『ポメラ』が欲しい人と『ポメラ』との乖離

不意流儀屋

『ポメラ』ネタは食いつきがいいようなので、続けてみます。
ポメはテキスト編集のみを目的とした携帯機器として注目を集めているわけですが、前回も書いたとおり、微妙に興味がある人のニーズを外している気がするのです。

なぜかと考えてみると、『ポメラ』が電子メモ帳として特化しているのに対し、興味がある人の多くが求めているのは電子メモ帳ではなく携帯テキストエディタ、なんですね。テキストしか扱えないけど、テキストデータに限ればいつでもガリガリ編集できる、アルティメット・テキストエディタが欲しいのに、メモ書きなら8000字以内でじゅうぶんでしょ……といわれると、サイズも、駆動時間も、キーボードも、日本語入力も必要十分なのに、なんで8000字しか書けないの? それで27,300円? ということになってしまう。世の中には、チラシの裏に大長編を書きたい人だっているのです。少なくとも、機器の仕様として大長編を書ける余地を禁じる必要はまったくない。たとえ、無理に巨大なテキストデータをひらいて処理速度が激烈におそくなったとしても、ひらけないよりはずっといい。

電子メモ帳としてではなく、携帯テキストエディタとしてこだわって欲しかった。よくぞこういう機器を商品化してくれたと賞賛したいのに、このポイントでものすごく損をしています。

僕が理想とする携帯テキストエディタは、2006年に発表したSF小説『クイックハルト』に登場させた『フィルギア(feelgear)』というマシン。

いまでいうネットブックにちかいですが──というか、いまみるとまんまネットブックですね──、電子辞書にテキストエディタとメーラー、ブラウザがついたものという設定。この作品の舞台は西暦2000年代初頭をモデルにした未来の仮想世界なのだけど、ここではモデルとなった時代の技術水準が許す範囲で、実在しない装置の存在が認められている。フィルギアは、実在したモバイルギアやシグマリオン、ペルソナといったハンドヘルドPCが絶滅せず、電子辞書と融合することで独自の進化をとげたマシン。ポメより大型で多機能だけど、ワンタッチで起動してテキスト編集を快適におこなうことに特化したマシンである点は共通しています。

この手のマシンは、編集者やブロガーといった、ネットで声の大きい人の嗜好にマッチするので、ネット情報だけだと、ものすごく需要があるようだけど、市場全体からみればごく一部の人がよろこぶニッチな商品らしい。そいう意味ではつぎにつなげるためにも、多少の不満には目をつぶってポメを買うべきなのかもしれない。

にもかかわらず、『ポメラ』が欲しい人のニーズと『ポメラ』の方向性とが微妙に乖離しているために、「欲しいけど、でも……」という煮え切らない反応になりがちなのではないかと。

もちろん、それでも買う人は買うだろうし僕にとってもそそられるガジェットなんだけど、ねぇ。

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