『チラシ』Twitterで小説を:その181~190 #twnovel

200本まであと少し。

181)●漂着物:津波で流された船が、アラスカの海岸に漂着し、持ち主に返還された。「よくよく、水難に見舞われる船だな」「彼らは気づかなかったのでしょうか?」「偽装は完璧だよ」「あるいは、気づいたのかも」「何にだい?」「ノアの方舟がある場所で、大洪水が起こることを、です」

182)●父の日:父が再婚すると聞いた時、素直に祝福できなかった。ゴネるような歳ではなかったけれど、無性に許せなかった。「今思えば、女としての嫉妬よね」未だにお母さんとは呼べないけれど、友達にはなれたと思う。父の日に義母と一緒に食事をするのが、ささやかな意地悪と供養だ。

183)●幸運:同僚が、一億の宝くじを当てたという噂だ。仕事を辞める様子はないが、聞いても曖昧な返事をするばかり。「実際、どうなんだ?」酒の席で訊ねると、同僚は酔った勢いのまま語る。「根暗な俺に、男も女も寄ってくるんだから、ありがたいよ。一億の借金も帳消しになったしな」

184)○孤高:荒野で、騎士と出会う。武技は冴え、礼節と闘志を秘めた信義の騎士。しばし語らい、別れの際に。「私は騎士道に真摯であるが故に、今も正気の檻に囚われている。だが同輩は、その限りではない。二度と語らいなど望まぬことだ」亡者の騎士は忠告を残し、古戦場の宵に溶けた。

185)●消失:クラウド上に保存したデータが、バックアップも含め、完全に飛んだらしい。職場は騒然としていたが、消えたものは仕方ない。「やってられませんよ!」翼を黒く染めて堕天する若手を横目に、 私は世界の再創世を開始する。五千年もあれば、人類は再び文明を築くことだろう。

186)●複製:地球は限界を超えていた。資源は枯渇し、多くの生物が絶滅した。「そこで、スペアの地球が登場しますよ!」「ずいぶん手回しが良いな」「私も下っ端・オブ・ゴッドですから。複製はカンペキ!」「つまり、諸々の問題も複製ずみと」「うっ……か、完全主義者ですから、神は」

187)●不可避:「以前は週一回、じっくり全身をなめ廻されるか、その日の待ち伏せから逃げれば済んだの。でも今度は、全身をなめ終えなければ、毎日やってくるのよ」「何それ。ストーカー? 変質者?」「いえ、職場パソコンの、定期ウイルスチェックの話。終わるまで、操作が重くって」

188)●チラシ:「どうぞ」なにげなくチラシを受け取ると、販売員が目を輝かせてついて来る。必死で何やら勧めていた。「せめて、チラシをご覧ください」仕方なく、紙片を見やると、彼は転落するように車道へ身を投じる。それが致死性図形『散死(チラシ)』による、最初の犠牲者だった。

189)●リス:「逃亡したリスの捕獲、完了しました」「何匹だ?」「三〇匹中、三八匹です」「少ないな」「?……逃げたのは三〇匹ですが。残りは野生のリスかと」「すべて捕獲せよ。でなければ一帯を焼き払え。我ら、高度な知性と増殖力を持つリスの存在を、まだ人類に知られてはならぬ」

190)●うるう秒:その日、日本時間午前8時59分59秒と9時0分0秒の間に60秒目が挿入された。「別に関係ないだろ?」「君は気楽だな。俺は、うるう秒対策でヘトヘトさ」「お前の仕事、宗教関係って言ってなかったか?」「ああ。神様が定める運命にも、時刻の管理は重要なんだぜ」

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