【詩】花――ちっぽけな桜の樹

白石でまぶされた舗装路は、桜吹雪と縁がない。
古刹へといたる路、灰色の電柱を背に、ちっぽけな桜の樹が咲く。
盛りを過ぎた、枝先は緑がち。
虚栄と朽ちはじめた、白紅の衣。
紅色の寂寥を晒す、翼をもがれた花托。
ちっぽけな樹は、今年もちっぽけな満開を終えていた。
背に立つ電柱が悪いのか。
幹は中途で断たれ、枯死した昇天の穂先が、ぞろりとした芯を晒している。
いまは、幹の中腹より分かたれた先から、ちっぽけな春の証を示すのみ。
真正直に育めぬまま咲き、きたる春。
声高に誇れぬまま散り、おわる春。
ちっぽけな桜は、生きている。
ちっぽけな葉に、明日を託して。
ちっぽけな命が、息づいている。
ちっぽけな春よ、またね。

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