『ベテルギウスの泡』Twitterで小説を:その91~100 #twnovel

100本達成、まだまだ行くよ。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

91)○カメラ・オブスクラ:「暗がりの部屋から、真実を求めるべきではないと、あなたは言う。そうではない。私情を廃し、見たままを描く術があれば良いのです」そう言って、彼は精緻な景色が写し取られたガラス版を示す。画業の師は弟子を撲殺し、写真術はまたもや百年の眠りについた。

92)●選択:A社とB社、どちらの車を購入するか悩む。A社はデザイン、B社は環境性能に優れている。実物を見ても甲乙つけがたい。悩みになやんだ末、霊能者に除霊してもらう。物欲霊に憑かれるとは、今時珍しいですねと言われてしまった。昭和時代には、ありふれた霊だったそうだが。

93)○ベテルギウスの泡:僕は彼女と、星空を眺めていた。オリオン座の一角を占める、超新星が散る瞬間に立ち会えたなら、プロポーズしようと決めていたからだ。それが、今。輝く夜空に照らされた彼女を抱き寄せると、華奢な体が光の泡と化し、虚空に散る。彼女はジャウザーだったのだ。

94)●最後のアクセル:彼はエコドライブの達人。効率を追求し、燃費はリッター五〇キロ以上を叩き出す。エコマスターとしてメディアでもてはやされた彼が、不慮の自動車事故に巻き込まれた。辞世の言葉はこうだ。「こんなことなら、最後に思い切りアクセルを噴かしておくんだった……」

95)○進化は先:研究論文に疲れた夢うつつの中で、天から声が浴びせられる。『進化は先、進化は先』神の言葉だろうか。爆発的に文明を発展させながら、生物としては進化せぬ人類への警鐘だろうか。はっきり目覚めると、電車の中。アナウンスが告げる。『まもなく、新川崎、新川崎……』

96)●初志貫徹:「ぶどうパンあげるから、キスさせてよ」「やなこった」「え? アンタ、ぶどうパンが好物だったじゃない?」「その通り。だからこそ、お前のキスとセットなんて不純は我慢ならん」「むかっ、そんなこと言うなら、ぶどうパン抜きで純粋キッスの刑を執行よ!」「むぐっ」

97)●スマホ:うちの爺さんが、スマホが欲しいと言う。携帯の充電もしないくせに、どんな心境の変化だ? スマスマ騒ぐので、近所のホームセンターへついて行くと、携帯売場をスルーして住宅展示場へ。スマイルホームの、笑顔が素敵な須磨ほのりさんを紹介された。確かにスマホだ……。

98)○EV可能:二十年乗り続けたガソリン車を検分し、業者は言う。「車体は使えます。タイヤをインホイールモーターに、パワーユニットをバッテリーに換装すれば電動化できます」「運転は?」業者が得意げに取り出したのは、ゲーム機のコントローラー。味気ないモータリゼーションだ。

99)●自然が呼ぶ:下腹の鳴動につられ、オフィスを抜ける。たどりついた男子トイレは超満員。階段を下るが、男子トイレ満員。下るが満員。下る、満員。下、満員。下、満。クダッ……********……フゥ。 集団食中毒か? すごい行列だな。ともかく、ズボンをどうにかしたいよ。

100)●雪女:朝、ベランダに薄く雪が積もっていた。「近くに、雪女がいるんじゃない?」ルームメイトが冗談混じりに笑う。雨が降ると、この付近だけ雪になるのだ。「雪女ってか、雨女の雪バージョンよね。それとも雪男?」私も軽く返すが、実は先祖が雪女なのとは冗談でも言えなかった。

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