Twitterで小説を:その81~90 #twnovel

あとちょっとで100本です。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

81)○時空葬:「馬鹿なことはおやめなさい!」開発者の叫びも空しく、故人は冥王代へと転送された。有機物の塊が、原始の海に進化をもたらすのか? 死者のデータが、シミュレーションの海に没して行く。学術的に無価値と言われようと、時空葬は画期的な葬儀パッケージとして大人気だ。

82)●生存保証:余命半年を宣告された闘病生活も、一年をすぎた。生きているのに、生死は曖昧だ。「僕は本当に、生きているのだろうか?」「もちろんよ。ずっとわたしが見守っていてるんだから」枕元で微笑む少女。死神の彼女が保証するなら、生き延びていることに間違いはないだろう。

83)○天動:星の欠片を蒔きながら、天球の底を這いず大穴から逃れようと、駆け出した。一歩を蹴り出すたびに、輝く冷気が間近に迫る。地動説の信奉者は、あれを熱球だと誤解していたという。冷たい円環――太陽に魅了されながらも、黄道を渡りきる。星屑拾いは、命がけの美しい仕事だ。

84)●絶筆:「先生、あと一話。この傑作を完結させてください!」末期ガンの患者へ頼むには、酷だとわかっている。だが、闘病中に連載したこの小説が、間違いなく最高傑作だ。「それで大成功だよ。非才な私には、傑作モドキが精一杯さ」そう嗤って先生は絶命し、未完の傑作は完成した。

85)○新車:エコカーを買いにきたはずなのに、勧められた車は、希望と似てもにつかない。バットで殴りつけ、密林に半世紀放置したような醜悪さ。なのに、どうしてこんな不快な塊に惹きつけられるのか。ディーラーが笑む。「当然ですよ。これは、あなたの欲望を形にした車なのですから」

86)●ホウレンソウ:「結婚しないか?」元同僚の彼女は、俺に険しい視線を返す。「嫌だと言ったら?」「泣く」「泣くの?」「うん」「お腹の赤ちゃんはどうするのよ!」「それ、初耳なんですけど、泣くよ?」職場では腹立たしかった、ずさんなホウレンソウが、今は愛しくてたまらない。

87)○鎧装機巧テンペスタ:軍楽が鳴り響く戦場で、五機が潰された。敵機巧鎧は機動力で勝る。俺は二機に押されるように、河へ脚部を浸した。追撃の二機はしかし、漏水で精霊回路が短絡し、平衡を失う。先日まで、彼らの機巧鎧を駆っていたのだ。あらがう術は熟知している。鎚鉾で討つ。

88)●殺し文句:「あなたが、好きです」告げる彼女がまぶしくて、視線をそらす。「なぜ、僕なんかに告白するんだい?」卑屈だとわかっていても、そう聞かざるを得ない。「……愛に、理由なんて要らないのよ」そう微笑むと、僕が刺した女は血溜りの中で、幸せそうに生きることを止めた。

89)○遅延連絡:超満員の電車内で、耳を疑う。『車内での携帯電話の使用は、お控えください』一時間以上、駅間で停車したままのアナウンス。俺は非常コックでドアを細く開放し、飛び降りる。清々しい気分で携帯を広げ、自社に遅延を伝えた。いかなる時でも、乗車マナーは守らないとな。

90)●面識:コンビニ弁当を手に、駅へ向かっていた時。「おはようございます」スーツ姿の女性に挨拶された。怪訝そうな僕に、彼女は続ける。「暖めますか?」ああ、あのコンビニで、店員だった人だ。「はい、僕の人生を暖めてください」直後に彼女が浮かべた笑みを、僕は生涯忘れない。

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