ロボット三原則という呪縛をかけられた"機械生命体"の物語
アイザック=アシモフさんのSF小説〈われはロボット〉を読んだ。
有名な"ロボット三原則"が登場するSF小説。ロボット技術の発展と差別にまつわる物語を、編年体のオムニバス形式でまとめたもの。アシモフ作品は〈ファウンデーション〉シリーズを全部読んでいるのだが、ロボット系の作品はほとんど未読だった。この作品の肝は、ロボットの思考装置である"陽電子頭脳"というものが、人間には理解できない原理で作動しているということ。機械自身がより高度な機械を設計することで、人知の及ばぬシステムが実現しているらしいです。「人間を傷つけず、人間に服従した上で、自分自身も守る」というロボット三原則は絶対のものではあるけれど、それをロボットの陽電子頭脳がどう解釈して行動するかは専門のロボ心理学者でも容易には把握できない場合があり、そこが物語を面白くするギミックとして働いています。現実の機械は、"人間を傷つけるな"といった抽象的な命令を理解させるのは困難だし、悪意がなくてもシステム的なトラブルで人間を傷つけてしまったり、結果的に人間の命令に反してしまうことは十分ありえますが、"陽電子頭脳"にコントロールされたロボットは絶対にルールに反しないし、もし反しているように見える場合も、何かしらの"ルールに反しない解釈"が存在しているのです。この設定にはいまいちリアリティを感じませんが、ルールを規定してその中で面白い物語を展開させるという点では非常に優れた作品だと思うし、だからこそ21世紀の現在も愛読されているのでしょう。この作品は、人工知能に制御された"人型機械"ではなく、陽電子頭脳という魂を持ち、ロボット三原則という呪縛をかけられた"機械生命体"の物語なのだと解釈するのが正しい気がします。
それと、アシモフ作品のロボットは、"人間に悪意を持たない"という点が、同ジャンルの多くの作品と違う所。今も昔も、様々なSF作品で人工知能が悪意を持って人類と敵対する中、優れた能力を持ちながらあえて人類のために滅私奉公するロボットを描く姿勢は、なにげに僕も影響を受けている。知性あるものは、むやみに他者を傷つけたりはしないのです。先頃公開された本作の映画版〈アイ,ロボット〉は、ロボットが人類と敵対する系の話に翻案されてるらしいので、ちょっと微妙。評価はそう悪くないらしいが……。