『GALAPAGOS(ガラパゴス)』に透ける、電子書籍の理想と現実

いつが本当の元年なのか?

昨年は、各所で電子書籍元年だなんだと騒がれていた。でも、ずいぶん前から電子書籍リーダーって売ってなかったっけ? と思うことしきり。普及しなかった実績は、なかったことになるわけか。紙媒体の書籍が利便性に優れているのは確かだし、「紙の本じゃなきゃ嫌だ!」という方が多いのも事実。ただ、個人的にはモニターでテキストを読むのは、苦ではない。モバイル端末でテキストを読む習慣は1990年代後半、NECのモバイルギアが全盛だったころからありますもの。その後も、ウィルコムの京ぽん系ブラウザ搭載端末や、W-ZERO3といった初期のスマートフォン、ウルトラモバイルPCであるWillcom D4などで、テキストを読む行為は続けてきた。最近では、モバイルルーター経由でiPod touchを使うのがマストだった。

でもって昨年末、シャープの電子書籍リーダー『GALAPAGOS(ガラパゴス)5.5型モバイルモデル』を買ってみたわけですよ。長年のウィルコムユーザからすると、ガラパゴスは同じシャープ製であるW-ZERO3やWillcom D4の血脈をひしひしと感じる。尖ったコンセプトに、いまいち垢抜けないデザインとインターフェイス、地味に使いやすいポインティングデバイス。「目の付けどころ」が、まさにシャープな端末。

結論として、ガラパゴスはけっこう気に入ってます。自前の書籍をスキャンする必要もなく、パソコンにつないでダウンロード購入した書籍ファイルを登録する必要もなく、ただガラパゴス本体から「TSUTAYA GALAPAGOS」に接続し、欲しい本を買うという流れはシンプルで良い。それなりに、読みたい本が初期からラインナップされていたのも大きい。コミックスのラインナップが異様に貧弱なこともふくめ、ストアにない本は、従来通り紙媒体で買えばいいわけですし。

ただ、ガラパゴスという端末を気に入っているとはいえ、電子書籍というメディアそのものに多大な期待は持てないというのが現状。理想を言えば、電子書籍は新刊でも旧刊でも絶版でも安価に、瞬時に購入できて在庫切れは一切ナシという供給体制が取れるはず。でも実際は、すべての書籍が電子化されているわけでもなく、たとえ電子化されていても使っている電子書籍サービスが対応しているとも限らない。そして電子書籍化されたものを購入できても、装丁、挿絵などのクオリティが紙の書籍未満ということもある。絶版稀覯本を電子媒体で安価に購入する、などという贅沢を言う前に、新刊本を定価で紙媒体と同等のクオリティで発売日に購入できるという、実現できても何の自慢にもならない体制が整っていない。

たとえば、ガラパゴスストアでもプッシュしている『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』。この本は紙の書籍で大ヒットしているのはもちろん、電子版は紙の書籍版の半額で、大判のカラーイラストを収録し、試し読みもできると、電子書籍としての体裁もしっかりしてる。でも、この本を読んだらまずチェックしてみたくなるであろう、ドラッカーの『マネジメント』がガラパゴスストアにない。もちろん、抄訳であるエッセンシャル版も。『週刊ダイヤモンド Digital』など雑誌系でも、ドラッカーを特集しているというのに、肝心の原典が読めないというのは、どんな大人の事情があるにせよ、納得しがたい現状です。

電子書籍は、安価な供給とか、音や動画が埋め込める、絶版本も出せる、なんてプラスアルファを考える前に、まずは収録内容の面で紙媒体と変わらない電子媒体を、コンスタントに一元供給できる体制を整えるべき。書籍を出版する場合は電子版もかならずセットで出す、ぐらいの仕組みを作らないと、いつまでたっても本当の意味での「電子書籍元年」は来ないと思う。逆に、供給体制が整ってしまえば、閲覧する端末は、使いやすければなんでもいいと思う。iPad対Kindle、ガラパゴス対ソニーリーダーなんてのは、実は些細な小競り合いなのです。

すべての書籍を電子化し、紙の書籍は公共性の高いもの、人気作、著名作など一部に絞る。あと、電子書籍も求めに応じて即座に紙の書籍にできるオンデマンドの出版体制も整備する。読みたい本をいつでも読める、いつでも作品を発表できる。電子書籍は、紙の書籍を駆逐するものではなく、紙の書籍がカバーできない出版の裾野を広げる、電子のフロンティアなのであります。

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