【詩】夕暮れ

 水槽で縛られた、ロブスターより紅くない。
 カップに満たされた、コーヒーよりも淡い。
 重くくすんだ陸海空は、黒胡麻の粉を溶き混ぜた牛乳のように、ざらつきながら深みを増す。
 かわりとばかり、ぬくもりを秘めた輝きが、陸海空を染め上げていく。
 玻璃のあちら。
 ぬくもりは、橋の上で彗星の尾を引き、橋の下で銀河がぎらつく。
 玻璃のこちら。
 ぬくもりは、天井から宇宙船を吊り下げ、天井から星座をうがつ。
 黒胡麻の粉が泥濘と化し、仕舞いには、ぬくもりの宇宙的背景と化す。
 わずか、両眼をおぼろげな感覚に任せると、積層された次元の秩序が明らかになる。
 野暮はよそう。
 ぬくもりの宇宙が、玻璃のあちらこちらで再統合される。
 ふとコーヒーで満たされる、干されていたカップ。
 ぬくもりの雫は、これぞロブスターの紅さ。
 迅速に干される、赤黒い液とともに、終焉を迎える、ぬくもりの宇宙。

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