白石でまぶされた舗装路は、桜吹雪と縁がない。
古刹へといたる路、灰色の電柱を背に、ちっぽけな桜の樹が咲く。
盛りを過ぎた、枝先は緑がち。
虚栄と朽ちはじめた、白紅の衣。
紅色の寂寥を晒す、翼をもがれた花托。
ちっぽけな樹は、今年もちっぽけな満開を終えていた。
背に立つ電柱が悪いのか。
幹は中途で断たれ、枯死した昇天の穂先が、ぞろりとした芯を晒している。
いまは、幹の中腹より分かたれた先から、ちっぽけな春の証を示すのみ。
真正直に育めぬまま咲き、きたる春。
声高に誇れぬまま散り、おわる春。
ちっぽけな桜は、生きている。
ちっぽけな葉に、明日を託して。
ちっぽけな命が、息づいている。
ちっぽけな春よ、またね。
「小説」カテゴリーアーカイブ
【詩】夕暮れ
水槽で縛られた、ロブスターより紅くない。
カップに満たされた、コーヒーよりも淡い。
重くくすんだ陸海空は、黒胡麻の粉を溶き混ぜた牛乳のように、ざらつきながら深みを増す。
かわりとばかり、ぬくもりを秘めた輝きが、陸海空を染め上げていく。
玻璃のあちら。
ぬくもりは、橋の上で彗星の尾を引き、橋の下で銀河がぎらつく。
玻璃のこちら。
ぬくもりは、天井から宇宙船を吊り下げ、天井から星座をうがつ。
黒胡麻の粉が泥濘と化し、仕舞いには、ぬくもりの宇宙的背景と化す。
わずか、両眼をおぼろげな感覚に任せると、積層された次元の秩序が明らかになる。
野暮はよそう。
ぬくもりの宇宙が、玻璃のあちらこちらで再統合される。
ふとコーヒーで満たされる、干されていたカップ。
ぬくもりの雫は、これぞロブスターの紅さ。
迅速に干される、赤黒い液とともに、終焉を迎える、ぬくもりの宇宙。
『駱駝祥子』車夫すら続けられない車夫
よくてもだめ、わるくてもだめ、この家業の行きつく先は死あるのみ。
老舎著『駱駝祥子(らくだのシアンツ)』を読んだ。ネタバレ注意。中国、北平(北京)を舞台に、無学だが頑強で実直な青年、祥子(シアンツ)が、人力車の車夫として苦闘する物語。祥子は賃貸しの人力車を引きながら金をため、自分の俥を買う。だが、軍隊に強制連行され、俥を失う。駱駝3頭を奪って軍を脱走し、売った駱駝を元手にふたたび俥を買おうと働きはじめるが、そこから彼の転落人生がはじまる。
車夫が主人公の作品としては、『無法松の一生』が有名ですが、車夫の生活については『駱駝祥子』のほうが詳しい。無法松の松五郎が、高潔なまま車夫として散るのに対し、駱駝の祥子は、現実に打ちのめされ、おめおめと生きつづけていく。祥子の末路を見るにつけ、不運だったとも思えるし、もうちょっと上手く立ちまわればよかったのではとも思える。ここらへんのバランスが絶妙で、最低ランクの車夫すら続けられなくなる祥子の姿には説得力があります。
志を砕かれ、堕落する主人公。身につまされる物語だなあ。
ライトノベルを大量入手
勉強のため、ライトノベルを大量入手。
買ったり、借りたり、もらったりで結構な量に。自己流の文章表現を追求するだけでなく、今様の書き方を学びたいのです。
まずは、有名どころの1巻を押さえておこう。
愚直な軍人一家『楊家将』
愚直すぎて損ばかり。
北方謙三著『楊家将』を読んだ。中国では『三国志』や『水滸伝』とならぶ人気を誇るそうだけど、日本ではマイナーな『楊家将演義』を典拠とした軍記物。北宋時代に有名を馳せた、楊業率いる楊家軍の活躍を描く。もとは北漢に仕えていたが、あまりにも主君がダメダメだったので、仕方なく北宋に鞍替えし、北漢滅亡後は北方騎馬民族国家、遼との最前線に立つ。
根っからの職業軍人である楊業は、戦は滅法強いけど、政治的な駆け引きには疎い。愚直すぎて損ばかりしていますが、楊家軍の勇名は敵味方に轟き渡っている。ライバルである遼にも、耶律休哥(やりつきゅうか)という名将がいて、両者の勢力が、ともに抜きん出た強さを誇る。
対立する北宋と遼は、美点も欠点もある組織として描かれ、一概にどちらが正しい、強いとは言えない所が秀逸。シンプルで読みやすい文章は、とても参考になります。
村上春樹風に語る『クイックハルト』刊行3周年スペシャル
2006年に、SF小説『クイックハルト』を刊行してから3年が経過。
未来の仮想世界を舞台に、バトルをしてみたり巨乳のヒロインにメロメロになったりするハナシ。販促にと、本書を献本し、レビューしてもらうという企画をやったら、けっこうな数のレビューをいただきました。
9月11日は毎年、拙著の宣伝をする日にきめているので、今年もやっちゃうよ。むやみとインパクトアリな記事タイトルを標榜して、以下のモノをかんがえたんだけど、けっきょく去年を踏襲。
これでいいのかクイックハルト
クイックハルトに日本の良心を見た
レアでモダンなクイックハルトを完全マスター
だれが「クイックハルト」を殺すのか
誰か早くクイックハルトを止めないと手遅れになる
クイックハルトの嘘と罠
大学に入ってからクイックハルトデビューした奴ほどウザい奴はいない
今の俺にはクイックハルトすら生ぬるい
どうやら、ちょっと酩酊ぎみみたい。よっぱらったついでにネットを散策したら、こんなスレッドに遭遇。
そんなこんなでクイックハルトを、こんごともヨロシク~。
小説とアニメ文庫で『吾輩は猫である』
夏目漱石著『吾輩は猫である』を、Nintendo DS『DS文学全集』にて読了。
明治時代、日露戦争直後の日本を舞台に、名前はまだない「猫」の視点から、ひとびとの生活を活写する古典的名作。学生時代に挑戦して、読み切れずに断念したおぼえがあるのだが、こんかいは最後まで読めました。僕にとって『吾輩は猫である』っていうと、じつは小説ではなくむかしやってたアニメスペシャルのほうが印象深い。いまだにアニメ文庫が家にありますし。
アニメ版だと、世間知らずな「猫」が、人間社会を観察するかたわら、猫社会でたくましく生きていく猫パートと、青年寒月君が金田令嬢と身分違いの恋を成就させる人間パートを平行して描いており、たいへん好きなアニメでした。いまのところDVD化してないようだけど、ぜひ再見したい。
で、こんかい読んだ小説ですが、アニメ版が人猫ともに身の丈にあわない恋を成就させるというテーマで統一されているのにくらべ、原作小説はこれといった大きな事件はおこらない。猫パートはヒロインやライバルになりそうなキャラは早々に登場しなくなるし、人間関係も寒月君は無理をしない。というか、いい年したインテリ崩れのおっさんどもが、ダラダラだべっているシーンが延々と描写されるだけ。こりゃ、学生時代に断念するわけだ。SF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」と映画「ブレードランナー」以上に、まったくの別物です。
内容が軽妙洒脱なわりに、文章が大時代的──明治時代の作品ですから当然ですが──で、辞書をひきながらでないと理解できない単語が満載。それじゃ、つまらないかというとそうでもなく、じっくり読ませる美麗な筆致。逆説的ですが、現代人には難解でストーリーにほとんど起伏がないにもかかわらず最後まで読めてしまう、超絶ハイクオリティな雑談といった感じです。
(前略)世の中にはこんな頓珍漢(とんちんかん)な事はままある。強情さえ張り通せば勝った気でいるうちに、当人の人物としての相場は遥(はる)かに下落してしまう。不思議な事に頑固の本人は死ぬまで自分は面目(めんぼく)を施こしたつもりかなにかで、その時以後人が軽蔑(けいべつ)して相手にしてくれないのだとは夢にも悟り得ない。幸福なものである。こんな幸福を豚的幸福と名づけるのだそうだ。
本書に登場する「猫」は上記のごとく、2歳たらずのヤングキャットのくせして、ものすごい含蓄のあるインテリキャットでもある。どうやら、この世界の猫には人間の思考を読みとる超能力があるらしいのだが、それにしてもわずか2歳にしてこの辛辣で博覧強記な才猫っぷりは、只猫ではない。なかのひとが明治の文豪とはいえ、ニャンコに国語力でうちのめされるのは、新鮮な経験でした。豚的幸福ではなく、猫的不幸をあじわいながら、おめおめと生きていきましょう。ニャ~。
『トルコ民話選』忠告は、まもらないのが基本
いまも今、たったいま。ひとりのよっしいが『トルコ民話選』を読んだ。
トルコの民話で世界的に有名なのは、なんといっても『ナスレディン・ホジャ』という、とんちの利いたおじいさんなのですが、本書ではあえてそれ以外の民話に焦点をあてている。トルコ語と日本語訳が併記されているので、オリジナルの雰囲気をあじわえます。
主人公が機転をきかせて富や名声、美女をゲットする展開は世界共通。ただ、日本の民話とちがうなと思うのは、「やってはいけない」と忠告されたことは、「とりあえずやってみろ」が基本なところ。『浦島太郎』は、乙姫からもらった「けっしてあけてはならない」玉手箱をあけて、おじいさんになるのがオチ。でもトルコの民話は、失策による逆境から栄光をつかむはなしが多い。ペナルティはあっても、挽回可能なのです。
たとえば『ロバの頭(EŞEK-KAFASI)』という物語は、子供がさずかるといわれてもらった魔法のリンゴを、ほんとうは夫婦で半分こしないといけないのに、うっかり夫が全部たべてしまい、妻の腹から子供ではなく、夫の腹から「ロバの頭」が息子として出てくる。この、ロバの頭が主人公になって物語が展開します。コレでちゃんとハッピーエンドになります。
生の民話らしく、残酷な展開もあり、日本の民話と共通するパターンもありますが、意表をつかれる展開もあり、なかなかにたのしめる民話集です。満足。
僕も望みがかなったので、みんなも望みをかなえましょう。←テケルレメ(きまり文句)ふう
『円卓の姫士!』コミックス2巻ゲット
丸山トモヲさんのコミックス『円卓の姫士!』コミックス2巻を購入。
美少女能力者バトルも、新キャラ大量投入でにぎやかになってきました。貧乳という、巨乳至上主義の作品世界内では、重大なハンディキャップをもつヒロインが、意外とストイックに闘っているすがたが渋カワイイです。
丸山トモヲさんは拙著『クイックハルト』の挿絵も担当していただいているので、こちらもよろしくです。