Twitterで小説を:その51~60 #twnovel

「●」はエンターテイメント性重視、「○」は作家性重視で書いてます。

Twitterで書いている、140文字小説のログです。

51)●鏡面:彼が亡くなって、一週間。「無理、してるのかな?」鏡の前で尋ねると、頬杖をついた女が、疲れた表情で左手のリングを見つめる。そっか、忘れてた。彼が亡くなる前に、私たちは結婚したんだ。「うん、私は無理してる」鏡の向こうで、女はやっと、小さな幸福に頬をゆるめた。

52)○岩窟:林立する、石灰の奇岩。目的地は、岩をくり抜いた白壁の住居だった。生活感に彩られた穴居の奥、施錠された扉をくぐると、静謐な空気に震える。ライトアップされたのは、聖母のフレスコ画。保護も受けず、これだけのキリスト教絵画が受け継がれてきたことは、驚愕に値する。

53)●忘年会:「脳味噌、出します!」女子大生の頭が膨らみ、灰色の豆腐を散らして消えた。「すわ、手足分離!」寝ころんだ老人が、両手両足を大根のように外して霧散する。異形の芸に満足した演者たちが、続々と壇上から消滅して行く。幽霊たちの忘年会は、なにげに成仏のチャンスだ。

54)○菓幣:チョコパイ革命に半島が揺れる。工場の支給品に端を発した、チョコパイの高騰は、「貨幣」ならぬ「菓幣」の誕生を意味した。貨幣は価値を喪失し、菓幣を求める民衆の欲求は、民主化革命の漁り火となる。パンがなければお菓子を、お菓子がなければ革命を起こせば良いのだ。

55)●奇月蝕:月の伴星たる伴月は、昏(くら)い。皆既月食を、さらに伴月が遮る今夜だけが、数少ない観測の好機だ。その知識を得たことを、僕は後悔している。今も赤黒い眼球に穿たれた伴月の瞳が、ぎょるりと覗き、僕を蝕んでいる。知って欲しい。伴月に魅入られた者は、儚いのだと。

56)○盗品関与:家の裏手の古墳が盗掘された。学術調査が決まった矢先のことだ。俺はたまらず、親父に詰め寄った。「アンタ、犯人の一味だろう?」「……ああ、そうだ。お前の養育費がどこから出たと思ってる?」「知ってるよ。俺がしたいのはガキの頃、秘密基地にしていた横穴の話さ」

57)●お手:レトリバーと遊ぶ。「この犬、芸はできるの?」「得意だよ」「じゃあ、お……」僕が「お手」と命じる前に、犬はすっと右前足を上げた。掴んで放すと、すかさず左前足を上げる。右、左、右、左と、僕は前足を掴まされ続けた。「こいつ、人に「お手」をさせるのが得意なんだ」

58)○四駆:これは使えるな。その車は片手でつまめる大きさながら、四つの車輪にモーターを内蔵し、スマートフォン経由で操作できる。障害物へ前進を命じると、自動で回避し、壁の手前で停止した。男は満足して計画に組み込む。いまやテロリストも、最新のオモチャを物色する時代だ。

59)●欠点:彼女は魅力的だった。「僕のどこがいいの?」そう尋ねるのが怖くなるほど。かわり尋ねてみる。「僕の欠点って何だろう?」彼女は、唇の端を引いて言う。「わたしが大好きって気持ちを、信じてくれないこと、かな」思わず彼女を抱きしめると、欠点の削げ落ちる音が聞こえた。

60)○大いなる跳躍:「鳥は大空を飛びはしない。翼を大地で休める合間に、とびきり大きな跳躍を繰り返しているだけだ。どれほど飛行時間を重ねようと、それが跳躍であることに変わりはないさ」そう語った宇宙飛行士は、惑星探査の途上で消息を絶ち、いまも大いなる跳躍を続けている。