『オスマン帝国の近代と海軍』汽缶爆発しょんぼり海軍力

『オスマン帝国の近代と海軍』を読んだ。

薄い本なので、すぐに読破できます。オスマン帝国というと、騎馬民族を母体とするだけに陸軍の強さに目がいきがちですが、すぐれた海軍力で地中海の制海権をえたこともおおきい。とはいえ、トルコ民族は操船術にたけているわけではないので、海賊を提督に任命するなど、「外注」によって強大な海軍力をえた。しかし、中世から近世にうつり、ヨーロッパの技術的優位があきらかになると、敗戦とともに「外注」していた民族がつぎつぎと独立し、オスマン帝国海軍は弱体化の一途をたどる。本書はオスマン帝国末期の海軍の窮状に注視しています。

日本が明治以降、海外からまねいた軍事顧問を師としながらも、みずからの力で海軍力をたかめたのに対し、オスマン帝国は軍事顧問をまねいても、自国の技術として消化しようとするする意志がなく、いつまでも「外注」にまかせきり。とくに、海事関係で大きなはたらきをしていたルーム人(ギリシャ人)が独立すると、自国内のルームは信用できないけれど、それでも船をうごかすためにはルームにたよらざるをえない。スルタンの肝煎りで──予算を無視して──そろえた近代的な軍艦も、維持費がかさむと20年間ほっぽっておいて、いざ戦争だかとらうごかそうとしたら、汽缶は爆発するわ、大砲を撃ったら破損するわ、座礁するわのていたらく──でも陸軍が勝ったのでことなきをえた。

日本とトルコ友好の契機となった「エルトゥールル号」の座礁、沈没事件にしても、このように低下しまくった海軍力にもかかわらず、イスラム世界の盟主としての力を誇示するために日本への派遣を強行し、さらに日本側の忠告を無視して、台風へ突っ込んだすえの末路だったそうです。

トルコ狂乱 オスマン帝国崩壊とアタテュルクの戦争』を読んだときも、よくこの窮状からトルコ共和国への独立を勝ちとったものだと感心しましたが、本書からもオスマン帝国末期のしょんぼりぶりがみてとれる。時流に即してベストをつくせば、世界帝国も築けますが、そこからはずれて改善する自浄努力をおこたれば、どういう末路をたどるか──日本もまた航空戦力への転換を徹底できず、大艦巨砲主義にこだわったすえに果てた国であるだけに、おおいに学ぶべき点のある良書です。