「創作メモ」カテゴリーアーカイブ

『東京ゲートブリッジ』Twitterで小説を:その111~120 #twnovel

書いた後で、橋を見に行きました。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

111)●マイハンガー:毎朝、職場のクローゼットに上着を掛けようとすると、俺のネーム入りハンガーへ、女物のコートが掛かっている。誰だか知らないが、掛け直すのも面倒なので、新しいマイハンガーを用意した。これが彼女との馴れ初め。ふたつのマイハンガーは、いまも役に立っている。

112)●東京ゲートブリッジ:響は奈香にとって、このトラス橋みたいなもの。同期の俺と結婚して子供を作り、家庭を守る。そんなありふれた、どん詰まりの経路に拓けた、臨海道路。「でも、彼女は道に迷った。それを正して欲しいの、渡」大人びた奈香が、経路を変えに来たのと舌を絡める。

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113)○ドミノ:東海地方の大地震は、早朝に起きた。避難した近所の高台は霊園になっている。眼下の街へ、かつて映像で見たような大津波が遡上し、我が家を押し流した。腹に響く衝撃。彼方に見える富士山が黒煙を噴いていた。強い余震。地盤に亀裂が走り、墓石がドミノのように倒れ行く。

114)●駄作愛好:「すごく面白いのに売れない作品と、すごく売れるけどつまらない作品、どっちが良い?」「そうね、すごくつまらなくて、売れない作品が良いな」「すごく面白くて、売れる作品じゃなく?」「ええ、私だけがこの作品を愛でているって気がする」「好きです、僕を愛でて!」

115)○紹介報酬:指定の商品をブログでご紹介すれば、報酬がもらえる。記事は送られたものを貼りつけるだけ。アクセスが増えれば広告収入も入ってくる。そりゃ、言われるままに、記事をアップし続けたさ。それが革命政権樹立のための世論操作だと気づいて、収容所送りになったってワケ。

116)○ナスレディン・ギア:なぜ僕は、軍用の人形機(ククラマキネ)を繰っているのか。滅び行く経済圏連邦など知ったことではない。欠陥品の新鋭機を扱えるのが、僕だけだからか? 否、前席から見上げる彼女が、すべての元凶なのだ。続き→小説『ナスレディン・ギア(1/3)「灰色の人形機」』 | ★Astronaut Blog

117)●ネジ:「理性」のネジがふっとんだ。すべてがどうでも良くなる。「欲望」のネジがふっとんだ。やりたいことがなくなる。このままでは、「本能」のネジもふっとびそうだ。本能のおもむくまま、理性のネジと欲望のネジを両目に突き刺すと、激痛とともに「後悔」のネジがふっとんだ。

118)●居酒屋:料理は凡百の居酒屋メニュー。だが、運ぶのは水着美女。職場の飲み会でこれはNGだろう。特に、あの人が。「ほら、手が止まってる。じゃんじゃん飲め!」半裸の美女が肢体を密着させてきた……って、よく見たら、下着姿の女上司。「こ、この店はお触り禁止ですよ、課長」

119)○棄セノン:朽ちた都市の狭間で、輝きの粒が不確かな熱を帯びている。「これがセノン、だよ」少年の答えに、少女は「ふぅん」とつぶやき、指でつまむ。途端に光が弾け、数瞬だけ都市が灯火に照らされた。「この力があったせいで、彼らは都市を棄てて、天辺世界へ旅立つ決心をしたんだ」

120)○小さいおじさん:完徹三日目の視野に、身長二十センチの小紳士が出現した。「おじさん、あの時みたいに教えて。私、どうしたらいいの?」「諦めなさい、と言ったは……」女優は反射的に、小紳士を握りつぶす。そうだ、あの時もこう言われてから、オーディションに勝ち残ったのだ。

『婚前交渉』Twitterで小説を:その101~110 #twnovel

まだまだ努力だなあ。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

101)○街撮り:被害者は死亡する前日、ソーシャルサイトへ二十四枚の写真をアップロードしていた。「問題は写真の撮影位置情報です」青年は端末を操り、撮影場所を市街地の地図上に印し、結線する。浮かんだ文字列は『KILL ME』。「このメッセージを読み取った何者かの犯行です」

102)●婚前交渉:君と結婚する前に、決めておきたいことね……そうだな。もし、僕らの関係が破綻したら、以前に貸したゲームソフトをどうするか? できれば返して欲しい。プレミアがついてるからさ……って、なんで怒ってるの? 婚前交渉するんだろ? え? そういう意味じゃないの?

103)○燃費競争:「これがハイブリッド車か。燃費はどう?」「適当に走っても、リッター二〇キロ以上でるね」「すごいな……にしてもずいぶん飛ばすんだな」「ちょっとしたゲームさ」「どれだけエコドライブができるかって奴?」「いや、その逆。どれだけ燃費を落とせるかに挑戦してる」

104)●赤いミミズ:釣りへ出かける直前に、息子が騒ぐ。「赤いミミズはイヤだよぅ!」「ミミズ? エサならパパがつけてやるから」何とかなだめすかし、車で出発したが、大渋滞に捕まってしまう。「赤いミミズだ!」息子が指さす先はカーナビ。渋滞を示す赤線で、びっしり埋まっていた。

105)○超銭湯:近所の銭湯がリニューアルしたと聞く。レトロな番台と脱衣所を抜けると、ペンキ絵の富士山と大きな浴槽があるだけだ。何が変わったんだ? だが、奥の階段を下ると、ジェットバスや各種露天風呂、岩盤浴場にサウナまで揃ってる。銭湯に偽装した、スーパー銭湯だったのだ。

106)●食育論:「たとえば、画期的な食品が開発されたとするよ? ものすごく美味しいんだけど、中にゴミが混じっていたら? 絶対に、受け入れられないと思うんだ。つまりコレは、既得権に守られたゴミ入り不完全食品だから……」「わかったから、さっさと焼き魚、食べちゃいなさい!」

107)○高額査定:「本当に、この値段ですか?」車の査定を依頼すると、新車並の値段を提示された。ボロ車に、こんな高値がつくはずがない。「あなたには、その価値があります」微笑む店主に危機感を抱き、私は宿主を逃走させた。奴は、私が運転者を操る車であることに気づいているのか。

108)●同好会:異星人が、地球を絶賛侵略中。「協力者になって欲しいの」俺を拉致した、異星の少女は願う。「断る」「この星を守ることになるのに?」「あんたらが侵略者だろう?」「それは侵略クラブ。私たちは侵略同好会よ」「学校活動かよ!」異星でも、同好会は予算が厳しいらしい。

109)○忘却:最近、マンガ読めなくなった。小説は、とっくの昔に読めなくなっている。「では、これを飲んでください」医者が処方してくれた、娯楽の記憶を消去する薬を服用する。マンガも小説も、新鮮で面白い。もっと早く飲のんでおけば……あれ? 以前にも、同じことがあったような。

110)○盗電:「まただよ……」駐車場に停めた、電気自動車への充電ができない。原因は使用量の超過。無茶な充電はしていないはずだ。夜、車の中で見張っていると、不意に電源が入る。外には無灯火の車が群れており、次々とフロントバンパーを接触させて行く。乗っているのはマネキンだ。

『ベテルギウスの泡』Twitterで小説を:その91~100 #twnovel

100本達成、まだまだ行くよ。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

91)○カメラ・オブスクラ:「暗がりの部屋から、真実を求めるべきではないと、あなたは言う。そうではない。私情を廃し、見たままを描く術があれば良いのです」そう言って、彼は精緻な景色が写し取られたガラス版を示す。画業の師は弟子を撲殺し、写真術はまたもや百年の眠りについた。

92)●選択:A社とB社、どちらの車を購入するか悩む。A社はデザイン、B社は環境性能に優れている。実物を見ても甲乙つけがたい。悩みになやんだ末、霊能者に除霊してもらう。物欲霊に憑かれるとは、今時珍しいですねと言われてしまった。昭和時代には、ありふれた霊だったそうだが。

93)○ベテルギウスの泡:僕は彼女と、星空を眺めていた。オリオン座の一角を占める、超新星が散る瞬間に立ち会えたなら、プロポーズしようと決めていたからだ。それが、今。輝く夜空に照らされた彼女を抱き寄せると、華奢な体が光の泡と化し、虚空に散る。彼女はジャウザーだったのだ。

94)●最後のアクセル:彼はエコドライブの達人。効率を追求し、燃費はリッター五〇キロ以上を叩き出す。エコマスターとしてメディアでもてはやされた彼が、不慮の自動車事故に巻き込まれた。辞世の言葉はこうだ。「こんなことなら、最後に思い切りアクセルを噴かしておくんだった……」

95)○進化は先:研究論文に疲れた夢うつつの中で、天から声が浴びせられる。『進化は先、進化は先』神の言葉だろうか。爆発的に文明を発展させながら、生物としては進化せぬ人類への警鐘だろうか。はっきり目覚めると、電車の中。アナウンスが告げる。『まもなく、新川崎、新川崎……』

96)●初志貫徹:「ぶどうパンあげるから、キスさせてよ」「やなこった」「え? アンタ、ぶどうパンが好物だったじゃない?」「その通り。だからこそ、お前のキスとセットなんて不純は我慢ならん」「むかっ、そんなこと言うなら、ぶどうパン抜きで純粋キッスの刑を執行よ!」「むぐっ」

97)●スマホ:うちの爺さんが、スマホが欲しいと言う。携帯の充電もしないくせに、どんな心境の変化だ? スマスマ騒ぐので、近所のホームセンターへついて行くと、携帯売場をスルーして住宅展示場へ。スマイルホームの、笑顔が素敵な須磨ほのりさんを紹介された。確かにスマホだ……。

98)○EV可能:二十年乗り続けたガソリン車を検分し、業者は言う。「車体は使えます。タイヤをインホイールモーターに、パワーユニットをバッテリーに換装すれば電動化できます」「運転は?」業者が得意げに取り出したのは、ゲーム機のコントローラー。味気ないモータリゼーションだ。

99)●自然が呼ぶ:下腹の鳴動につられ、オフィスを抜ける。たどりついた男子トイレは超満員。階段を下るが、男子トイレ満員。下るが満員。下る、満員。下、満員。下、満。クダッ……********……フゥ。 集団食中毒か? すごい行列だな。ともかく、ズボンをどうにかしたいよ。

100)●雪女:朝、ベランダに薄く雪が積もっていた。「近くに、雪女がいるんじゃない?」ルームメイトが冗談混じりに笑う。雨が降ると、この付近だけ雪になるのだ。「雪女ってか、雨女の雪バージョンよね。それとも雪男?」私も軽く返すが、実は先祖が雪女なのとは冗談でも言えなかった。

Twitterで小説を:その81~90 #twnovel

あとちょっとで100本です。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

81)○時空葬:「馬鹿なことはおやめなさい!」開発者の叫びも空しく、故人は冥王代へと転送された。有機物の塊が、原始の海に進化をもたらすのか? 死者のデータが、シミュレーションの海に没して行く。学術的に無価値と言われようと、時空葬は画期的な葬儀パッケージとして大人気だ。

82)●生存保証:余命半年を宣告された闘病生活も、一年をすぎた。生きているのに、生死は曖昧だ。「僕は本当に、生きているのだろうか?」「もちろんよ。ずっとわたしが見守っていてるんだから」枕元で微笑む少女。死神の彼女が保証するなら、生き延びていることに間違いはないだろう。

83)○天動:星の欠片を蒔きながら、天球の底を這いず大穴から逃れようと、駆け出した。一歩を蹴り出すたびに、輝く冷気が間近に迫る。地動説の信奉者は、あれを熱球だと誤解していたという。冷たい円環――太陽に魅了されながらも、黄道を渡りきる。星屑拾いは、命がけの美しい仕事だ。

84)●絶筆:「先生、あと一話。この傑作を完結させてください!」末期ガンの患者へ頼むには、酷だとわかっている。だが、闘病中に連載したこの小説が、間違いなく最高傑作だ。「それで大成功だよ。非才な私には、傑作モドキが精一杯さ」そう嗤って先生は絶命し、未完の傑作は完成した。

85)○新車:エコカーを買いにきたはずなのに、勧められた車は、希望と似てもにつかない。バットで殴りつけ、密林に半世紀放置したような醜悪さ。なのに、どうしてこんな不快な塊に惹きつけられるのか。ディーラーが笑む。「当然ですよ。これは、あなたの欲望を形にした車なのですから」

86)●ホウレンソウ:「結婚しないか?」元同僚の彼女は、俺に険しい視線を返す。「嫌だと言ったら?」「泣く」「泣くの?」「うん」「お腹の赤ちゃんはどうするのよ!」「それ、初耳なんですけど、泣くよ?」職場では腹立たしかった、ずさんなホウレンソウが、今は愛しくてたまらない。

87)○鎧装機巧テンペスタ:軍楽が鳴り響く戦場で、五機が潰された。敵機巧鎧は機動力で勝る。俺は二機に押されるように、河へ脚部を浸した。追撃の二機はしかし、漏水で精霊回路が短絡し、平衡を失う。先日まで、彼らの機巧鎧を駆っていたのだ。あらがう術は熟知している。鎚鉾で討つ。

88)●殺し文句:「あなたが、好きです」告げる彼女がまぶしくて、視線をそらす。「なぜ、僕なんかに告白するんだい?」卑屈だとわかっていても、そう聞かざるを得ない。「……愛に、理由なんて要らないのよ」そう微笑むと、僕が刺した女は血溜りの中で、幸せそうに生きることを止めた。

89)○遅延連絡:超満員の電車内で、耳を疑う。『車内での携帯電話の使用は、お控えください』一時間以上、駅間で停車したままのアナウンス。俺は非常コックでドアを細く開放し、飛び降りる。清々しい気分で携帯を広げ、自社に遅延を伝えた。いかなる時でも、乗車マナーは守らないとな。

90)●面識:コンビニ弁当を手に、駅へ向かっていた時。「おはようございます」スーツ姿の女性に挨拶された。怪訝そうな僕に、彼女は続ける。「暖めますか?」ああ、あのコンビニで、店員だった人だ。「はい、僕の人生を暖めてください」直後に彼女が浮かべた笑みを、僕は生涯忘れない。

Twitterで小説を:その71~80 #twnovel

創作のコツをつかみたい。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

71)●バカ発見器:その短文に、日本が震撼した。現職の総理大臣がツイッターで、「バカはしぬ」とつぶやいたのだ。本人? 誰が? 俺が? 自殺予告? さまざまな憶測が飛び交う。当人は釈明をしなかったが、支持率は増加に転じたそうだ。バカと思われたくないバカは、意外と多いな。

72)○狭間:「あなたは事故で死亡しました」「ここは死後の世界?」「そう捉えていただいて結構です」「これからどうなるのさ?」「現在、新しい肉体を培養中です」「治るんだね」「はい。現代の技術なら蘇生可能です」「それって、死んでないのでは?」「法律的に、あなたは死者です」

73)●忙中:年の瀬になっても、仕事に終わりが見えない。終電ギリギリの時刻に、メールが着信する。『ことしは、パパもサンタさんもいそがしいんだね。ぼくはへいきだけど、ママがさびしいって、しくしくないてるよ』『悪かった、二歳の息子にもよろしくお伝えください』と、妻に返信。

74)●誤表記:相応の購買を受けてもらおう。ネット通販サイトで、新品のパソコンが一万円だ。速攻で999台購入。もちろん、大半が中身のないディスプレイであることはわかっている。あの中にただひとつ在る、「世界の欠片」。誤表記の真価を知る者たちはすでに、争奪を開始している。

75)○除夜:場末の寺院に蓄積された、闇と対峙する。年末の人間たちは、存在定義がゆがむ。突キ、裂キ、除ク。突キ、裂キ、除ク。腐臭をまとった暗黒を神刀で斬り刻み、梵鐘で浄化する。刻む数は、ハンドレットエイト。除夜の鐘が高らかに凱歌を唄い、腐った夜は清浄な闇へと還った。

76)●肉欲:ボクの悩みを聞いて欲しい。もうすこし、ムネが要るのだ。ホラ、こんなふうに、両手で掴めるぐらいじゃ物足りない。もっと、両手からあふれるぐらいのボリュームを希望。むにむにと、塩、コショウをもみ込んだら最高だと思わない? ボク、鳥ムネ肉の調理には、こだわるよ。

77)○竜洞:穴蔵を抜けると、鮮烈な陽光に目がくらむ。細めた視界の先で、朝日に裏打ちされた巨塊がゆるりと首をもたげる。青年は震えながら、口元で火焔をちらつかせる古竜に、暦の石版を差し出した。十二年周期の盟主が委譲される。ウサギ族の青年はピクリと耳を弾き、息を吐いた。

78)●苗床:その庭園の惨状に、竜族の少女は息を飲んだ。植えられた苗は塩にやられ、火であぶられ、瓦礫の隙間からしおれた先端がのぞく。昨年、花を咲かせたものはごくわずか。少女は手にした数粒の種子を、祈るように苗床へ蒔く。今年は、希望の種がたくさんの花を咲かせますように。

79)○都市鉱山:相棒が、コンクリートの壁を破砕する。「昔は、電子機器に使われた貴金属の総量が鉱山なみだから、都市鉱山って言ったんだぜ」「らしいな」俺は石壁の奥に貼りついた、ナノマシンの分泌物を回収する。廃棄都市で産出される、貴金属を含むゲロ。これが現代の都市鉱山だ。

80)●ステマ:「このRPG、キャラデザは有名漫画家、シナリオは人気ラノベ作家、音楽は大御所の作曲家。もう買うっきゃないぜ!」「それってステマ、ステルスマーケティングってやつだろ?」「うん。実は、このソフトの評判を落とすために、ステマ疑惑を起こすステマをやってるんだ」

★Astronaut 2012年の年賀状:ツイッター小説自薦集 #twnovel

今年は絵は無し。

2012年の年賀状です。ツイッターに投稿している140文字小説から、新作+評判の良かったものを抜粋。

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本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

Twitterで小説を:その61~70 #twnovel

もう少し、打率を上げたい。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

61)●契約離婚:婚前契約に従い、妻との離婚が成立した。「予定通りとはいえ、離婚は疲れるよ」「でも、不本意な結婚を続けるよりは、良いでしょ?」新居で荷を解きながら、恋人が優しく説く。彼女との相性の良さは実証済みだ。家のしがらみを断ち、今度こそ元妻と恋愛結婚する予定だ。

62)○小説出版:友人が小説を出版した。小規模な自費出版だが、新車が買えるほどの費用がかったそうだ。「評判はどうなの?」出版前は自信満々だった友人は、重くやつれた声で答える。「クソだとけなされる作品のすごさがわかったよ。少なくとも、クソだとけなしてもらえるんだからね」

63)●旋弾:極寒の海峡をはさみ、ふたつの軍事基地があった。猛吹雪の収まった日、両軍の兵士が氷原に対峙する。同時に拳銃を抜き、発砲。9ミリ弾は氷上に爆ぜるが、勢いを失わず、コマのように旋回を続ける。より長く廻した方が勝ち。国の事情はどうあれ、兵たちの関係は良好だった。

64)●積層障壁:篠突く雨に刺されながら、青いコートが俺を圧倒する。細く疾く。それだけを念じ、1024層の形成力場に綻びを見いだす。「拳に纏(まと)え!」十指に握る形成力場が雨滴を加速させ、270度四方から1023層を穿孔。残る1層を、俺のシンプルな暴力が殴り通した。

65)●発熱さん:「こんにちは、発熱です!」頓狂な声を上げて、その女はやってきた。俺が四〇度の熱でダウンしているのをいいことに、掃除や洗濯、料理を勝手に始めやがる。幻覚のくせに、マメな性格だ。大学の後輩に似ている気もするが、「発熱」と「初音」を聴き間違える俺ではない。

66)○涙没:北の国で王が死に、国民は深い悲しみに包まれた。なぜなら、王の死を悲しまぬ者は、みな殺されていたからだ。さらに王は、魔女に呪いをかけさせていた。高らかな呪詛が響くと、あらゆる命が滂沱の涙を流し、街を、畑を、森を、山河を覆いつくす。王国は悲しみの涙に没した。

67)●亡者志願:私は酷薄に生きてきた。群がる奴は邪魔なだけだと思ってきた。そんな私に、あいつは呪いをかけた。いまなら、あれを墓場にたとえる奴の気持ちがよくわかる。自ら志願し、亡者に転生するようなものだ。あの言葉さえなければ。「そんな貴方が好きです、結婚してください」

68)○アララギ・アース:地殻内部の熱ムラが、惑星をたゆませている。大人は移住の相談ばかり。だから僕たちが、この星を救うと決めたんだ。裂孔をくぐり、中心へ。赤く熟した星核炉を再起動できれば、可能性はある。直径五キロのちっぽけな星だけど、それでもここは僕らの地球なんだ。

69)●夜勤:彼の仕事は、年末が繁忙期でした。クリスマスに寂しい思いをしていた、私。家業を継ぎ、働き詰めだった、彼。いまは、彼が遺したこの子のために、私が世界を巡っています。ごめんね、寂しい思いをさせて。あなたにも、ちゃんとプレゼントを届けるからね。メリークリスマス。

70)○穴蔵夢:衝撃とともに腐葉土を頬張る。穴蔵に放り込まれたのだ。奇怪な甲虫の鉤爪が左肩をもぎ取り、右腿を噛み潰し、腹を裂き割った。叫ぶ間もなく覚醒すると、穴の縁にいる。虚ろな術者が、新たな傀儡に俺の意識を植え付け、再び穴蔵に放る。憑依と拷問の複合か、少々厄介だな。

Twitterで小説を:その51~60 #twnovel

「●」はエンターテイメント性重視、「○」は作家性重視で書いてます。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

51)●鏡面:彼が亡くなって、一週間。「無理、してるのかな?」鏡の前で尋ねると、頬杖をついた女が、疲れた表情で左手のリングを見つめる。そっか、忘れてた。彼が亡くなる前に、私たちは結婚したんだ。「うん、私は無理してる」鏡の向こうで、女はやっと、小さな幸福に頬をゆるめた。

52)○岩窟:林立する、石灰の奇岩。目的地は、岩をくり抜いた白壁の住居だった。生活感に彩られた穴居の奥、施錠された扉をくぐると、静謐な空気に震える。ライトアップされたのは、聖母のフレスコ画。保護も受けず、これだけのキリスト教絵画が受け継がれてきたことは、驚愕に値する。

53)●忘年会:「脳味噌、出します!」女子大生の頭が膨らみ、灰色の豆腐を散らして消えた。「すわ、手足分離!」寝ころんだ老人が、両手両足を大根のように外して霧散する。異形の芸に満足した演者たちが、続々と壇上から消滅して行く。幽霊たちの忘年会は、なにげに成仏のチャンスだ。

54)○菓幣:チョコパイ革命に半島が揺れる。工場の支給品に端を発した、チョコパイの高騰は、「貨幣」ならぬ「菓幣」の誕生を意味した。貨幣は価値を喪失し、菓幣を求める民衆の欲求は、民主化革命の漁り火となる。パンがなければお菓子を、お菓子がなければ革命を起こせば良いのだ。

55)●奇月蝕:月の伴星たる伴月は、昏(くら)い。皆既月食を、さらに伴月が遮る今夜だけが、数少ない観測の好機だ。その知識を得たことを、僕は後悔している。今も赤黒い眼球に穿たれた伴月の瞳が、ぎょるりと覗き、僕を蝕んでいる。知って欲しい。伴月に魅入られた者は、儚いのだと。

56)○盗品関与:家の裏手の古墳が盗掘された。学術調査が決まった矢先のことだ。俺はたまらず、親父に詰め寄った。「アンタ、犯人の一味だろう?」「……ああ、そうだ。お前の養育費がどこから出たと思ってる?」「知ってるよ。俺がしたいのはガキの頃、秘密基地にしていた横穴の話さ」

57)●お手:レトリバーと遊ぶ。「この犬、芸はできるの?」「得意だよ」「じゃあ、お……」僕が「お手」と命じる前に、犬はすっと右前足を上げた。掴んで放すと、すかさず左前足を上げる。右、左、右、左と、僕は前足を掴まされ続けた。「こいつ、人に「お手」をさせるのが得意なんだ」

58)○四駆:これは使えるな。その車は片手でつまめる大きさながら、四つの車輪にモーターを内蔵し、スマートフォン経由で操作できる。障害物へ前進を命じると、自動で回避し、壁の手前で停止した。男は満足して計画に組み込む。いまやテロリストも、最新のオモチャを物色する時代だ。

59)●欠点:彼女は魅力的だった。「僕のどこがいいの?」そう尋ねるのが怖くなるほど。かわり尋ねてみる。「僕の欠点って何だろう?」彼女は、唇の端を引いて言う。「わたしが大好きって気持ちを、信じてくれないこと、かな」思わず彼女を抱きしめると、欠点の削げ落ちる音が聞こえた。

60)○大いなる跳躍:「鳥は大空を飛びはしない。翼を大地で休める合間に、とびきり大きな跳躍を繰り返しているだけだ。どれほど飛行時間を重ねようと、それが跳躍であることに変わりはないさ」そう語った宇宙飛行士は、惑星探査の途上で消息を絶ち、いまも大いなる跳躍を続けている。

Twitterで小説を:その41~50 #twnovel

創作メモ兼用なので、これらをフルサイズの小説に起こす場合もあります。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

41)■混濁:仕事を終えて帰宅する頃、体調は最悪になっていた。どうにかグリーン車までたどりつき、貧血寸前でシートに身を沈める。決済のため、天井のポートに電子マネーをかざす、赤ランプ。かざす、黄ランプ。かざす、白ランプ。かざす、茶ランプ。なんだ、緑ランプは売り切れか。

42)■宇宙遺産:「この先は人類初、アポロ11号の月着陸地点。宇宙遺産に認定されているんだ」「本当は、宇宙軍の軍事基地があるんだろ?」「いいえ、エイリアンの秘密基地よ」「違う、月着陸のヤラセを隠してるんだ」「みんな正解。人類の夢と希望がめいっぱい、詰まっているのです」

43)■婆ガイガー:うちの婆さんは、放射能が見えるそうだ。紫がかった灰色で、舐めると薄甘いとか。冗談だと思ってたけど、昨今の風潮じゃ馬鹿にもできない。思い切って、弟子入りを頼んでみた。そしたら婆さん、言いやがった。「オレの専門はラジウムだぁ、セシウムは他をあたりぃな」

44)■浮岳:スカイツリーに係留された、全長三百メートルを超える飛行船。巨体を貫くキャットウォークを歩み、船の中央部を目指す。通された執務室は簡素で、出迎えた彼女は、僕の良く知る幼なじみのままだ。日本語を公用語とする浮遊国家『浮岳』、その初代大統領との会見が始まった。

45)■さらばWコム:ダウス携帯から送信。『データ通信では携帯に負ける、早急に通話定額を実現せよ』宛先は、過去の自分。この機能が欲しくて、大嫌いな携帯電話に機種変更したのだ。Wコム終了が現実なら、終わらない現実を創るまで。Wコム信者は常に、PHSの勝利を確信している。

46)■鎌倉俥夫は眠れない:深夜の鎌倉を、人力車がゆく。俥夫は無愛想に、不気味な古跡を巡った。洋館の門前で客が尋ねる。「いつ、私を殺してくれるの?」俥夫は首を横に振り、駅前で降ろす。妙な噂のせいで、夜に客がつくのは助かるが、死神の真似をさせられるのは、勘弁してほしい。

47)■俯瞰:未来の学生は語る。「この時代の日本は、何を考えていたんだ? 敗戦を終戦、軍隊を自衛隊と称し、非核を唱えながら核の傘に守られている。実質、アメリカの属国じゃないか」「同感だけど、我々も独立惑星と称して、異星人に飼育されているのだから、似たようなものだよ」

48)■宿狩:這い出した岩塊が、粉塵をまとって砕け散る。そいつは、外殻を持たぬ尾部を、ヘルミット城塞の基底にねじ込んだ。荷が勝ちすぎたか? 些細な危惧は、齢百年の古城が鳴動することで払拭される。辺境甲殻獣「宿狩」に背負われた城塞が、敵陣に向けてずしりと移動を開始した。

49)■落下物:手にした携帯が弾き飛ばされ、ホームと電車の隙間に吸い込まれる。男は呆然と立ちつくし、終電を見送った。携帯は、駅員に拾ってもらったが、乗るべき電車は絶えた。通過する急行を見送りながら、男は思う。携帯を落とさなければ、俺はこの電車に飛び込んでいただろうな。

50)■幸福な虜囚:科学は、人々が考えているよりも進歩していた。情報はゆっくりと開示され、偽りの最新技術が時代を動かす。おかげで人々は、神も悪魔も超能力も、異星人も未来人も超古代人も、前世も来世も幽霊も信じられた。「幸福な虜囚」と呼ばれる時代は、まもなく終焉を迎える。