『イスタンブール―世界の都市の物語』を読んだ

イスラムだけの街じゃない。

陳 舜臣著『イスタンブール―世界の都市の物語』を読了。ヨーロッパとアジアにまたがる、トルコの大都市、イスタンブール。かつてはオスマン帝国の首都だったこと都市は、さらにさかのぼれば、ギリシャ人が造り、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルでもあった。名を変え、主を変えた都市の変遷を、現イスタンブール市内にある、さまざまな史跡から紐解くのが本書の趣旨。

ツアーでイスタンブールの市内観光をすると、定番スポットと言える場所がいくつかある。トプカプ宮殿アヤソフィア博物館ブルーモスク、などです。本書はこれらの場所も網羅しつつ、それ以外の場所の故事来歴についても紹介してくれる。そこで強調されるのが、東ローマ帝国領からオスマン帝国領となって以降も、すべてがイスラム化されたわけではなく、キリスト教、ユダヤ教と言った経典の民も信仰を認められ、共存していたこと。モスクの尖塔が立ち並ぶ、イスラム教徒だけでの街ではないということです。

近代になって、汎イスラム主義、汎トルコ主義に傾倒する以前のオスマン帝国は、ヨーロッパ人が驚くほど、異教徒に寛容であったのです。このやり方が破綻し、実情は多民族でありながら、トルコ民族という仮想的な単一民族を定義した弊害は、「トルコ人と言えることは、なんとすばらしいことか!」という皮肉をこめたスローガンで活写されています。

多面体を立方体の箱に押しこめるような無茶をするのではなく、異質さを尊重した先人の寛容さに学ぶべきなのだろうけど、言うは易くおこなうは難し、なのでしょうね。