「小説」カテゴリーアーカイブ

『ベテルギウスの泡』Twitterで小説を:その91~100 #twnovel

100本達成、まだまだ行くよ。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

91)○カメラ・オブスクラ:「暗がりの部屋から、真実を求めるべきではないと、あなたは言う。そうではない。私情を廃し、見たままを描く術があれば良いのです」そう言って、彼は精緻な景色が写し取られたガラス版を示す。画業の師は弟子を撲殺し、写真術はまたもや百年の眠りについた。

92)●選択:A社とB社、どちらの車を購入するか悩む。A社はデザイン、B社は環境性能に優れている。実物を見ても甲乙つけがたい。悩みになやんだ末、霊能者に除霊してもらう。物欲霊に憑かれるとは、今時珍しいですねと言われてしまった。昭和時代には、ありふれた霊だったそうだが。

93)○ベテルギウスの泡:僕は彼女と、星空を眺めていた。オリオン座の一角を占める、超新星が散る瞬間に立ち会えたなら、プロポーズしようと決めていたからだ。それが、今。輝く夜空に照らされた彼女を抱き寄せると、華奢な体が光の泡と化し、虚空に散る。彼女はジャウザーだったのだ。

94)●最後のアクセル:彼はエコドライブの達人。効率を追求し、燃費はリッター五〇キロ以上を叩き出す。エコマスターとしてメディアでもてはやされた彼が、不慮の自動車事故に巻き込まれた。辞世の言葉はこうだ。「こんなことなら、最後に思い切りアクセルを噴かしておくんだった……」

95)○進化は先:研究論文に疲れた夢うつつの中で、天から声が浴びせられる。『進化は先、進化は先』神の言葉だろうか。爆発的に文明を発展させながら、生物としては進化せぬ人類への警鐘だろうか。はっきり目覚めると、電車の中。アナウンスが告げる。『まもなく、新川崎、新川崎……』

96)●初志貫徹:「ぶどうパンあげるから、キスさせてよ」「やなこった」「え? アンタ、ぶどうパンが好物だったじゃない?」「その通り。だからこそ、お前のキスとセットなんて不純は我慢ならん」「むかっ、そんなこと言うなら、ぶどうパン抜きで純粋キッスの刑を執行よ!」「むぐっ」

97)●スマホ:うちの爺さんが、スマホが欲しいと言う。携帯の充電もしないくせに、どんな心境の変化だ? スマスマ騒ぐので、近所のホームセンターへついて行くと、携帯売場をスルーして住宅展示場へ。スマイルホームの、笑顔が素敵な須磨ほのりさんを紹介された。確かにスマホだ……。

98)○EV可能:二十年乗り続けたガソリン車を検分し、業者は言う。「車体は使えます。タイヤをインホイールモーターに、パワーユニットをバッテリーに換装すれば電動化できます」「運転は?」業者が得意げに取り出したのは、ゲーム機のコントローラー。味気ないモータリゼーションだ。

99)●自然が呼ぶ:下腹の鳴動につられ、オフィスを抜ける。たどりついた男子トイレは超満員。階段を下るが、男子トイレ満員。下るが満員。下る、満員。下、満員。下、満。クダッ……********……フゥ。 集団食中毒か? すごい行列だな。ともかく、ズボンをどうにかしたいよ。

100)●雪女:朝、ベランダに薄く雪が積もっていた。「近くに、雪女がいるんじゃない?」ルームメイトが冗談混じりに笑う。雨が降ると、この付近だけ雪になるのだ。「雪女ってか、雨女の雪バージョンよね。それとも雪男?」私も軽く返すが、実は先祖が雪女なのとは冗談でも言えなかった。

Twitterで小説を:その81~90 #twnovel

あとちょっとで100本です。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

81)○時空葬:「馬鹿なことはおやめなさい!」開発者の叫びも空しく、故人は冥王代へと転送された。有機物の塊が、原始の海に進化をもたらすのか? 死者のデータが、シミュレーションの海に没して行く。学術的に無価値と言われようと、時空葬は画期的な葬儀パッケージとして大人気だ。

82)●生存保証:余命半年を宣告された闘病生活も、一年をすぎた。生きているのに、生死は曖昧だ。「僕は本当に、生きているのだろうか?」「もちろんよ。ずっとわたしが見守っていてるんだから」枕元で微笑む少女。死神の彼女が保証するなら、生き延びていることに間違いはないだろう。

83)○天動:星の欠片を蒔きながら、天球の底を這いず大穴から逃れようと、駆け出した。一歩を蹴り出すたびに、輝く冷気が間近に迫る。地動説の信奉者は、あれを熱球だと誤解していたという。冷たい円環――太陽に魅了されながらも、黄道を渡りきる。星屑拾いは、命がけの美しい仕事だ。

84)●絶筆:「先生、あと一話。この傑作を完結させてください!」末期ガンの患者へ頼むには、酷だとわかっている。だが、闘病中に連載したこの小説が、間違いなく最高傑作だ。「それで大成功だよ。非才な私には、傑作モドキが精一杯さ」そう嗤って先生は絶命し、未完の傑作は完成した。

85)○新車:エコカーを買いにきたはずなのに、勧められた車は、希望と似てもにつかない。バットで殴りつけ、密林に半世紀放置したような醜悪さ。なのに、どうしてこんな不快な塊に惹きつけられるのか。ディーラーが笑む。「当然ですよ。これは、あなたの欲望を形にした車なのですから」

86)●ホウレンソウ:「結婚しないか?」元同僚の彼女は、俺に険しい視線を返す。「嫌だと言ったら?」「泣く」「泣くの?」「うん」「お腹の赤ちゃんはどうするのよ!」「それ、初耳なんですけど、泣くよ?」職場では腹立たしかった、ずさんなホウレンソウが、今は愛しくてたまらない。

87)○鎧装機巧テンペスタ:軍楽が鳴り響く戦場で、五機が潰された。敵機巧鎧は機動力で勝る。俺は二機に押されるように、河へ脚部を浸した。追撃の二機はしかし、漏水で精霊回路が短絡し、平衡を失う。先日まで、彼らの機巧鎧を駆っていたのだ。あらがう術は熟知している。鎚鉾で討つ。

88)●殺し文句:「あなたが、好きです」告げる彼女がまぶしくて、視線をそらす。「なぜ、僕なんかに告白するんだい?」卑屈だとわかっていても、そう聞かざるを得ない。「……愛に、理由なんて要らないのよ」そう微笑むと、僕が刺した女は血溜りの中で、幸せそうに生きることを止めた。

89)○遅延連絡:超満員の電車内で、耳を疑う。『車内での携帯電話の使用は、お控えください』一時間以上、駅間で停車したままのアナウンス。俺は非常コックでドアを細く開放し、飛び降りる。清々しい気分で携帯を広げ、自社に遅延を伝えた。いかなる時でも、乗車マナーは守らないとな。

90)●面識:コンビニ弁当を手に、駅へ向かっていた時。「おはようございます」スーツ姿の女性に挨拶された。怪訝そうな僕に、彼女は続ける。「暖めますか?」ああ、あのコンビニで、店員だった人だ。「はい、僕の人生を暖めてください」直後に彼女が浮かべた笑みを、僕は生涯忘れない。

Twitterで小説を:その71~80 #twnovel

創作のコツをつかみたい。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

71)●バカ発見器:その短文に、日本が震撼した。現職の総理大臣がツイッターで、「バカはしぬ」とつぶやいたのだ。本人? 誰が? 俺が? 自殺予告? さまざまな憶測が飛び交う。当人は釈明をしなかったが、支持率は増加に転じたそうだ。バカと思われたくないバカは、意外と多いな。

72)○狭間:「あなたは事故で死亡しました」「ここは死後の世界?」「そう捉えていただいて結構です」「これからどうなるのさ?」「現在、新しい肉体を培養中です」「治るんだね」「はい。現代の技術なら蘇生可能です」「それって、死んでないのでは?」「法律的に、あなたは死者です」

73)●忙中:年の瀬になっても、仕事に終わりが見えない。終電ギリギリの時刻に、メールが着信する。『ことしは、パパもサンタさんもいそがしいんだね。ぼくはへいきだけど、ママがさびしいって、しくしくないてるよ』『悪かった、二歳の息子にもよろしくお伝えください』と、妻に返信。

74)●誤表記:相応の購買を受けてもらおう。ネット通販サイトで、新品のパソコンが一万円だ。速攻で999台購入。もちろん、大半が中身のないディスプレイであることはわかっている。あの中にただひとつ在る、「世界の欠片」。誤表記の真価を知る者たちはすでに、争奪を開始している。

75)○除夜:場末の寺院に蓄積された、闇と対峙する。年末の人間たちは、存在定義がゆがむ。突キ、裂キ、除ク。突キ、裂キ、除ク。腐臭をまとった暗黒を神刀で斬り刻み、梵鐘で浄化する。刻む数は、ハンドレットエイト。除夜の鐘が高らかに凱歌を唄い、腐った夜は清浄な闇へと還った。

76)●肉欲:ボクの悩みを聞いて欲しい。もうすこし、ムネが要るのだ。ホラ、こんなふうに、両手で掴めるぐらいじゃ物足りない。もっと、両手からあふれるぐらいのボリュームを希望。むにむにと、塩、コショウをもみ込んだら最高だと思わない? ボク、鳥ムネ肉の調理には、こだわるよ。

77)○竜洞:穴蔵を抜けると、鮮烈な陽光に目がくらむ。細めた視界の先で、朝日に裏打ちされた巨塊がゆるりと首をもたげる。青年は震えながら、口元で火焔をちらつかせる古竜に、暦の石版を差し出した。十二年周期の盟主が委譲される。ウサギ族の青年はピクリと耳を弾き、息を吐いた。

78)●苗床:その庭園の惨状に、竜族の少女は息を飲んだ。植えられた苗は塩にやられ、火であぶられ、瓦礫の隙間からしおれた先端がのぞく。昨年、花を咲かせたものはごくわずか。少女は手にした数粒の種子を、祈るように苗床へ蒔く。今年は、希望の種がたくさんの花を咲かせますように。

79)○都市鉱山:相棒が、コンクリートの壁を破砕する。「昔は、電子機器に使われた貴金属の総量が鉱山なみだから、都市鉱山って言ったんだぜ」「らしいな」俺は石壁の奥に貼りついた、ナノマシンの分泌物を回収する。廃棄都市で産出される、貴金属を含むゲロ。これが現代の都市鉱山だ。

80)●ステマ:「このRPG、キャラデザは有名漫画家、シナリオは人気ラノベ作家、音楽は大御所の作曲家。もう買うっきゃないぜ!」「それってステマ、ステルスマーケティングってやつだろ?」「うん。実は、このソフトの評判を落とすために、ステマ疑惑を起こすステマをやってるんだ」

★Astronaut 2012年の年賀状:ツイッター小説自薦集 #twnovel

今年は絵は無し。

2012年の年賀状です。ツイッターに投稿している140文字小説から、新作+評判の良かったものを抜粋。

2012よっしい年賀状_web

本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

Twitterで小説を:その61~70 #twnovel

もう少し、打率を上げたい。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

61)●契約離婚:婚前契約に従い、妻との離婚が成立した。「予定通りとはいえ、離婚は疲れるよ」「でも、不本意な結婚を続けるよりは、良いでしょ?」新居で荷を解きながら、恋人が優しく説く。彼女との相性の良さは実証済みだ。家のしがらみを断ち、今度こそ元妻と恋愛結婚する予定だ。

62)○小説出版:友人が小説を出版した。小規模な自費出版だが、新車が買えるほどの費用がかったそうだ。「評判はどうなの?」出版前は自信満々だった友人は、重くやつれた声で答える。「クソだとけなされる作品のすごさがわかったよ。少なくとも、クソだとけなしてもらえるんだからね」

63)●旋弾:極寒の海峡をはさみ、ふたつの軍事基地があった。猛吹雪の収まった日、両軍の兵士が氷原に対峙する。同時に拳銃を抜き、発砲。9ミリ弾は氷上に爆ぜるが、勢いを失わず、コマのように旋回を続ける。より長く廻した方が勝ち。国の事情はどうあれ、兵たちの関係は良好だった。

64)●積層障壁:篠突く雨に刺されながら、青いコートが俺を圧倒する。細く疾く。それだけを念じ、1024層の形成力場に綻びを見いだす。「拳に纏(まと)え!」十指に握る形成力場が雨滴を加速させ、270度四方から1023層を穿孔。残る1層を、俺のシンプルな暴力が殴り通した。

65)●発熱さん:「こんにちは、発熱です!」頓狂な声を上げて、その女はやってきた。俺が四〇度の熱でダウンしているのをいいことに、掃除や洗濯、料理を勝手に始めやがる。幻覚のくせに、マメな性格だ。大学の後輩に似ている気もするが、「発熱」と「初音」を聴き間違える俺ではない。

66)○涙没:北の国で王が死に、国民は深い悲しみに包まれた。なぜなら、王の死を悲しまぬ者は、みな殺されていたからだ。さらに王は、魔女に呪いをかけさせていた。高らかな呪詛が響くと、あらゆる命が滂沱の涙を流し、街を、畑を、森を、山河を覆いつくす。王国は悲しみの涙に没した。

67)●亡者志願:私は酷薄に生きてきた。群がる奴は邪魔なだけだと思ってきた。そんな私に、あいつは呪いをかけた。いまなら、あれを墓場にたとえる奴の気持ちがよくわかる。自ら志願し、亡者に転生するようなものだ。あの言葉さえなければ。「そんな貴方が好きです、結婚してください」

68)○アララギ・アース:地殻内部の熱ムラが、惑星をたゆませている。大人は移住の相談ばかり。だから僕たちが、この星を救うと決めたんだ。裂孔をくぐり、中心へ。赤く熟した星核炉を再起動できれば、可能性はある。直径五キロのちっぽけな星だけど、それでもここは僕らの地球なんだ。

69)●夜勤:彼の仕事は、年末が繁忙期でした。クリスマスに寂しい思いをしていた、私。家業を継ぎ、働き詰めだった、彼。いまは、彼が遺したこの子のために、私が世界を巡っています。ごめんね、寂しい思いをさせて。あなたにも、ちゃんとプレゼントを届けるからね。メリークリスマス。

70)○穴蔵夢:衝撃とともに腐葉土を頬張る。穴蔵に放り込まれたのだ。奇怪な甲虫の鉤爪が左肩をもぎ取り、右腿を噛み潰し、腹を裂き割った。叫ぶ間もなく覚醒すると、穴の縁にいる。虚ろな術者が、新たな傀儡に俺の意識を植え付け、再び穴蔵に放る。憑依と拷問の複合か、少々厄介だな。

Twitterで小説を:その51~60 #twnovel

「●」はエンターテイメント性重視、「○」は作家性重視で書いてます。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

51)●鏡面:彼が亡くなって、一週間。「無理、してるのかな?」鏡の前で尋ねると、頬杖をついた女が、疲れた表情で左手のリングを見つめる。そっか、忘れてた。彼が亡くなる前に、私たちは結婚したんだ。「うん、私は無理してる」鏡の向こうで、女はやっと、小さな幸福に頬をゆるめた。

52)○岩窟:林立する、石灰の奇岩。目的地は、岩をくり抜いた白壁の住居だった。生活感に彩られた穴居の奥、施錠された扉をくぐると、静謐な空気に震える。ライトアップされたのは、聖母のフレスコ画。保護も受けず、これだけのキリスト教絵画が受け継がれてきたことは、驚愕に値する。

53)●忘年会:「脳味噌、出します!」女子大生の頭が膨らみ、灰色の豆腐を散らして消えた。「すわ、手足分離!」寝ころんだ老人が、両手両足を大根のように外して霧散する。異形の芸に満足した演者たちが、続々と壇上から消滅して行く。幽霊たちの忘年会は、なにげに成仏のチャンスだ。

54)○菓幣:チョコパイ革命に半島が揺れる。工場の支給品に端を発した、チョコパイの高騰は、「貨幣」ならぬ「菓幣」の誕生を意味した。貨幣は価値を喪失し、菓幣を求める民衆の欲求は、民主化革命の漁り火となる。パンがなければお菓子を、お菓子がなければ革命を起こせば良いのだ。

55)●奇月蝕:月の伴星たる伴月は、昏(くら)い。皆既月食を、さらに伴月が遮る今夜だけが、数少ない観測の好機だ。その知識を得たことを、僕は後悔している。今も赤黒い眼球に穿たれた伴月の瞳が、ぎょるりと覗き、僕を蝕んでいる。知って欲しい。伴月に魅入られた者は、儚いのだと。

56)○盗品関与:家の裏手の古墳が盗掘された。学術調査が決まった矢先のことだ。俺はたまらず、親父に詰め寄った。「アンタ、犯人の一味だろう?」「……ああ、そうだ。お前の養育費がどこから出たと思ってる?」「知ってるよ。俺がしたいのはガキの頃、秘密基地にしていた横穴の話さ」

57)●お手:レトリバーと遊ぶ。「この犬、芸はできるの?」「得意だよ」「じゃあ、お……」僕が「お手」と命じる前に、犬はすっと右前足を上げた。掴んで放すと、すかさず左前足を上げる。右、左、右、左と、僕は前足を掴まされ続けた。「こいつ、人に「お手」をさせるのが得意なんだ」

58)○四駆:これは使えるな。その車は片手でつまめる大きさながら、四つの車輪にモーターを内蔵し、スマートフォン経由で操作できる。障害物へ前進を命じると、自動で回避し、壁の手前で停止した。男は満足して計画に組み込む。いまやテロリストも、最新のオモチャを物色する時代だ。

59)●欠点:彼女は魅力的だった。「僕のどこがいいの?」そう尋ねるのが怖くなるほど。かわり尋ねてみる。「僕の欠点って何だろう?」彼女は、唇の端を引いて言う。「わたしが大好きって気持ちを、信じてくれないこと、かな」思わず彼女を抱きしめると、欠点の削げ落ちる音が聞こえた。

60)○大いなる跳躍:「鳥は大空を飛びはしない。翼を大地で休める合間に、とびきり大きな跳躍を繰り返しているだけだ。どれほど飛行時間を重ねようと、それが跳躍であることに変わりはないさ」そう語った宇宙飛行士は、惑星探査の途上で消息を絶ち、いまも大いなる跳躍を続けている。

Twitterで小説を:その41~50 #twnovel

創作メモ兼用なので、これらをフルサイズの小説に起こす場合もあります。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

41)■混濁:仕事を終えて帰宅する頃、体調は最悪になっていた。どうにかグリーン車までたどりつき、貧血寸前でシートに身を沈める。決済のため、天井のポートに電子マネーをかざす、赤ランプ。かざす、黄ランプ。かざす、白ランプ。かざす、茶ランプ。なんだ、緑ランプは売り切れか。

42)■宇宙遺産:「この先は人類初、アポロ11号の月着陸地点。宇宙遺産に認定されているんだ」「本当は、宇宙軍の軍事基地があるんだろ?」「いいえ、エイリアンの秘密基地よ」「違う、月着陸のヤラセを隠してるんだ」「みんな正解。人類の夢と希望がめいっぱい、詰まっているのです」

43)■婆ガイガー:うちの婆さんは、放射能が見えるそうだ。紫がかった灰色で、舐めると薄甘いとか。冗談だと思ってたけど、昨今の風潮じゃ馬鹿にもできない。思い切って、弟子入りを頼んでみた。そしたら婆さん、言いやがった。「オレの専門はラジウムだぁ、セシウムは他をあたりぃな」

44)■浮岳:スカイツリーに係留された、全長三百メートルを超える飛行船。巨体を貫くキャットウォークを歩み、船の中央部を目指す。通された執務室は簡素で、出迎えた彼女は、僕の良く知る幼なじみのままだ。日本語を公用語とする浮遊国家『浮岳』、その初代大統領との会見が始まった。

45)■さらばWコム:ダウス携帯から送信。『データ通信では携帯に負ける、早急に通話定額を実現せよ』宛先は、過去の自分。この機能が欲しくて、大嫌いな携帯電話に機種変更したのだ。Wコム終了が現実なら、終わらない現実を創るまで。Wコム信者は常に、PHSの勝利を確信している。

46)■鎌倉俥夫は眠れない:深夜の鎌倉を、人力車がゆく。俥夫は無愛想に、不気味な古跡を巡った。洋館の門前で客が尋ねる。「いつ、私を殺してくれるの?」俥夫は首を横に振り、駅前で降ろす。妙な噂のせいで、夜に客がつくのは助かるが、死神の真似をさせられるのは、勘弁してほしい。

47)■俯瞰:未来の学生は語る。「この時代の日本は、何を考えていたんだ? 敗戦を終戦、軍隊を自衛隊と称し、非核を唱えながら核の傘に守られている。実質、アメリカの属国じゃないか」「同感だけど、我々も独立惑星と称して、異星人に飼育されているのだから、似たようなものだよ」

48)■宿狩:這い出した岩塊が、粉塵をまとって砕け散る。そいつは、外殻を持たぬ尾部を、ヘルミット城塞の基底にねじ込んだ。荷が勝ちすぎたか? 些細な危惧は、齢百年の古城が鳴動することで払拭される。辺境甲殻獣「宿狩」に背負われた城塞が、敵陣に向けてずしりと移動を開始した。

49)■落下物:手にした携帯が弾き飛ばされ、ホームと電車の隙間に吸い込まれる。男は呆然と立ちつくし、終電を見送った。携帯は、駅員に拾ってもらったが、乗るべき電車は絶えた。通過する急行を見送りながら、男は思う。携帯を落とさなければ、俺はこの電車に飛び込んでいただろうな。

50)■幸福な虜囚:科学は、人々が考えているよりも進歩していた。情報はゆっくりと開示され、偽りの最新技術が時代を動かす。おかげで人々は、神も悪魔も超能力も、異星人も未来人も超古代人も、前世も来世も幽霊も信じられた。「幸福な虜囚」と呼ばれる時代は、まもなく終焉を迎える。

Twitterで小説を:その31~40 #twnovel

目標は、とりあえず1000本。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

31)■百億: 俺は、人口が百億を越えた日に生まれた。地球の人口は百億以下であるべきだという風潮から、ずっと差別を受けてきた。そんな時に、あの隕石落下だ。人口は一挙に半数以下。いまでは、産めよ増やせよの時代。子作りのノルマを果たしている今も、俺は百億の屈辱を忘れない。

32)■読書屋:契約読者の仕事をはじめた。依頼された本を購入、読書してアンケートに答え、報酬をもらう。本代は会社持ちで、おそらくは依頼主が支払うのだろう。それにしても、依頼されるのは平積みのベストセラーばかり。最近は、出版不況を脱したなどと言われているが、まさか……。

33)■飛翔する船: 深淵に投錨すると、見えざる腕が錨を曳きはじめる。その推力が大気を食み、船は一気に高度を稼いだ。外界船は、気流と深淵流を頼みとする。深淵とは何かと尋ねると、若い女の船長は「頼るべき、不確かなもの」と答えた。船乗りらしからぬ合理性に、私は好感を抱く。

34)■置換: 生きるしかない。決意した私は、楽に生きる手段を模索する。着火は辛いらしい。絞首は漏らすらしい。泥酔して、浴槽内で手首を切る。よし、これで生きよう。おい、全然ダメじゃないか。言われた通り、「死ぬ」を「生きる」に置き換えたけど、生きる気力なんか湧かないぞ。

35)■無能者(むのうしゃ):彼は自他ともに認める、無能な人。任務に無駄な手間をかけ、必要な手間をおろそかにした。その非難を避けるため、昼夜を問わず働き続け、体臭を撒き、能力の限界と主張する。改善の努力は丹念に無視した。ゆえに彼は、自他ともに認める、無能者に相違ない。

36)■見守る理由:確かに異星人は、我々を見守っていた。彼らは我々の未来を賭の対象にしていたのだ。さまざまなリスクを乗り越え、外宇宙への進出を果たすほうには、賭けていなかったらしい。失礼な話だが、今、我々が見守っている地球という惑星の未来は、滅亡するほうに賭けている。

37)■一輪車: 夕闇に、傾ぎながら走る一輪車へ、違和感をおぼえる。乗っているのは子供。道はせまく、車が激しく行き交う。声をかけることすら危うく思え、そのままやり過ごした。違和感の正体に気づいたのは、振り向いた時。その子供には足がなく、車輪の上から半身が生えていたのだ。

38)■鎌倉沈没:東海大震災によって、鎌倉の旧市街が海中に没した。震災当時、私は鶴岡八幡宮の国宝館におり、稲村ヶ崎沖で発見されたという太刀を見学していた。新田義貞が鎌倉攻めの折に、海中へ投じたとされる太刀の真贋はともかく、震災直前に不可解な鳴動をしていたのは確かだ。

39)■死の密林:枯死した命の渦巻く中に、結晶核はあった。命令は、これを持ち帰ること。だが彼は、それを肋骨の隙間から心臓へ埋め込む。投与された抗体が反応し、死の密林に命が弾ぜようとしている。苦痛の中に後悔はない。彼女の死を知った以上、躊躇する理由はどこにもなかった。

40)■右弦:「兄様に何をするか!」若い女が、男をかばって裏町に虚勢を張る。帯刀した男の腕は、知れていた。刺客は握る剣先に、裏暗い誇りを秘めて、奮う。萎縮した男の先に、女が飛び出し、一閃。刺客の首を断ったのは、女の左手が抜刀した男の太刀。邪剣、右弦居合の使い手だった。

Twitterで小説を:その21~30 #twnovel

不老不死ネタは、しばらく自粛かな。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

21)■不沈艦:その巨大戦艦は、大口径の主砲を備え、革新的な復元装甲に鎧われている。だが、鈍重で扱いにくく、さしたる活躍もないまま終戦を迎えた。戦後も軍港の片隅に浮かぶその艦は、頑丈すぎて解体できず、機密の塊で売却もできず、今も不沈艦の名をほしいままにしている。

22)■革命の理由:精悍な男性が、天空を指し示す。その指先に、偉大な国家の未来があるのだ。連日メディアから流される、独裁者を称える映像は、熱烈な支持者すら苛つかせていた。同じ映像の反復で生じる敵意が、民主化革命の遠因となることを、独裁者は終生、理解できなかった。

23)■即物人間:ロボットの指先に、赤熱した針金を当てると、瞬時に腕を跳ね上げる。思考力をもたず、反射のみを再現した即物人間だ。多様な反射を学習させた結果、今ではもっとも人間に近しい存在とされている。即物人間が人間の即物性を証明するとは、実に皮肉が効いている。

24)■地球の管理:技術の進歩により、地球環境をリアルタイムで把握できるようになった。過去に悪玉とされた要因が冤罪であったり、その逆もしかりで、環境保護の暗部が明らかになる。我々は先人の愚行から学び、太陽系開発を推進することで、地球環境の回復を優先しなければならない。

25)■電子決済:端末にカードをかざすと、涼やかな電子音が響く。それで決済は完了した。私は安楽椅子に腰を落とし、処置を待つ。便利だが、味気ない世の中になったものだ。医学の進歩により、不老不死を達成した時代。苦痛も恐怖もなく、わずかな好奇心とともに、私は死を待っている。

26)■有能者(うのうしゃ): 彼は自他ともに認める、有能な人。任務の遂行は完璧、トラブル対応は迅速で正確。その盛名を維持するために、他人の非を声高に糾弾し、自身の非は他へ転嫁し、黙殺する。無能と蔑む者は丹念に排除した。ゆえに彼は、自他ともに認める、有能者に相違ない。

27)■ナビ子さん: ナビは告げる。「まもなく、目的地周辺です」――だが、肝心の場所は工事中。「本当に、ここで合ってるのかよ?」俺がぼやくと、ナビは告げる。「まもなく、ふたりの家が完成します」助手席に座る俺の彼女は、カーナビの声を担当したのが、ちょっとした自慢だった。

28)■超光速:西暦2011年、ニュートリノが光速を越える事象が観測された。相対性理論を覆す発見は、未知の要因による誤認だった。超光速航法など、夢物語にすぎないのだ。そんなSF小説を書いて、編集者に呆れられたことがある。思えば20世紀は、科学の未来に優しい時代だった。

29)■ホールインワン: その一打はグリーンで弾ぜ、カップへと吸い込まれた。見たか、凄いだろう? お前たちには一生、縁のないものを見せてやったぜ。そう勝ち誇る彼を、人々は温かく賞賛した。そのゴルフ場では、ホールインワン直後に急死したゴルファーの幽霊が名物となっている。

30)■パンデミック: 世界を満たした病が収束したころ、瓦礫の海で妻と出会った。罹患者の群は朽ち果て、生存者たちが再建を模索する時代。妻が罹患者と知ったのは、つい最近のことだ。寿命で死ぬ前に、彼女が老いを克服した新人類だと認められて、良かったと思う。未来をよろしく。