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零景
 
 狙いは胸に挿した一輪の花。
 ただ、それだけ。
 青年は、勝利を確信した。
 赤い着物の少女は一足刀の間合いで、愛用の太刀を中段に構えている。
 攻めるにも、守るにも適した構え。
 この後におよんでも、真剣勝負であることを捨てないつもりか。
 青年は半身で細剣[レイピア]を構えながら、少女のこだわりに閉口する。
 これは、遊びだ。
 命の奪い合い、などという野蛮な行為ではない。
 その本質を理解できない、あるいは理解しようとしない者に、万に一つの勝利もない。
 その程度のことも、わからないのか、君は?
 
 赤い着物の少女は、考えることを止めていた。
 どうすべきかは、もう決まっている。
 ただ、いつも通りやるだけだ。
 それを自分に確認させると、もう一度、大業物を構え直した。
 眼前に半身で立つ青年の胸には、自分と同じく、一輪の花が挿してある。
 先に、相手の胸の花を散らせた者が、この下らぬゲームの勝者となる。
 これは、遊びだ。
 そう思いたければ、勝手にするがいい!
 
 赤い着物の少女と青年の対峙を見つめながら、傍観者たる青い着物の少女は考えていた。
 彼女が、どうやって勝つつもりなのかを。
 青い着物の少女は、こと剣術に関して、赤い着物の少女が優れた洞察力と判断力、そして実行力の持主であるという事実を、率直に評価している。
 その彼女がなぜ、こうも不利な勝負……とも言えぬ座興に応じたのか?
 遊びなら負けてもいいと?
 ……いや、そうじゃない。
 そんな割り切り方ができる奴じゃない。
 だったら、どうする?
 勝ち目の薄い決闘ゲームに勝つ……少なくとも、勝つ確率を高める方法は?
 それを、ずっと考えているのだが……青い着物の少女の思考力をもってしても、答えは出ていない。
 だが、赤い着物の少女の迷いのない目を見る限り、彼女自身には勝利する目算があるのは明らかだ。
 それが、もどかしい。
 なんでアイツに気づけて、私は気づかないのよ!


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