すわんの脳裏に響く。
『うっさいわね!これでもガンバってんの!そもそもあんたのゆーこと聞いたばっかりに、こんなめに遭ったんでしょうが!だいたい、橋の上から飛び降りたのに、ナンで平気なわけよ!ダレか知んないけど、説明なさいよ!』
 思わずケンカ腰に考え返すすわん。
『オメーはむつかしいこと考えるガラじゃねぇだろぉが!ようはヤツを、オレで斬りゃいいンだよ!』
 なにかいい返そうとして、すわんは一瞬、動きをとめた。
『……オレってアンタ、この剣なの?』
 声はしばらく[]をおいた。
 その間も戦闘は継続されている。
 今も高速の牙が、すわんの体をかすめたばかり。
『……ああ、そうだ、そのとおりだからオレの話をきけ!』
 その声は、うざったそうに認めた。
『いいか、この超級幻我は退魔の剣だ。邪悪なモノ以外は斬りようがない。斬れるのは奴の邪悪な部分だけだから、奴自身は死なん。こころゆくまでブッた斬れ!』
『でも……』
『デモもスタート画面もねぇ!……って、やべえ!』
 超級幻我の意識がそう警告するように、意識のやりとりに夢中でおざなりに闘っていたすわんに対し、都院B[トインビー]は姿勢を低く構え、かつてない勢いで突進して来た。
 あわてて対応しようとするすわんは、ちょうど落ちていた空きビンを踏んで体勢を崩す。

 都院B[トインビー]は、注意がおろそかなすわんが、ビンを踏んでよろけるのを見越して、必殺の一撃を加えたのだ。

『ンのぉ!』
 真後ろに倒れ込んだすわんは、考えなしに剣を前方に突きだした。
 そこにちょうど、都院B[トインビー]の突進。
 剣は犬耳少年の胸を、深々と刺しつらぬく。
 同時に激しく吹き出した蒸気が、視界を白煙で満たした。



 たしかに都院B[トインビー]は超級幻我に刺しつらぬかれても、人間の姿にもどっただけで、命に別状はなかった。
 それどころか、剣による刺し傷すらない。
 すわんは自分が最初に都院B[トインビー]に切りつけたときに、アスファルトをえぐってつけた痕跡を探したが、見つからない。
 すわんはどちらの時も、たしかな手ごたえを感じたはずなのだが……
 よく見れば、都院B[トインビー]の傷やアスファルトのえぐれに限らず、さきほどの戦いでついたはずの痕跡が、一切なくなっている。
 実は全部夢だった……と思いたい所だが、坂道の先にあるオレンジ色の橋の上には、あいかわらずあやうい均衡を保ったままの四輪駆動車が見えた。

 一方、すわんのほうはといえば、怪我こそなかったが、靴下が擦り切れ、ブラウスの袖は抜けかかり、底の抜けた靴が車道に落ちている。眼鏡がなくなっていないのは奇跡的だった。

 ともかくすわんは、都院B[トインビー]を肩にかつぎ、さっきまでいた谷々鯖斗[たにやさばと]の家に引き返すことにした。
 ただ、あの橋の上にはもどる気になれなかったので、匿名の電話で救急車だけ呼び、橋を通らない別のルートで引き返した。
 むやみと熱いすわんの体や、超級幻我の蒸気の噴出は、都院B[トインビー]を倒してからずいぶんと弱くなっている。
 さいわい、橋の上で投げ捨てたはずの剣の鞘カバーが見つかったので、とりあえずかぶせておいた。それにどれほど意味があるのか、わからなかったが。
 それでもまだ、元犬耳少年を軽くかつげたので、すわんには変な事態がまだ終わっていないことがわかっていた。

 その道すがら、すわんはふと、都院B[トインビー]が口にした、猫君主[キティロード]という単語から、相手の正体がなんであるか思い出した。

 すわんがテレビや雑誌、その他うわさ話などから得た知識をまとめるとこうなる。
 二ヶ月ほど前から、横浜近辺で動物虐待をおこなう人間に過激な制裁を加える、謎の一団のことが話題になっていた。
 そのボスの名が、たしか猫君主[キティロード]といったはずだ。
 なんでも、犬を捨てた飼い主とか、猫を轢いたダンプの運チャンとかが、次々と半殺しのめにあったという。
 変な奴にやられたという証言は多数集まったが、なぜか具体的な犯人の人物像が特定できない。
 動物虐待の現場に現れては、当事者をリンチするという手口はいつも同じはずなのに、犯人の顔どころか、性別すらはっきりしなかった。
 そういうわけで、ともかく謎の一団だろうといわれている。
 連続暴行事件がしばらく続いたのち、《猫と狩人[ねことかりゅうど]》と名乗る組織から、報道各社に犯行声明が送られた。
 内容は、人類の非人類生物に対する非道を糾弾し、即刻全世界の動物虐待を停止し、世界の主導権を明け渡すよう、主張していた。
 猫君主M[キティロードエム]なる人物のサインによってなされたこの犯行声明は、一時期マスコミを騒がせた。
 動物をいじめるから、いじめ返そうというセコい発想と、いきなり世界降伏の勧告へ飛躍する展開に、したり顔の批評家や学者が、好き勝手な憶測をがなりたてていた。
 が、内容があまりにもナニでアレだったので、もっともらしい理屈を並べるほど、逆にうさん臭く聞こえるばかりで、最近ではそういった話題も影をひそめている。
 止め[トドメ]として、一般的に過激とされる環境保護団体のいくつかが、公式に《猫と狩人》の方針に賛同しないことを表明した。
 我々は動物愛護を理由に、暴行を正当化する野蛮な連中とは違う、といいたいらしい。
 そんなこんなで、《猫と狩人》の事件は、マスコミ的には今一[イマイチ]旬をすぎている話題だった。

『なぁるほどぉ……コイツがあの《猫と狩人》かぁ』
 以前ホームルームで、登下校の際は十分注意するようにとのお達しがあった気もするが、すわん通う横浜市立烏鷺帆[うろほ]中学周辺では、《猫と狩人》による事件が起きていなかったし、知り合いにもそんな人間はいなかったので、そんなことも起こっているのか、程度の認識しかなかった。

『犯人が正体不明なのって、やっぱ精神を操作できるからナンだろうなぁ……』
 都院B[トインビー]を倒した直後は、とりあえず警察に連絡を……と考えていたすわんであるが、剣の声が助言した。
『こいつらは周囲の人間の精神を操作できるから、逆にやっかいなことになりかねない。どっか、邪魔されずにこいつを尋問できる場所をさがせ!』
 そういうわけで、すわんは適当な場所として、谷々[たにや]邸を選んだのである。

 すわんが商店街を歩いていると、橋の方へむかう救急車とすれ違った。
 とりあえずひと安心、という感じである。
 どうやら橋の上の異常には気づいたようだが、かなりヤバげな格好のすわんに、道行く人々は関心を持たない。彼女に視線をむける者もいるので、まんざら無関心を装っているわけでもないようだ。
 すわんとしても、この状況で気にかけられるのは迷惑なので、とりあえず気にしないことにした。

『……ま、とりあえずいう通りにしたけどさ、アンタ一体何者なワケ?どっかで聞いた声だけど……』
 すこしは気持ちがおちつくと、すわんは剣の意識に対する、根本的な疑問を考えた。
 対外的にはあいかわらず神秘性を帯びたふうの、いたって怜悧な表情を保ってはいたが、さすがに疲労が顔に浮かんでいる。
『ま、くわしいことは谷々の家で話すさ。奴とも話しときたいからな……けどよ、すわん。いいかげん、オレの名前ぐらい、思い出せよな』
『ええっ?でも、アンタと話すのは今日がはじめて……』
『たしかにそうだがな、超級幻我の精霊の名前は知ってるはずだぜ』
『そんなら、たしかゲンガっていうハズだけど……!?……って、アンタがそのゲンガなのぉ?』
『ほかに、誰がいるってンだい?』
『だぁってぇ、だって!だって!だってぇ!……ゲンガって、剣の持ち主の心の影でしょぅ。ワタシの分身が、ナンでそんなにガラ悪いのよぉ?』
『ンなもん、オレに聞くな!テメエ自身が、オレを創ったたんだから、オレにはどうしようもねぇ!』
『でもっ!でもっ!』
『るせー!ともかくオレはゲンガだ、はい、決定な!』
 こうして議論は打ち切られた。



 なにはともあれ、すわんは無事に谷々[たにや]邸にたどりついた。
 さきほど訪れたばかりの谷々[たにや]邸は、あいかわらず幽霊屋敷じみた姿をしている。

 JR根岸線柏葉[かしわば]駅近く、幌巣町の山の上に建てられた館は、庭の草木にその大半を覆い隠され、館自体も大半がツタでおおわれていた。
 六角形の塔屋をもつ木造二階建ての建物自体も、外装がめくり上がり、いたる所ペンキがハゲている。
 明治時代末期に建てられた、米国人建築家の手になるアメリカン・ヴィクトリア様式の洋館は、この手の建物が珍しくない山手町近辺でも、別格の怪しさをまきちらしていた。
 時刻は夕暮れから夕闇にうつりかわり、館は外灯に照らされた場所のみ、その姿を明確にしている。

 すわんは剣をもち、都院B[トインビー]を担いだまま、本物のレンガ塀に囲まれた谷谷邸正門で、呼び鈴の[ボタン]小刻みに押している。
 玄関のほうで、ちいさくビービーなる音が聞こえていた。

「何か用か?」
 そう聞いてくる声は、すわんの背後からやって来た。
 内心、びくりとしながらも、なめらかな身ごなしでふりむいた。
 彼女の前に立っていたのは、眼の下にクマをつくり、見るからにやつれている……だが、それすらも自らの美点に変換できるだけの顔立ちをした少年だった。
 自分の顔を見なれているすわんですら、ちょっといいかな?と思わせるだけのものをもっている。

「ええ、鯖斗[さばと]君に用事がありますの、谷々先輩」
 谷々[たにや]樺良[かばら]、谷々鯖斗の一つ違いの兄である。
 弟が今一地味なのに対し、兄樺良はなにかにつけて目立ちまくる行動が多い、中学三年生。
 ペットクラブ部長のというフレンドリーな肩書きの裏で、かなりヤバげな活動をおこなっているという噂。
 嘘か誠か、黒魔術に傾倒し、夜なよな黒ミサをひらいているとかいないとか。
 ただし、ペットクラブに在籍しているすわんの妹の話によれば、谷々樺良は最近ほとんど登校しておらず、病気説を筆頭に、失踪、発狂、入信と、さまざまな憶測が飛び交っているらしい。
 そういういかがわしげな所が魅力なのか、すわんのクラスメートにも、樺良様[ヽ ヽ ヽ]のためなら生け贄になってもいいという人間が結構いる。

「フン、鯖斗の奴も、メスのチキューケナシザルに目覚めたか!」
 樺良は、端麗な顔を胡散[ウサン]臭げにしかめながら、吐き捨てるようにいった。
「だいたい、これだけ地球の生き物に迷惑かけて、まだ増やそうってのか?少しは減らすことを考える知恵をつけたらどうだ?」
 樺良はしばらく沈黙をはさんでから斜に構え、髪を掻き上げながらニヤリと笑い、言葉を続ける。
「僕がしかるべき権力をえたあかつきには、チキューケナシザルを排除して、愛らしぃーい犬猫がしあわせに暮らせる世界を創造してやるからな!」
 こんな調子で問題発言をいくつか連呼してから、樺良は自宅の門前にあらわれた少女の反応をうかがった。

 当のすわんは、どうやら馬鹿にされているのだなとは思ったものの、樺良のいっていることが八割方理解できなかったので、そういう時に決まってするように、曖昧な微笑を浮かべて黙っていた。
 樺良は軽く舌打ちしてから、実はよく見もしなかったすわんに注意をむける。
 彼女が担いでいる少年に気づくと、樺良はちょっとだけ眼を見開いた。

「この方を御存知ですの?」
 やっと話せる話題を見つけたので、すわんは間髪いれずにたずねた。
 樺良は目線をそらし、沈黙する。
『アヤしい……怪しすぎるよこの人』
 それに、さっきの話をすわんなりに考えてみると、自分の都合で地球を勝手にいじりまわし、動物達をしいたげている地球人類はゆるせん、俺がシメちゃる。そんな内容だったと思う。
『それって……《猫と狩人》と同じ発想じゃナイかしら?』
 ゲンガはさっきから沈黙している。
『ノーコメントってことは……どーゆーコトなんだろ?』

「おい、そこにいるのは王鳥か?」
 館の庭から声がした。
 まぶしい光。
 見れば、懐中電灯を持った少年が、二階の窓から顔を出している。
「谷々君……」
 内心、へなへなと力がぬけて行く感覚。
 今日一日で、あまりにも多くのことを体験をした気がする。
 だから、変わらずにいる鯖斗の顔を見ているだけで、もうすべての問題が解決してしまったかような安心感に、満たされていた。
 自分だけですべてを解決しなければならないという状況が、どれほど自分にプレッシャーをかけていたのか。すわんはやっと、それを自覚することができた。

 樺良はオモチャを取り上げられた子供のように、さもつまらなそうな表情で、館の中に消えて行く。
 ちょうど、家から出てきた鯖斗と入れ違い。
 鯖斗はしばらく、樺良を目で追ってから、すわんのほうに近寄ってくる。

「なにがあったんだ?兄貴になにかいわれたのか?それに、そいつは……あ、ごめん。ま、とにかく、うちに上がれよ」

 自分のことを心配してくれる人がいる。
 ただそれだけで、すわんは泣きたいくらいうれしかった。
 ひょっとしたら、本当に泣いていたのかもしれないが、瞳にさわって涙をたしかめたりはできない。
 かわりにす、わんはとびきりの笑顔を見せて、心から鯖斗の申し出に応えた。

「うん、そうする。そうするよ……谷々、ありがとっ」




十一


 同刻、ライトに照らされたオレンジ色の橋の上では、事故車両の撤去が行われていた。
 橋と橋の下を通る道は、どちらも通行止めになっており、上でも下でも、ロープで区切られたぎりぎりまで、やじ馬がつめかけている。

 烏鷺帆[うろほ]中学の制服に身をつつんだその少女は、見物人の一人として、橋のたもとの人混みの後ろのほうで、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、事故現場を見物していた。
 何者かに暴行を受けた乗員は、すでに同乗者とともに救急車で運ばれており、警察関係者が写真を撮ったり、聞き込みをしたりしている。

「なにが起こったんだ?」
だれともなく問う声がする。
「橋の上で、事故があったみたいだよっ」
少女は答えた。
「おつ!本当だ……スゲエ、車が落ちそうになってる」
「どんなふうになってる?」
背が低い少女には、人垣のむこうの様子がよく見えない。
「うーん、落ちそうな車をひっぱりだすためのクレーン車が来てるな……あと警官が、なにかな……学生カバンみたいなのを持ってるな……」
「カバン……て、どんな?」
 どう説明しようかと考えてから、声の主──大学生くらいの青年──は、「ちょっとゴメンよ」と声をかけて、少女をほいっと持ち上げた。
「見えるかい?」
「うん、見える!どーもありがと……うーん……あっ、ちょっ、お兄さん、ちょっとおろしてくれる?」
 どうしたんだい?と青年が声をかける間もなく、着地した少女は前方に駆けだした。

「すいませーん、道をあけてくださーい!」
 少女がそう声をかけると、人垣がさあーっとわれて、人間一人がちょうど通れる道ができた。
 ひょいひょいっと少女がそこを通り、人止め用にわたされたロープをくぐると、人垣はまたもとにもどる。
 周囲から、カシャカシャと写真を撮影する音がするのをちょっと気にしてから、少女はカバンをもった、警察の鑑識課の人間にあゆみよった。

「そのカバン、ちょっと見せて」
 少女がそういうと、鑑識は無造作にカバンを渡す。
 指紋も気にせず受け取って、カバンを確認しながら、少女はいう。
「これ、おねえちゃんのだから、返してもらっていい?」
 うなずく、鑑識。
「どーも、ありがとっ」
 少女はにっこり。
 それからさっきと同じように、人垣を割って橋のたもとにもどった。

「お兄さん、バイバイっ」
「バイバイ、お嬢ちゃん」
 にこやかに手をふりながら立ち去る少女に、あいさつをかえしてから、青年は視線をもどす。

 それからふと、青年は考えた。
 自分はいま、だれに手をふったのかと。この現場に来てから、まだだれとも口をきいていないはずだ。

 気のせいか……青年は、そう自分を納得させると、ふたたび事故見物に集中し、二度とそのことは思いださなかった。






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