Twitterで小説を:その31~40 #twnovel

目標は、とりあえず1000本。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

31)■百億: 俺は、人口が百億を越えた日に生まれた。地球の人口は百億以下であるべきだという風潮から、ずっと差別を受けてきた。そんな時に、あの隕石落下だ。人口は一挙に半数以下。いまでは、産めよ増やせよの時代。子作りのノルマを果たしている今も、俺は百億の屈辱を忘れない。

32)■読書屋:契約読者の仕事をはじめた。依頼された本を購入、読書してアンケートに答え、報酬をもらう。本代は会社持ちで、おそらくは依頼主が支払うのだろう。それにしても、依頼されるのは平積みのベストセラーばかり。最近は、出版不況を脱したなどと言われているが、まさか……。

33)■飛翔する船: 深淵に投錨すると、見えざる腕が錨を曳きはじめる。その推力が大気を食み、船は一気に高度を稼いだ。外界船は、気流と深淵流を頼みとする。深淵とは何かと尋ねると、若い女の船長は「頼るべき、不確かなもの」と答えた。船乗りらしからぬ合理性に、私は好感を抱く。

34)■置換: 生きるしかない。決意した私は、楽に生きる手段を模索する。着火は辛いらしい。絞首は漏らすらしい。泥酔して、浴槽内で手首を切る。よし、これで生きよう。おい、全然ダメじゃないか。言われた通り、「死ぬ」を「生きる」に置き換えたけど、生きる気力なんか湧かないぞ。

35)■無能者(むのうしゃ):彼は自他ともに認める、無能な人。任務に無駄な手間をかけ、必要な手間をおろそかにした。その非難を避けるため、昼夜を問わず働き続け、体臭を撒き、能力の限界と主張する。改善の努力は丹念に無視した。ゆえに彼は、自他ともに認める、無能者に相違ない。

36)■見守る理由:確かに異星人は、我々を見守っていた。彼らは我々の未来を賭の対象にしていたのだ。さまざまなリスクを乗り越え、外宇宙への進出を果たすほうには、賭けていなかったらしい。失礼な話だが、今、我々が見守っている地球という惑星の未来は、滅亡するほうに賭けている。

37)■一輪車: 夕闇に、傾ぎながら走る一輪車へ、違和感をおぼえる。乗っているのは子供。道はせまく、車が激しく行き交う。声をかけることすら危うく思え、そのままやり過ごした。違和感の正体に気づいたのは、振り向いた時。その子供には足がなく、車輪の上から半身が生えていたのだ。

38)■鎌倉沈没:東海大震災によって、鎌倉の旧市街が海中に没した。震災当時、私は鶴岡八幡宮の国宝館におり、稲村ヶ崎沖で発見されたという太刀を見学していた。新田義貞が鎌倉攻めの折に、海中へ投じたとされる太刀の真贋はともかく、震災直前に不可解な鳴動をしていたのは確かだ。

39)■死の密林:枯死した命の渦巻く中に、結晶核はあった。命令は、これを持ち帰ること。だが彼は、それを肋骨の隙間から心臓へ埋め込む。投与された抗体が反応し、死の密林に命が弾ぜようとしている。苦痛の中に後悔はない。彼女の死を知った以上、躊躇する理由はどこにもなかった。

40)■右弦:「兄様に何をするか!」若い女が、男をかばって裏町に虚勢を張る。帯刀した男の腕は、知れていた。刺客は握る剣先に、裏暗い誇りを秘めて、奮う。萎縮した男の先に、女が飛び出し、一閃。刺客の首を断ったのは、女の左手が抜刀した男の太刀。邪剣、右弦居合の使い手だった。

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