『鼓動』Twitterで小説を:その161~170 #twnovel

トップツイートから除外されない単語を選択しないと。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

161)●保険交渉:「甲種保険の適用をお願いします」『どういう状況でしたか?』「それが、気づいた時にはもう……」『そういう方、多いんです。では、甲種に直接聞いてみては?』言われるままに、左手の甲を見る。甲種呪詛により仮初めの命を宿した人面瘡は、「知らんね」と鼻で笑った。

162)●コンプガチャ:あと一枚でカードがそろう。端末を握りしめ、新たなカードパックを購入。クズの山を築きながら最後の一枚を開くと、狙う「退」のカード。さっそく合体カード「退会完了」を発動。退会すらコンプを求める鬼畜仕様が好きだったけど、コンプガチャ終了なら未練はない。

163)●不審者情報:【発生時刻】午前0時頃【不審者】黒コートの女性(年齢不詳)【被害者】児童1名【状況】通学中の児童に声をかけた女が、「滅せよ人類の敵め!」などと叫びながら、銀製の杭を児童の胸部に突き立てようとした。児童の反撃により、旧人類は我が夜の眷属へと転化した。

164)●不死者情報:【発生時刻】午前0時頃【不死者】小学生型【被害者】退魔協会職員の女性【状況】警戒巡回中の職員が、児童から転化した不死汚染者と遭遇。駆除を試みたが、不死者は夜の王直属の精鋭であったため、職員は不死汚染を受けた模様。人類は不死者共に屈するしかないのか。

165)●BBQ:毎年、母に連れられて行くバーベキュー大会で、いつも肉を焼いてくれるおじさんがいた。分別がつくにつれ、その人が本当の父ではないかと思うようになっていた。けど、違った。金網の上で、一番美味しく焼けた肉だけを食べるように、けだものが私の肢体をむさぼっている。

166)●木漏れ日:徹夜明けで帰宅中。今朝は932年ぶりの金環日食だが、疲労が蓄積し、空を見上げる気分じゃない。「ほら見て、すごいよ!」子供が指差す地面の先で、木漏れ日が無数の円環を刻んでいる。ピンホールカメラの原理だ。そうか、俯いていても、空を知ることはできるんだな。

167)●新塔:その塔は、串の先端に団子を刺したような形状をしている。「これが、東京スカイツリー?」「こちらでしたら、待たずに頂上まで登れます」「634メートルないよね?」「63.4メートルです」「あの丸い部分の、緑と黒の縞模様は?」「本塔は、東京スイカツリーですので」

168)○御食D亭:アミノ酸にはT型とD型があり、生命体は決まってT型で構成されている。「何でD型の生命体がいないかって? そりゃ美味すぎるからさ」その料亭は、D型アミノ酸で合成された食材の専門店だ。体内で消化吸収されない、美食のための美食として、一部で愛好されている。

169)●冤罪:満員電車の人混みから声がする。「この人、痴漢です!」「何言ってんだ、やってないぞ」声はすれども、当事者たちの姿は見えない。言い争いが続いたが、駅につくと静かになる。窓外を見ると、男が駅員に何事か訴えている。「痴漢です!」「いや違う」実に見事な一人芝居だ。

170)●鼓動:徹夜仕事が続く。「その顔色で大丈夫?」「仕事だしな」そう言って一時帰宅した同僚が、遺体で発見された。死亡推定時刻は、一週間前だという。この忙しさでは、死んだことにも気づくまい。試しに自分の胸に、土気色の手を当ててみる……やっぱりな。さて、仕事でもするか。