Twitterで小説を:その61~70 #twnovel

もう少し、打率を上げたい。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

61)●契約離婚:婚前契約に従い、妻との離婚が成立した。「予定通りとはいえ、離婚は疲れるよ」「でも、不本意な結婚を続けるよりは、良いでしょ?」新居で荷を解きながら、恋人が優しく説く。彼女との相性の良さは実証済みだ。家のしがらみを断ち、今度こそ元妻と恋愛結婚する予定だ。

62)○小説出版:友人が小説を出版した。小規模な自費出版だが、新車が買えるほどの費用がかったそうだ。「評判はどうなの?」出版前は自信満々だった友人は、重くやつれた声で答える。「クソだとけなされる作品のすごさがわかったよ。少なくとも、クソだとけなしてもらえるんだからね」

63)●旋弾:極寒の海峡をはさみ、ふたつの軍事基地があった。猛吹雪の収まった日、両軍の兵士が氷原に対峙する。同時に拳銃を抜き、発砲。9ミリ弾は氷上に爆ぜるが、勢いを失わず、コマのように旋回を続ける。より長く廻した方が勝ち。国の事情はどうあれ、兵たちの関係は良好だった。

64)●積層障壁:篠突く雨に刺されながら、青いコートが俺を圧倒する。細く疾く。それだけを念じ、1024層の形成力場に綻びを見いだす。「拳に纏(まと)え!」十指に握る形成力場が雨滴を加速させ、270度四方から1023層を穿孔。残る1層を、俺のシンプルな暴力が殴り通した。

65)●発熱さん:「こんにちは、発熱です!」頓狂な声を上げて、その女はやってきた。俺が四〇度の熱でダウンしているのをいいことに、掃除や洗濯、料理を勝手に始めやがる。幻覚のくせに、マメな性格だ。大学の後輩に似ている気もするが、「発熱」と「初音」を聴き間違える俺ではない。

66)○涙没:北の国で王が死に、国民は深い悲しみに包まれた。なぜなら、王の死を悲しまぬ者は、みな殺されていたからだ。さらに王は、魔女に呪いをかけさせていた。高らかな呪詛が響くと、あらゆる命が滂沱の涙を流し、街を、畑を、森を、山河を覆いつくす。王国は悲しみの涙に没した。

67)●亡者志願:私は酷薄に生きてきた。群がる奴は邪魔なだけだと思ってきた。そんな私に、あいつは呪いをかけた。いまなら、あれを墓場にたとえる奴の気持ちがよくわかる。自ら志願し、亡者に転生するようなものだ。あの言葉さえなければ。「そんな貴方が好きです、結婚してください」

68)○アララギ・アース:地殻内部の熱ムラが、惑星をたゆませている。大人は移住の相談ばかり。だから僕たちが、この星を救うと決めたんだ。裂孔をくぐり、中心へ。赤く熟した星核炉を再起動できれば、可能性はある。直径五キロのちっぽけな星だけど、それでもここは僕らの地球なんだ。

69)●夜勤:彼の仕事は、年末が繁忙期でした。クリスマスに寂しい思いをしていた、私。家業を継ぎ、働き詰めだった、彼。いまは、彼が遺したこの子のために、私が世界を巡っています。ごめんね、寂しい思いをさせて。あなたにも、ちゃんとプレゼントを届けるからね。メリークリスマス。

70)○穴蔵夢:衝撃とともに腐葉土を頬張る。穴蔵に放り込まれたのだ。奇怪な甲虫の鉤爪が左肩をもぎ取り、右腿を噛み潰し、腹を裂き割った。叫ぶ間もなく覚醒すると、穴の縁にいる。虚ろな術者が、新たな傀儡に俺の意識を植え付け、再び穴蔵に放る。憑依と拷問の複合か、少々厄介だな。