『トルコ狂乱 オスマン帝国崩壊とアタテュルクの戦争』で壮絶なる祖国解放

小説『トルコ狂乱 オスマン帝国崩壊とアタテュルクの戦争』を読了。

トルコ革命における、1921年のサカリヤ川の戦いから、1922年のイズミルを奪還するまでを描いた大作歴史小説。内容も重いけど、物理的にも超重量級の書物でした。西欧列強によって解体されつつあったオスマントルコ帝国からトルコ共和国を誕生させた、のちの初代大統領、ムスタファ・ケマル(アタテュルク)の活躍を軸に、そこで生きた人々を豊富な資料をもとに活写しています。小説なので、著者の創作したキャラクターも登場しますが、実在した人物の発言に関しては出典を明記し、検証を可能にしています。

瀕死の病人といわれたオスマントルコ帝国にかわり、トルコのあらたな指導的立場を標榜するアンカラ政府。ひとつの国にふたつの政府が並立する不安定な状態で、アンカラ政府を打倒するために進軍してきたギリシャ軍を、自国の奥深くに誘いこんで、撃退するさまは手に汗にぎります。武器が不足しているだけでなく、兵士に軍服や靴もそろえられないという、人も物も不足した圧倒的に不利な状況下で、よくぞ勝ったもんだと関心することしきり。多くの血と汗を代償としながらも、国民が一丸となって自国の領土を防衛、開放したという実績は、トルコの方々にとって大いなる自信の源となっているのでしょう。

本作で敵役として登場するのはイギリスとギリシャ、そして彼らにおもねるオスマントルコ帝国の為政者たち。さいごには敗退し、あるものは退陣をよぎなくされ、あるものは亡命し、あるものは処刑されてしまう。でもそれは、資料にもとづく客観的な事実のつみかさねをおこなえば、どちらに非があるかは明白なこと。著者が真に敵とみなしているのは、いま現在のトルコに巣くう、過去を歪曲して都合の良い歴史観を押しつけようとする者たちのようです。是非を論じる自由はあるにしても、前提となる事実にいちじるしいゆがみがあってはならない。本作は、自身の正当性を声高に主張できるだけの力をもった、大作歴史小説だと思います。

むずかしい話はぬきにして、良い弱者が悪い強者を打倒する物語なので、判官贔屓な日本人むきの軍記物ですよ。すべてがあなたの心のままになりますように。トゥルキエ!

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