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──設定資料集(抜粋)──
更新:2000.04.13

■設定資料集インデックス

・ おことわり
・ 作品概要
・ 登場人物
・ 歴史上の人物
・ 地域概要
・ 組織一般
・ 店舗一般
・ 水叢国暦法
・ 度量衡
・ 通貨
・ 言語
・ 民族
・ 宗教について
・ 軍事
・ 刀剣銘
・ 文化芸術


■おことわり

 本概要は、著者の忘備録として書かれたものです。
 第二話までで登場した設定と、公開しても問題のない裏設定を抜粋したものです。
 作中で実際に使用された設定については、基本的に不変とします。
 ただし未使用の設定については、より良い作品世界の構築のため、予告なく追加、変更される場合があります。
 ご了承ください。
 なお、頻繁に変更されることが予想されるので、ルビ打ちはいたしまません。

■作品概要

 本作品は、異世界の中世を舞台にした、活劇小説です。作品世界は、東洋と西洋が混在した文化をもち、独自の文化が花開く、マナサ半島にある王国、ミナムラ国です。
 主人公は十五歳の少女トレスと、十四歳の少女ジャンヌ。トレスは著名な吟遊詩人夫婦の娘ですが、本人は最強の剣士になることを目標にしています。一方、ジャンヌは作品の舞台となる、ミナムラ国の第四王女ジャンヌ=セイシン=フォリアミナムラなのですが、そのことはトレス以外には秘密にしています。本人には政治的な野心があり、専制国家よりはむしろ、共和制の国家で権力をつかむことが目標です。二人は、それぞれの事情により、マナサ半島中央部、ナスイという場所にある、オルテンシア大學で学ぶことになります。ふとしたきっかけで知り合った二人は、それぞれの目的のため、互いに協力することを誓い合います。
 こうして、二人の少女の波瀾万丈の人生絵巻きがはじまります。

■登場人物

●トレスティ=アフタヌーン[紅素茶 午後雲](トレス)TS:1561〜
 剣士、少女、学生、15歳。単純な性格で、細かい理屈よりも、行動を重視する。武闘派。一流の剣士になるのが目標。剣の道に対しては、独特のこだわりをもっている。両親は大陸中に名を知られた吟遊詩人。紫大一回生。大陸出身。大陸西部のジャスファセルミナ人(父)と伝紗族(母)の混血。外見的には伝紗族に近い。紫銀の髪を馬尾に束ね、碧眼に白い肌、身長は163宇。

●ジャンヌ=アブリル[慈恵院 比繰酸]TS:1562〜
本名 ジャンヌ=セイシン=フォリアミナムラ[慈恵院 西振 宝蓮水叢]
 水叢国、宝蓮水叢朝第四王女。少女、学生、14歳、才女。気が強く、理論家。目的のためなら、冷酷な判断と行動ができる。運動はからっきし。共和制国家で、権謀術数に長けた政治家になるのが野望。前王朝である、西振水叢朝の血脈でもある。紫大一回生。宝蓮族と西振族の混血。外見的には、西振族の特徴が強い。身長148宇。長髪黒髪、紫瞳、黄色い肌。

●カズト=エイリケン[和吐 鋭利剣](カズト)
 剣士、少年、学生、17歳。紫陽花研究会の動員。寡黙な性格で、一途に目的完遂を指向する。その一方で、争志とよばれる剣士としての礼節と矜持を持ち合わせており、非道な振舞は敵味方とも許容しない。トレスが最初に真剣勝負した相手。紫大二回生。宝蓮族と伝紗族の混血。外見的には宝蓮族の特徴が強い。身長179宇。赤茶の髪を襟で短く束ね、青紫の瞳、褐色の肌。引き締まった肉体。船酔いがひどい。エリーと深い仲?。

●エカテリナ=マーベル[絵嘉禎 麻鐘](エリー)
 少女、学生、16歳。陰謀家。紫大最大の学閥「紫陽花研究会[オルテンシアけんきゅうかい]」の影の支配者。外見は文学少女然としているが、伝紗族らしく現実家で、その本性は酷薄。紫大時代のジャンヌ最大のライバル。紫大三回生。伝紗族。身長150宇。白色の肌に、銀髪の三つ編み、赤い瞳。痩身。丸眼鏡をかけている。自称、カズトと深い仲。

●ピエール=ジャスラック[比栄婁 蛇洲洛]
 老人、講師、65歳。厳格ながら、温厚篤実な性格の統一課講師。紫陽花大學の名物講師として、一部では有名。いつも、なにを考えているかよくわからない。西振族。

●ビクトワール=ウメタネ[日登割 羽芽種](オババ)
 老婆。紫大内にある茶店「式部」の名物オババ。腰が直角ちかく曲がっており、しわがれ声で話す。一説には、前王朝時代から生き長らえているとの噂もある、謎の人物。

●宝蓮[フォリア]三人組
 紫大の不良学生三人組。トレスとジャンヌの最初の敵。ノッポ、デブ、チビと仮称される。紫陽花研究会の実行部隊、「動員」に組み込まれており、学業を気にせず暴力に明け暮れている。

●ファレスト=グンダイン[葉令登 郡妥因](ノッポ)
 少年、学生、19歳。紫大四回生。宝蓮三人組の一人。動員。宝蓮貴族の三男坊。学力はそこそこあるようだが、将来には悲観的で、不良トリオのリーダーをしている。秀才くずれ。理性的な判断はできるのだが、臆病なため、自ら危険の矢面に立つことを好まない。当然、動員としての人望もなく、デブ、チビの二人だけが仲間である。本当は紫陽花研究会の指示で動くことも快く思っていないが、さりとて反抗するだけの度胸もない。医術の心得がある。宝蓮族。

●チョイナ=フェルギット[緒稲=浮儀戸](チビ)
 少年、学生、16歳。紫大三回生。宝蓮三人組の一人。動員。新興の商家に生まれ、将来を嘱望されて紫大に入学するも、その重圧に耐えられず、腐っていたときにノッポと知り合う。ノッポに心酔しており、彼のためなら命をもなげだす覚悟がある、と自分では思っている。短気で、思い込みがはげしく、勝手な勘違いで突っ走りやすい。ナイフ使い。宝蓮族。

●ドライク=ロルシャッハ[度来工 転車端](デブ)
 少年、学生、20歳。紫大二回生。宝蓮三人組の一人。新人動員。宝蓮族系でも少数部族、愁供宝蓮[ジュークフォリア]族、族長の息子。一族の将来のために紫大に入学することを命じられるも、向学舎で四年をすごす。が、向学舎でも手に負えないため、なかば放逐されるように紫大へ入学する。当然、講義についていくことができず、退学寸前だったところを、ノッポに拾われ、動員となる。のんびり屋で動きも鈍いが、力はそれなりにある。実は、ここぞという時には、三人の中でいちばん行動力がある。宝蓮族。

●ロクセンゴ=シンカイ[録仙後 新改]
 中年、刀工、40歳。那水の兵具店、安儀螺屋の店主。自ら、武具を鍛えている。本業としては大陸式の長剣や鉾槍、鎧など、武具の製造、販売、修復だが、古い那刀の修復などもおこなっている。カズトと旧知。

●サザントゥ=シンカイ[作山冬 新改](サザン)
 青年、刀工、18歳。那水の兵具店、安儀螺屋の主人、ロクセンゴの実子。武具の制作には興味がないが、那刀の研ぎには魅力を感じている。那刀専門の研師を目指すようになる。黒髪に紫の瞳。黄色い肌。普段は店番をしている。西振族。

●レザノフ=ワーナー[零座府 琶名](レジー)
 青年、武器商、19歳。那水を拠点とする武器商、琶名商会[ワーナーしょうかい]の若き後継者。那刀に対する造詣は深いが、武器としての那刀の価値には否定的。自身は細剣[レイピア]の使い手で、神速の突きを誇る。希定の那刀としての価値にいち早く注目する。トレス、第二の敵。青銀の髪に、金色の瞳。白い肌をしている。美形の伝紗族。エリーのいとこだが、必ずしも利害が一致しているわけではない。

■歴史上の人物

●知久藩[シルクファン]TS:300ごろ〜340
 軍師。戟循王、有鐘[アルベール]に仕え、西振但馬朝の成立に尽力した。彼が立案した数々の奇抜な戦術はのちに神格化され、後世の軍記物では超人的な活躍をすることになる。民族不明。大陸系の民族と思われる。

●丸茶諭[マルティーニュ]TS:936〜1002
 政治家。西振樫環朝時代、柏崎国[カシワザキこく]の宰相として、辣腕をふるう。端月が出現した年に生まれたため、後年、端月翁と呼ばれるようになる。
 文化の保護と発展を企図した革新的な社会改革を実行する。あまりにも斬新な改革であったため、在任中よりもむしろ、失脚、隠居後に再評価されるようになる。
 彼の行った社会改革はその後、数多くの国家に受け継がれ、文化国家として名高い真那砂半島の基礎を築くことになる。
 丸茶諭には、隠居生活に入った後も、内外に隠然たる発言力を実は持っていたという説があり、これをもとににした戯作「端月翁丸茶諭」は、現在も真那砂半島で広く読まれている。このため、実在の丸茶諭と「端月翁丸茶諭」に登場する端月翁のエピソードが混同されることもしばしばである。史実として、彼の没後三年で、柏崎国は滅亡した。西振族。

●写堀音 絵瑠部[シャンポリオン=エルベ]TS:1102〜1134
 西振樫環朝時代の陶芸家。繊細な作風の磁器を得意とし、若くして王宮専属の陶工となる。生家は刀鍛冶であり、自身も那刀を打っている。刀剣界とのつながりが深く、流恵九の征服による混乱期に、退廃剣術の協力者として処刑されている。

■地域概要

●真那砂半島[マナサはんとう]
 プリムローズ大陸南西部に位置する半島。大陸からの侵略により、幾度も王朝が入れ替わっている。そのため、真那砂半島の人々は、征服されることに慣れている。下手に抵抗するよりも、新たな為政者を迎えるほうが、流血が少なくてすむことを知っているのだ。このため、伝真那砂半島国家の軍事力は、伝統的に脆弱だが、その反面、芸術、学問の分野で優れた人材を多数、輩出しており、現在も大陸中の文人が、この半島で名を上げることを目指している。半島の大きさは、能登半島とイタリア半島の中間ぐらい。

●プリムローズ大陸
 既知世界最大の大陸。ユーラシア大陸とほぼ同じ大きさ。日本の本州の形をしているといえば、わかる人には、世界の陸地構成がつかめるだろう。

●水叢国[ミナムラこく]
 正式名称、宝蓮水叢王国[フォリアミナムラおうこく]。真那砂半島全土を統治する王国。半島北東部の山岳民族、宝蓮族[フォリアぞく]を母胎としており、通砂1497年に前王朝である西振水叢朝を征服することで成立する。
 一府十二県で、王宮のある真那砂水叢京以外の各県には県央府を設け、王朝より任命された代官が執政を行う。貴族階級の権力が強く、士族階級の扱いは低い。
 初代国王は征服当時の族長、テンペラティ=フォリア[天平茶 宝蓮]。現在は三代目のアルマージュ=フォリア[有磨珠=宝蓮]。民族構成は、西振族が六割、伝紗族が二割、宝蓮族が一割、ほか一割。人口は、およそ八百万。

●真那島[マナとう]
 真那砂半島中央部に位置する島。一周50到。水叢国の王都、真那砂水叢がある。

●真那砂水叢京[マナサミナムラきょう](水京[スイケイ])
 水叢国首都。通称、水京。人口30万人の大都市。地盤沈下の傾向にあり、無数の運河が張り巡らされた水上都市。政治的な中心地である。

●那水[ナスイ]
 真那砂半島中央部、真那湾南部、能幕県[ノウマクけん]にある、三方を山で囲まれた自治都市。名門、紫陽花大學を擁するほか、多くの公営、私営の学問所、芸術工房が林立する。大陸一の文化都市として、広く内外に知られている。幾度か戦火にさらされているが、一度として軍事的に占領されたことはなく、常に中央政府と対等な関係を維持している。人口8万人。

●那水大路[ナスイおおじ]
 那水港から、那水を縦断する道。もとは追那[オウナ]城という城へ通じる道だったが、現在、その敷地には紫陽花大學がある。

●追那城[オウナじょう]
 陣九湖灰朝[ジンクコファイちょう]時代に建てられた城。山を造成して建設された。当時、那水半島は統一されておらず、政情が極めて不安定であった。そのため、当時の那水領主が建設したもので、那水の象徴として親しまれたが、通砂1140年、流恵九朝[リュッケナインちょう]時代の騒乱で、焼失した。城跡はしばらく放置されていたが、西振樫武朝[セイシンカシムちょう]時代に紫陽花大學が建設された。現在でも、紫大の敷地を掘り返すと、当時の遺跡が発掘されるため、王那城跡の調査は、考古学部の伝統となっている。

●汐根川[シオネがわ]
 那水中央部を流れる川。那水周辺の山々からの流れが集まって、できた川。大雨のときは増水して、洪水になることもある。ちなみに紫大は高台にあるため、洪水時の広域避難場所に指定されている。

●飯石森[イイシもり]
紫陽花大学敷地内にある雑木林。追那山とつながっている。一般には知られていないが、敷地のはずれに太古の環状列石の並ぶ広場がある。

●追那山[オウナやま]
 那水の陸地側を囲む山のうち、南部の紫陽花大学周辺の山を指す。

■組織一般

●紫陽花大學[オルテンシアだいがく]
 真那砂湾南部、能幕県那水の地にある、前々王朝である西振樫武朝[セイシンカシムちょう]時代から380年の歴史を誇る名門大學。年齢、性別、民族、国籍を問わず広く門戸を開放し、自由な校風と断固とした自治を誇りとしている。その名声は周辺諸国にも轟いており、多くの留学生を迎え入れている。その一方で、近年は自由な校風が災いとなり、学生の質が低下しているとの声もあるが、紫大側は気にする様子もない。「来る者を拒まず、去る者を追わずが」創立者の理念である。ちなみに、卒業できる生徒は、入学時の二割程度といわれる。現在の理事長はカルクヴァン=アイク[軽倶判 藍工]。

●紫陽花研究会[オルテンシアけんきゅうかい](紫研[しけん])
 紫大最大の學閥。表向きは園芸クラブだが、その実体は学園を裏で操る組織。会長とは別に、エカテリナ=マーベルが実質的に支配している。宝蓮族を支持し、西振族の排斥を標榜しているが、実際は必ずしも宝蓮寄りではない。その行動は、あくまでもデモンストレーション的なものらしい。その一環として、ジャンヌはリンチされそうになる。

●學閥[がくばつ]
 大學内に存在する、生徒、教師を含めた派閥。學閥は大學ごとに存在し、大學内、外の覇権を狙って争っている。その実行部隊として、動員が存在している。

●動員[どういん]
 紫大をはじめとする、學閥の暴力行為に関する実行部隊のこと。動員の存在には一部の教師も荷担しており、成績操作によって本来は在学できないレベルの生徒が、暴力のためだけに存在している。
 動員については、大學の暗部として禁忌となっているものの、なかば公然の秘密でもある。大學側も、動員の撲滅を標榜してはいるものの、學閥との癒着関係により、実質的には野放しとなっている。
 ただし、動員となった生徒は、不当在学を黙認されるものの、卒業することは絶対にない。この原則が徹底していることが、大學側の対応を鈍化させる一因にもなっている。

●小學[しょうがく]
 水叢国が経営する、無償教育機関。六歳から十二歳までの六年間、社会生活に必要な基礎知識を習得させる。国民として戸籍に記されたすべての人間には、小學で学ぶ権利が与えられる。これは義務ではないが、水叢国で労働するためには小學を卒業することが必須であり、実質的には義務教育である。この制度のおかげで、水叢国の都市部から農村部にいたる、ほぼ全ての国民が、文字の読み書きと、四則演算ができるといわれる。ちなみに小學の授業時間は、午前もしくは午後のみなの二交代制なので、労働の必要がある者も、働きながら学ぶことができる。また、六歳以降に移民してきた国民や留学生は、年齢超過で小學に入学できる。都市部には、大人のための小學、小學舎もある。

●小學舎[しょうがくしゃ]
 移民や留学生のための小學。通常の六年間課程もあるが、時間のない人のために、一年から三年に圧縮した課程もある。ここを卒業すれば、小學卒業と同等の学力が得られる。

●大學[だいがく]
 高等教育機関の総称。小學を卒業した後もより高度な学問を修めたい者は、実費で大學と呼ばれる高等教育機関に進む。ただし、必ずしも小學を卒業している必要はない。大學は水叢国の各主要都市に点在するが、全体の四割は那水の地に集中している。各大學には、それぞれ得意分野があり、進学希望者はそれぞれの目標にあわせて選択することができる。入学するための学力、年齢制限はないが、小學にくらべ、非常に高度な学力を要求されるため、必然的に向学舎に通って基礎学力を向上させる必要がある。

●向学舎[こうがくしゃ]
 私塾のこと。紫大に限らず、水叢国の大學は入学が容易で、学費も安い。ただし、授業内容は総じて高度であり、生徒の学力水準は考慮されない。そのため、学力に不安がある生徒は、入学前、入学後も向学舎とよばれる私塾に通い、学力を向上させることになる。
 ちなみに、向学舎の学費は高く、またその一部は大學側に流れているといわれている。この大學と向学舎の癒着は暗黙の了解として認められており、実際的に、学力があるのに経済力のない生徒の負担を軽くできる、という利点もある。

●那水抗軍[ナスイこうぐん]
 那水が誇る、都市防衛軍。傭兵からなる常備軍を主体とするが、有事の際は全市民が兵となる。この市民皆兵制度は、のちの国民軍のモデルともなる。常備軍は常に志願を受付ているが、学生の入隊は認められない。中退するか、卒業しなければ那水抗軍には志願できない。

■店舗一般

●式部[シキブ]
 紫陽花大學敷地内にある、茶店。ビクトワール=ウメタネが経営する。名物は、葛切。

●安儀螺屋[アギラや]
 那水市街にある、兵具店。店主は、ロクセンゴ=シンカイ。大陸式の武具を中心に、一般的な武具を入手できる。あまり知られていないが、古い那刀の手入れもしている。店主のロクセンゴは、頑固親父として知られ、那刀に関する取引には古式にのっとり、牡幕[ボマーク]によって行われる。

●琶名商会[ワーナーしょうかい]
 真那砂水叢京に拠点を置く、新興の貿易商。当主はペトロフ=ワーナー。水叢朝成立後、大陸との交易で財を築く。主に、美術品の交易を行っている。失われた刀剣である、那刀の収集と大陸への輸出に力を入れており、大陸における那刀ブームの火付け役。

■水叢国暦法

 水叢国の暦は、飛葉暦[アスハれき]とよばれる暦法にもとづいている。
 一年は365日、12ヶ月。一月30日で、年末に5日間、愁節という連休になる。閏年も、愁節で調節する。一月は一旬10日の三旬。
ちなみに、日曜日に相当する日はなく、各人の都合で、休みたい日に休む。一旬に二日休むのが、普通の人の休暇ペース。

●朝紀(CK)
 真那砂半島国家の、伝統的な年号。王朝暦ともよばれる。現在の王朝が開かれた年を元年として年を表す。これは、新たな王朝が成立したことを宣言するまで続くので、たとえ権力者が交代しても、新王朝の成立を宣言しなければ、それまでの朝紀が継続される。現王朝である宝蓮水叢朝は、八十年前に前王朝である西振水叢朝を打倒し、新王朝の成立を宣言したため、その年から現在の朝紀が開始された。ちなみに、現行の王朝暦は単に朝紀とだけ呼び、新王朝が成立した時点で、滅びた王朝に対しての朝紀名が公表される。西振水叢朝の朝紀は慶冠[ケイカン]。慶冠254年契4月結20日に、新朝紀元年と、宝蓮水叢朝の成立が宣言された。
 ちなみに、半島内に複数の国家が成立していた時代は、個々の国家でそれぞれの成立年をもとにした朝紀が使用されていたが、後年、各時代でもっともふさわしいと判断された国家が、統一王朝として認定され、通砂暦に組み込まれた。

●通砂暦[ツウサれき](TS)
 統一暦。真那砂半島における記録上、もっとも信頼のおける最古の統一王朝である経都盛尊朝[ファルトセイソンちょう]の楼黄[ろうき]元年を基準とした年代。現在の朝紀80年は通砂1576年にあたる。ただし、通砂暦は実在が確認されている王朝を基準にした暦というだけであり、資料によっては、それ以前の王朝も存在している。
 現在の通砂暦が制定されたのは、西振樫環朝[セイシンカシワちょう]時代、臨供[りんく]42年。経都盛尊朝成立年を元年とする計算だと、臨供42年がちょうど1000年にあたるため、これを機に統一暦「通砂」が制定された。ちなみに、一般の人々は朝紀を使用しており、通砂暦が使用されるのは、大學や一部の研究機関に限られる。紫大では、朝紀と通砂暦を併記して教えている。



●端月[ハヅキ]
 通砂936年、敏弧[としこ]353年に出現した、月の衛星。直径20到ほどの小惑星が、月の引力圏に捕らわれたもの。端月の出現によって流布した流言が、三百五十年以上続いた伝紗朱樹朝[ディンシャアカギちょう]が滅亡するきっかけとなったとされる。
 伝紗族にとっては呪われた星だが、現実主義者の彼らは、とくに気にしていない。
 柏崎国の名宰相、丸茶諭[マルティーニュユ]の別名、端月翁は、彼が端月出現の年に生まれたことに由来する。

●各月名称
 導一月[どういちがつ]
 夢二月[ゆめにがつ]
 詩三月[うたさんがつ]
 契四月[ちぎりしがつ]
 編五月[あみごがつ]
 天六月[てんろくがつ]
 封七月[ふうしちがつ]
 我八月[われはちがつ]
 華九月[はなくがつ]
 想十月[おもいじゅうがつ]
 学十一月[まなびじゅういちがつ]
 諸十二月[もろじゅうにがつ]
 愁節[しゅうせつ]

●旬名称
 始旬[しじゅん]
 間旬[かんじゅん]
 末旬[まつじゅん]

●旬間名称
 初一日[しょついたち]
 次二日[つぎふつか]
 黒三日[くろみっか] 
 妙四日[たえよっか]
 央五日[なかいつか]
 白六日[しろむいか]
 運七日[うんなのか]
 還八日[かえようか]
 捺九日[なつここのか]
 結十日[むすびとうか]

●愁節
 十二月後の、年末5日間の連休。一年の終りと新たな年のはじまりを祝う。導一月初一日から、仕事始めである。西振朝時代は西冠節と呼ばれていた。

●時間
 一日十二刻、一刻は120分、7200秒。
 
 導一刻[どういっこく]
 夢二刻[ゆめにこく]
 詩三刻[うたさんこく]
 契四刻[ちぎりしこく]
 編五刻[あみごこく]
 天六刻[てんろっこく]
 封七刻[ふうななこく]
 我八刻[われはちこく]
 華九刻[はなきゅうこく]
 想十刻[おもいじゅっこく]
 学十一刻[まなびじゅういっこく]
 諸十二刻[もろじゅうにこく]

 一般的に、時間の区切りは刻が用いられ、分、秒に相当する単位は使用されない。あえて必要とされる場合は、以下の単位を使用する。

 刻来[こっく]=1/120刻=2分
 刻宇[こくう]=1/3600刻=2秒

■度量衡

 真那砂半島においては、各時代、各国家によりさまざまな単位が使用されてきた。現在の単位は、プリムローズ大陸で一般的に使用されているセキファ・ウルバン法をもとに決められている。

長さ到 [トウ](Tu)=約1km(0.98km)
 斥 [セキ](Sk)=約1m(0.98m)
 来 [ク](K)=約10cm(9.8cm)
 宇 [ウ](U)=約1cm(9.8mm)
面積平斥[ヘイセキ](HSk)=約1u(0.9604u)
 平来[ヘイク](HK)=約100cu(96.04cu)
体積立斥[リッセキ](RSk)=約1m3(0.941m3)
重さ括 [カツ](Kt)=約1000Kg
 圧 [アツ](At)=約1Kg
 抹 [マツ](Mt)=約1g

■通貨

 水叢王国の通貨制度は、銀貨を基礎とする銀本位制である。
 通貨単位は、良[リョウ](R)、夫[フ](F)、先[セン](S)。 
 1良=100夫=100000先
 1良あれば、一月は生活できる。

●宝蓮札[フォリアさつ]
 水叢国で発行する金券、紙幣。古くから真那砂半島国家では、印刷物の価値を保証する「札」のシステムを使用している。大量の金銭を動かす場合、宝蓮札に換えて取引するのが通例である。いわゆる小切手に相当する。
 宝蓮水叢国成立以後、しばらくは王朝の存続が危惧されていたので、宝蓮札が信用されるようになったのは、つい最近のことである。宝蓮札の最低発行単位は1良。

●銀行[ぎんこう]
 宝蓮札の信頼度が高まるまで、使用されていた金融流通システム。宝蓮朝成立期に、大陸系の銀行が進出して、定着した。現代の銀行とほぼ同じシステムだが、金銭の授受を馬車や飛脚により行っているため、野党の襲撃目標にされやすいという、リスキーな仕事である。宝蓮札の信頼度向上により、業務が縮小されるのではないかといわれていたが、結局、銀行自身が宝蓮札を使用して金銭を運用するようになったため、かえって信頼度が増したともいわれている。

●貸系度銀行[カスケイドぎんこう]
 大陸系の銀行で、真那砂半島一の規模を誇る。大陸系としては後発だが、近年、成長めざましい半島系の銀行とも互角以上の業績を上げている。

●學札[がくさつ]
 大學が発行する札。基本的に札の発行は、王朝の独占であるが、大學には大幅な自治が認められているため、各大學内のみで流通する札が存在する。
 有力大學の札ともなれば、學外でも通常の貨幣と同等の価値があるとされる。宝蓮札にくらべ、最低発行額が1夫からというのも學外流通を助長してるといわれる。
 その一方で學札は、宝蓮札に比べ造りが粗雑なため偽造の対象にされやすく、王朝側もその対応に苦慮している。ちなみに、紫陽花大學の學札は紫札[しさつ]とよばれ、信頼度と造りの精巧さで、一般銀行からの評価も高い。

■言語

 真那砂半島の公用語は、西振族の言語である西濱語[セイハマご]を原型とする、真那砂西濱語である。以前は西弐頭文字[サイニスもじ]、通称、本字[ホンジ]と呼ばれる表意文字を使用していたが、現在では渓声良文字とよばれる表音文字を使用する。ただし、大學や研究機関では従来通り本字を使用しており、事実上、本字と渓声良文字が混在している。
 近年、渓声良文字と本字を組み合わせた、渓声良本字を使用する者が増えつつある。
 作中の表記は、渓声良文字は片仮名、英字。本字は漢字、平仮名を使用して表現する。

●西弐頭文字[サイニスもじ](本字[ホンジ])
 真那砂西濱語を表記するために使用する、表意文字。
 宝蓮水叢朝以前は、本字だけを使用して言語を記録していた。
 朝紀13年以降、公式には渓声良文字を使用することになっているが、実際はあいかわらず本字表記があちこちに見られる。公立学校である小學でも結局、必要最低限の本字は教えている。
 正式名称は西弐頭文字だが、一般には本字と呼ばれる。

●渓声良文字[ケセラもじ]
 宝蓮水叢国の公用文字。表音文字。日本語における、ローマ字のようなもの。朝紀13年に、真那砂西濱語を表記するため、本字にかわり公用文字に制定された。

●渓声良本字[ケセラホンジ]
 近年、普及してきた非公式の表記法。日本語でいうところの、漢字仮名交じり文の、仮名をローマ字に置き換えたもの。両方の文字の利点を組み合わせたた用法が便利なため、この表記法を使用する者が増えている。

■民族

 水叢国のある真那砂半島には多くの民族が住んでおり、それぞれ独自の文化を形成している。しかし、長い歴史の中で混血が進んでおり、その結果得た平均的な身体的特徴が、現在の民族的なシンボルとなっている。
 最多数なのは、西振、伝紗、宝蓮の三部族だが、それ以外の少数民族の存在も知られている。

●宝蓮族[フォリアぞく]
 真那砂半島北東部の山岳地帯に住む、山岳民族。
 長身、褐色の肌に、蒼い瞳、ウェーブのかかった赤灰色の髪が特徴。
 筋肉労働に向いている。真那砂半島ではめずらしい、肉体派。
 現在の政治主権をもつ民族。かつて、一度だけ真那砂半島の統一王朝である、宝蓮帯尊朝[フォリアタイソンンちょう]を興したことがあるが、わずか八年で廃朝という、不名誉な歴史(半島史上最短の統一王朝)をもつ。宝蓮水叢朝の統治を持続させることが、宝蓮族全体の至上命題なのである。現在、80年まで政体を維持している。

●西振族[セイシンぞく]
 真那砂半島中南部に定住する、農耕民族。
 矮躯、黄色の肌に、橙色の瞳、濃紺の直毛が特徴。
 文学、絵画、芸能に長けており、真那砂半島の文化として有名なものは、ほとんどが西振族の手による。
 前王朝である西振水叢朝ほか、計五つの統一王朝を興す、真那砂半島最多数の民族。
 現在は宝蓮族に主権を明け渡す形にはなっているが、いずれ自分たちの王朝を興す自信があるためか、落ち着いたもの。そのためか、慣れない統一王朝の統治に苦闘している宝蓮族を軽蔑している印象がある。

●伝紗族[ディンシャぞく]
 真那砂半島北西部に住む、狩猟民族。
 中背。白色の肌に、紫銀の髪、赤い瞳が特徴。
 計算高く、論理的な思考に長けている。商人や学者が多い。
 統一王朝を興した回数は二回と少ないが、通砂歴584年に成立した伝紗朱樹朝[ディンシャアカギちょう]が、356年間という最長統治記録を持つことを誇りにしている。
 古くから半島北部に定住しているため、大陸とのつながりが深く、異文化に対する理解度が高い。

■宗教について

 真那砂半島には、複数の宗教が存在し、過去には宗教的な対立による闘争も行われていた。しかしながら、現在では宗教が政治や学問に干渉することは、ほとんどない。これは、真那砂半島全体に、学問と宗教を分けてとらえる、政教分離を一歩すすめた、學教分離[がっきょうぶんり]の精神が浸透しているためである。学問は理性のもの、宗教は精神なものという区別が明確なため、たとえ科学的事実が宗教的な概念と対立しても、相互不干渉が暗黙の約束となっている。
 当然のことながら、王朝が特定の宗教を保護する、などということはありえないため、民族的な対立はあっても、宗教的な対立が顕在化することはない。學教分離の精神が完全に定着したのは、通砂1000年ごろ、西振樫環朝[セイシンカシワちょう]時代であるとされる。

■軍事

 近年の真那砂半島の政治状況は極めて安定しており、対外的にも良好な関係を維持している。
 軍事力による王宮革命を達成した宝蓮族ではあるが、その後は、軍事力を重視せず、軍縮傾向にある。

武器について
 水叢長時代の戦闘は、槍兵と弓兵を主戦力とする、大陸式の用兵が主である。銃器の類は、大陸から導入されているが、高価な特殊武器という認識が大陸全土にあるため、その数は多くない。

●剣術について
 宝蓮水叢朝時代の真那砂半島において、剣による一対一の勝負という概念に特化した、剣術やその流派、というものは存在しない。かつては様々な流派が存在したらしいが、那刀の衰退と共に忘れ去られている。
このため、宝蓮水叢朝の真那砂半島で剣を学ぶということは、基礎からあとは我流、というのが一般的である。ただし、ごく一部には、失われた高度な剣の技術を教える者もいるらしい。
 また一般論として、過去から現在にいたるまで陸戦の主役は槍と弓であり、剣は軍属を象徴する武器ではあっても、実際は補助武器に過ぎない。

●那刀剣術の衰退について
 真那砂半島において、剣術が衰退する原因となたのは、悪名高き、流恵九朝[リュッケナインちょう]時代である。伝紗樫武朝時代、怒濤のごとく進軍してきた狂王、流恵九の軍勢により、真那砂半島は破壊の限りをつくされる。
 その時、応戦した真那砂半島の剣術使い達は、達人と呼ばれる人もふくめ、ことごとく敗北している。当時、伝紗樫武朝時代の真那砂半島では、那刀を用いた剣術が盛んで、様々な流派が存在した。しかしながら平和であるが故に、那刀剣術は、実用的な武器使用法から、観念的な精神主義に拘泥されるようになっていた。
 心眼などに代表される、達人級の鋭敏な感覚が、いつしか超常的な能力として神格化され、究極的には、剣を用いずとも、心の剣で敵を倒せるとされた。
 流恵九は戦場で、ことさら臣下に一騎打ちを申し出させて、達人と呼ばれる敵を打ち倒している。
 神格化されていた剣士達が、容易に倒されるのを見て、一般の兵士たちは戦意を喪失して行く。流恵九の部下が強かったのも事実だが、一番の理由は、那刀剣術が実用性を失った形骸的な精神論に堕していたためである。
 この傾向は、名声のある流派ほど顕著で、超常的なパフォーマンスで人気を獲得し、実用的な用法を軽視したためである。
 実際、少なからず善戦した流派もあるのだが、得てしてそういう流派は弱小で、決闘する価値もなしとして、大群を投入して殲滅している。
 心理的に優位に立った流恵九は、わずかの期間で真那砂半島を征服し1135年、流恵九朝を成立させる。軍事的天才ではあるが、政治的にはまったくの無能である流恵九によって、真那砂半島は混迷と退廃の時代を余儀なくされる。
 流恵九の恐怖政治は13年で破綻し、1147年に伝紗樫武朝が成立する。こうして真那砂半島は急速に盛時の繁栄を取り戻して行くが、ただ一つ、新王朝は那刀の製造と那刀剣術の使用を禁止した。
 また実際、この決定に正面から反対する者もなく、これ以後、那刀剣術は急速に衰退し、人々の記憶から失われてて行く。
 武器としての剣は、那刀に代わり、大陸伝来の長剣が用いられるようになるが、以前のような高度な剣術の流派は生まれず、基礎的な用法を学ぶのみとなった。

●不緩士到流[フュールシトウりゅう]
 剣術の流派。伝紗樫武朝時代末期に、隆盛を極めた那刀剣術。その極意は、那刀の刃文に宿る三つの精霊、「董[トウ]」「寧[ネイ]」「堵[ド]」の力を導くことにある、とされる。
 従来の達人の域を、未成熟な中級段階と定義し、更なる高みを目指せるとしたことで爆発的な人気を得る。
 刃の届かない遠間合を斬ったり、気合いで相手を吹き飛ばしたりといった技から始まり、究極的には天を駆け、地を裂く超人的な力を発揮するとされるようになる。
 しかし実際は、肉体的、物理的に不可能なものが大半で、奇術的なパフォーマンスで奇跡を捏造したものが大半であった。
 士到流が、不老不死の秘薬や、錬金術といった疑似科学に類する、いわば擬似剣術であったことは明らかであるが、当時の人々はそれを盲信し、精神的、軍事的な拠り所にすらした。
 征服者、流恵九はこの迷信を巧みに利用し、超人的な強さを発揮する……はずの士到流の剣士をうち倒すことで、容易に真那砂半島を征服した。
 このことで、真那砂半島における那刀剣術の名声は失墜し、ひいては那刀という武器そのものが衰退、消滅する原因となった。

●那刀[ナトウ]
 真那砂半島固有の剣。形状はいわゆる日本刀。かつては、半島全土で使用されており、大陸へ輸出していた時代もあったが、那刀剣術の衰退により、宝蓮水叢朝時代ではその存在そのものが忘れ去られている。
 突きと斬りの二点を追求した那刀は、上質のものなら金属製の兜すら両断し、刃自身が美術的価値をもつほどの輝きを放つ。

●瀬亞刀[セアトウ]
 宝蓮族の伝統的な刀剣。形状は鉈を長くしたもの。切っ先は尖っておらず、叩き切ることのみを追求している。宝蓮水叢朝の男子の王族は、儀礼的に瀬亞刀を帯剣している。

●那刀の分類について
 那刀に分類される刀剣は、その製造年代から、いくつかに分類される。

@古刀 伝紗朱樹朝以前のもの
A新刀 陣九湖灰朝から西振樫環朝中期までのもの
B新々刀 西振樫環朝中期から末期までのもの
C現代刀 流恵九朝以降、特に宝蓮水叢朝以降のもの

 古刀に関しては、那刀という形式の刀剣が未成熟な段階のもの。新刀は、那刀形式の刀剣が確立し、かつ大量生産がはじまった時期のもの。新々刀は、那刀全盛期の末期で、美術刀剣としてのみ特化した時期のもの。

 古刀期は、様々な試行錯誤がなされたため、多様な那刀が数多く存在し、また、中には名刀と呼ばれるものも多い。
 新刀期以降は、古刀の名品を模倣したものが多く、中には優れた物も存在するが、次第に形骸化し、実用性が失われていく。
 新々刀期になると、那刀剣術の形骸化と共に、表面的な美観のみを追求したものに堕していく。流恵九との戦いに使用された那刀は、達人と呼ばれる者ほど、美術的な価値の高い、脆弱なものを使用していた。

●争志[ソウシ]
 宝蓮族の一部に伝わる、決闘の精神。武士道や騎士道に類する概念。その理念は単純で「双方合意の上での一対一の勝負においては、その決着に遺恨を残さないこと」というもの。争志にのっとった勝負は、たとえ敗北しても不名誉ではないとされる。大陸式の武器や戦術が導入された現代において、この思想は異端だが、トレスは争志という概念に興味をもつようになる。

●牡幕[ボマーク]
 かつて那刀剣術全盛期に行われていた、武器に関する商取引の形態。最初に売り手と買い手が協議して、適正な価格を決める。その後、双方が選出した戦士による、一対一の決闘で、最終的な価格を決定する。売り手側が勝利すれば、適正価格の倍、買い手側が勝利すれば、適正価格の半額で取り引きされるのが一般的。牡幕の起源は定かではないが、当初、牡丹柄の幕の内で決闘が行われたため、というのが定説。

■刀剣銘

●富良帝丸 希定[フラディガン=マレサダ] (狩鳴切り希定)
 トレスが秘蔵している、那刀。大業物。いわゆる日本刀の形状をしており、黒い漆塗りの刀装が施してある。鐔は胡蝶蘭図鐔[こちょうらんずつば]。鎬造り[しのぎづくり]、丁子乱れの刃文。長75宇(73.5cm)。実用性を重視しているため、美術刀剣としては一流半。しかしながら、古刀そのままの製法で造られており、現代刀としては最高水準である。なお、希定は拵[こしらえ]からすれば打刀であるが、銘の向きやトレス自身の用法は太刀のものであるため、作中では太刀と表記する。一話でカズトの汲場狩鳴を切り折ったことから、狩鳴切り希定の異名を得る。

●汲場狩鳴[クムバカルナ]
 カズトが秘蔵する瀬亞刀。巨大な鉈の形状をしており、表面に太古の神が彫り込まれている。切っ先が切り取られているため、突くには不向きで、力任せに叩き斬るのに適している。長94宇。一話でトレスの希定に両断される。

●帯 殻國[オビ=カラクニ]
 伝紗朱樹朝時代の那刀製造集団、帯の中でも最も一二を争う名工、殻國の手になる那刀。実用性と刃文の美しさを両立した刃の盛名は、宝蓮水叢朝時代まで響いている。後代の刀工の多くが、殻國を目指したという。名刀の代名詞。

●帯 霧包[オビ=キリカネ]
 伝紗朱樹朝時代の那刀製造集団、帯の刀工、霧包の手になる那刀。

●掘雅 近忠[ボルガ=キンチュウ]
 伝紗朱樹朝時代の刀工、近忠の手になる那刀。

●古郷諭 賢宗[ブルゴーニュ=サカムネ]
 陣九湖灰朝時代の刀工、賢宗の手になる那刀。名刀の代名詞。

●古郷諭 晴実[ブルゴーニュ=ハルザネ]
 西振樫環朝時代の刀工、晴実の手になる那刀。賢宗の孫弟子にあたる。楔と共に、新刀期の名工の一人。

●酸羽諭 君定[シャンパーニュ=キミサダ]
 西振樫環朝時代の刀工、君定の手になる那刀。賢宗の玄孫弟子にあたる。

●次映蒸寸 時國[ジェイムスン=トキクニ]
 西振樫環朝時代の刀工、時國の手になる那刀。

●浄盤似 助影[ジョウバンニ=スケカゲ]
 西振樫環朝時代の刀工、助影の手になる那刀。雲霞を思わせる独特の沸[にえ]が特徴。

●庫裡子靖 楔[クリコヤス=クサビ]
 西振樫環朝時代の刀工、楔の手になる那刀。爛熟期の作品ながら、古刀の荒々しさと、新刀の繊細さを融合させた、新刀期の名工として名高い。

●同順理 絵瑠部[ドウジュンリ=エルベ]
 那刀。二話において、安儀螺屋と琶名商会との間での牡幕の対象となった、新刀期の小太刀。切刃造り、互の目、板目流れに強い金筋が走る。西振樫環朝時代における、那刀爛熟期の作品。実用性はともかく、刃文の美しさは一級品。ただし、絵瑠部の那刀が市場に出るのは、これがはじめてなので、金銭的価値は未知数。ちなみに絵瑠部は一般的に、陶芸家として知られる。

■文化芸術

●紙と印刷の文化について
 現在の真那砂半島における、文書記述方法は、紙に記述、もしくは印刷することである。紙の技術の伝来は、伝紗朱樹朝[ディンシャアカギちょう]時代であるが、当時の製法では手間と費用がかかるため、一部の貴書にのみ使用され、それ以外の文書は竹に墨で文字を書いていた。
 一方、印刷技術は、真那砂半島で独自に発展した技術であり、その完成は西振水叢朝[セイシンミナムラちょう]時代である。安価な紙の製法の発明と、金属活字を使用した活版印刷の普及により、誰でも容易に本を入手することができるようになった。
 この出版革命は、真那砂半島全体の学問に対する意識にまで影響をあたえることになる。それまでは書物が貴重であったため、知識を暗記することが重要とされていたが、出版革命後は、いかに効率よく知識を利用できるかという、索引能力が求められるようになった。すべてを暗記するよりも、必要な知識を検索するほうが、より広範な情報を扱えるのはいうまでもない。

●晃年紀記[こうねんきき]
 歴史書。宝蓮帯尊朝[フォリアタイソンちょう]時代に編纂されたも史書で、通砂前1500年前までの歴史が記されている。著者不明。
 王朝の勅命による編纂であるため、長年、真書とされ、伝紗朱樹朝[ディンシャアカギちょう]時代には、統一暦制定の根拠とされた。だが、新暦制定のための調査の結果、宝蓮帯尊朝自身の手になる偽書であることが判明する。
 当時、統治に苦慮していた宝蓮帯尊朝が、自己の正当性を主張するため、宝蓮族に有利な歴史を捏造したのである。
 これは公正中立でなければならないという、歴史書のセオリーを逸脱した蛮行であり、現代でも宝蓮帯尊朝、ひいては宝蓮族そのものの汚点となっている。
 
●歴世記[れきせいき]
 歴史書。西振樫武[セイシンカシム]朝時代、洛朱万[ラクシュマン]が編纂した経都盛尊朝から西振樫武朝までの史書。紀伝体の通史。真那砂七史の一つ。本紀(統一王朝の支配者の記録)90巻、世家(諸侯の記録)30巻、列伝(臣下の記録)50巻、書(文化、風俗史)10巻、表(地図、年表)3巻、索(索引、総合相関図)1巻。

●柏崎史丸茶諭伝[カシワザキしマルティーニュでん]
 歴世記の列伝二十八巻。柏崎国の宰相、丸茶諭の一代記。宰相時代の活躍を中心に書かれているが、幼年期や晩年のエピソードも含まれる。
 後年の戯作、端月翁丸茶諭で描かれるようなエピソードは記述されていない。

●端月翁丸茶諭[ハヅキオウマルティーニュ]
 戯作。伝紗樫武朝時代、九談封現[クダンホウゲン]著。柏崎国の宰相、丸茶諭が失脚した後も隠然たる力を有し、国家転覆をねらう逆賊と暗闘を繰り広げるという内容。
 丸茶諭の異称、端月翁はこの作品を出典とする。
 内容は全くのフィクションであり、歴史的事実と反する事柄が多々、指摘されてきたが、丸茶諭の名を現代に伝えたという功績は否定できない。

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